2年前、スポーツ界最高のカムバックとうたわれたタイガーのマスターズ優勝。5度目のグリーンジャケットに袖を通した彼は半年後、日本の地で新規トーナメントZOZOチャンピオンシップの初代王者に輝いた。その大会で2位に終わった松山は「来年絶対にリベンジする」と語りタイガーの連覇阻止を胸に誓った。
しかし翌20年はコロナの影響で開催がアメリカ本土となり2年ぶりに習志野CCで行われた大会にタイガーの姿はなかった。だが松山は有言実行でリベンジ勝利を成し遂げ「タイガーと同じ道をたどれてうれしい」とマスターズ→ZOZO勝利の方程式に満足げな笑顔を見せた。
最終日の18番パー5。2打目で5番ウッドを握った松山は目の覚めるようなスーパーショットでピンそば3.5メートルに2オン成功。解説席の丸山茂樹が思わず「おめでとうございます」というほど圧巻の1打に「ここぞというときにこういうショットを打てるのはタイガーしか見たことがなかった」と感嘆の声を漏らした。
松山本人は後続を2打リードして迎えた最終ホールでもまだ優勝は確信できず「あれ(2打目)でようやく勝てると思った」と振り返る。結果はイーグル締めで5打差の圧勝。
丸山のいうように全盛期のタイガーは「ここで決めて欲しい」というときに必ず期待に応えてくれた。それこそがスーパースターたる所以である。しかもトーナメントをリードした瞬間一気にギアをトップに上げて他の追随を許さなかった。
18番のセカンドショットといい終盤一気にギアチェンジしてバーディを積み重ね、最後をイーグルで締めただひとり異次元の世界に到達した松山の姿は全盛期のタイガーを彷彿とさせるものがある。
まだツアー7勝とタイガーの82勝には遠く及ばない。しかし日本人が勝てないと言われてきたメジャーを制覇し不可能を可能にしてきた松山にはタイガーイズムの片鱗が見え隠れする。
10年近く前、データを平均的に上げて世界ランク1位になったルーク・ドナルドがいた。その頃大学生だった松山はきっぱりと「ルークのようなナンバー1にはなりたくない」と言った。目指すのは圧倒的な力を持つタイガーのような存在。荒削りでも未知の可能性を秘めた大器の思いの一端を知り、いずれ世界に羽ばたくに違いないと感じた。
しかし本当にタイガーの足跡を踏襲する存在になるとは当時思いもしなかった。タイガー世代はこぞってタイガーを目指すがマスターズからZOZOへの道を踏襲したのは松山だけ。
自らに課した高いハードルを超えながら彼はきっとメジャー2勝目を挙げるだろう。チェ・キョンジュの持つアジア勢最多勝利「8」もほどなくクリアするだろう。日本が誇る逸材の評価はもっと高くていいはずだ。