2月に起きた自動車事故で、選手生命を脅かされる重症を負ったタイガー・ウッズが、愛息のチャーリー君と出場したことで話題を集めたツアー外競技の「PNC選手権」。最終日に、11連続バーディーと猛追し2位となったウッズ組を抑えて優勝したのは、息子のジョン・デーリー2世とペアを組んだジョン・デーリー組だった。
最近のファンには知られていないかもしれないが、96年にタイガー・ウッズがデビューする以前、飛ばし屋の名をほしいままにしていたのがジョン・デーリーだった。91年の全米プロで、ニック・プライスが試合直前で出場をキャンセルしたことで、補欠9番目のデーリーに出場権が下りてきて、急遽会場まで車を飛ばして駆けつけたエピソードは有名だ。
会場に到着したのは大会初日の朝で、練習ラウンドはおろかスタート前に球を打つ時間もなかったというドタバタながら、なんと初優勝をメジャーで達成。絵に書いたようなアメリカンドリームを実現し、人気が爆発した選手だ。デーリーはセント・アンドリューズ・オールドコースで行われた95年の全英オープンでも優勝しており、紛れもないトップ選手として君臨していた時期もあった。
アルコール依存症とプライベートのトラブルで、波乱のキャリアを積んで来たデーリーは、2017年にシニアツアーで優勝するものの、過度の体重の増加や2020年には膀胱ガンを公表するなど、健康面が常に不安視されていた。それだけに、息子に負けない好プレーを見せた今回の優勝は往年のファンにとっても嬉しいものだったろう。
ジョン・デーリーのスウィングの特徴は、なんと言ってもトップで右脇が大きく開き、クラブヘッドが顔の左前まで垂れるほどのオーバースウィングだ。今ほどコンパクトなスイングが多くなかった90年代においても、デーリーのオーバースウィングは異彩を放っていた。その豪快なスウィングで、300ヤード以上飛ばしファンを魅了したデーリーだが、今週は往年の活躍を彷彿するような、振り抜きの良さを見せていた。
いっぽう、ジュニア大会で頭角を表しているという息子のジョン・デーリー2世は、出で立ちこそ父親に似たふてぶてしい感じを持ち合わせているが、そのスウィングは父親とはまるで似ていない、コンパクトなスウィングだ。フェースをそれほどシャットに使わないところ、切り返しからの踏み込みなど、父デーリーを思わせるところはあるが、実に現代風のプレーヤーに見える。
このへんは、スウィングもリズムも立ち振舞もタイガーに瓜二つと言われるチャーリー君とは好対照だ。やはりスウィングのかたちはDNAだけで決まるものではなく、チャーリー君は、タイガーたらんとして、そのスウィングや所作をお手本にしているのだろう。
とはいえ、ジョン・デーリー2世は、飛ばし屋であるだけでなく、じつは天才的なショートゲーマーでもだった父親の柔らかな手首使いを思わせるセンスの良さがある。そう遠くない将来、彼がPGAツアーで活躍する時代が訪れるかもしれない。