ドライバーのヘッド素材がステンレスからチタンに変わって約25年。いまやドライバーのほぼ100%がチタンフェースを採用しているなか、テーラーメイドがフェースに全面的にカーボン素材を使った新ドライバーを発表した。その名も「ステルス」。22年間アイデアを温め、秘かに開発を続けてきたという「カーボンウッド」の性能を解き明かしていこう。
画像: チタンドライバー進化の裏でカーボンフェースのプロジェクトは進行していた。そして22年の時を経て遂に完成!

チタンドライバー進化の裏でカーボンフェースのプロジェクトは進行していた。そして22年の時を経て遂に完成!

硬くて軽いフェースを重いボディが後ろから押す

ほぼ100%のドライバーがチタン合金を使っているフェース部分にカーボン素材を採用したというテーラーメイドの新ドライバー『ステルス』。従来の常識を覆してフェースをカーボンにするメリットはいったいどこにあるのか。東京工業大学の宝田亘助教に話を聞いた。

「カーボンは、チタンと比べると軽くて硬い素材です。従来は、軟らかく伸びる素材であるチタンのフェースがインパクト時にたわむことでボールの変形を抑えエネルギー効率を高めていました。しかし硬いカーボンをフェースに使うということは、これとはまったく逆の発想ですから、すごい挑戦だと思います」

本来、インパクト時には物体の変形がないほうがエネルギー効率は高いが、フェースが硬いとボールが潰れすぎ、エネルギーロスを起こしてしまう。そのためフェースを軟らかくし、いわゆるトランポリン効果で初速を高めていたわけだ。

「フェースを硬いカーボンにすれば、従来捨てていたエネルギーもボールに与えることができますが、ボールが潰れすぎるとボール初速の向上にはつながりません。推測ですが、ボディの変形などを利用して“受け”を作り、エネルギーを蓄えているのでは。フェースが変形しなければスイートエリアは広がり、方向性はよくなるはず。従来と逆の発想を捨てず、出口があると信じて20年間研究費を注いできた研究者とメーカーは、すごいですね」

一方、テーラーメイドのプロダクト担当・高橋伸忠氏は、「ステルス」の開発ではカーボンの軽さを重視してきたと話す。

「カーボンの採用で、チタンよりもフェースを約半分の重量に軽量化できたんです。これによってフェースを軽く、ボディを重くできるわけですが、これで“動的な”慣性モーメントの向上を実現しました。スウィング中、ヘッドは静的=止まった状態ではなく動的=動きながらインパクトします。この場合、慣性モーメントの数値が同じでも、後方が重いヘッドのほうがボールを後ろから押せるので、ボールを勢いよく弾き出せる。ヘッドがグラつかず、高い伝達効率で飛ばすことができるんです」

軽くて硬いフェースがインパクト時にストッパーとなり、重いヘッドが後ろからそれを押し込む。これがカーボンフェースの効果と言えそうだ。

画像: 2000年からカーボンフェースの開発を続けてきたというテーラーメイドだが、実は2013年に発売した「グローレリザーブ」で一度カーボンフェースを市販ドライバーに採用していた。その経験が「ステルス」に生かされているという

2000年からカーボンフェースの開発を続けてきたというテーラーメイドだが、実は2013年に発売した「グローレリザーブ」で一度カーボンフェースを市販ドライバーに採用していた。その経験が「ステルス」に生かされているという

フェースをカーボンにする4つのメリット

①フェースを軽く、硬くできる
チタンよりも軽いためフェース部分を約半分の重量に軽量化でき、そのぶんヘッド後方を重くできた。また弾性率が高い(硬い)ためインパクト時のエネルギーロスが生じにくい

②設計の自由度が高い
カーボン繊維をシート状にし、それをどういう向きでどのように重ねるかによって素材の特性を自在に設計できる。「ステルス」ではカーボンシートを60層重ねたという

③熱を入れずに成型できる
鍛造や鋳造で成型するチタンと異なり、低温成型(百数十度)できるため熱ひずみが起こらず、均一性が高い。そのため製品精度が高く、個体差もほとんど生じない

④打球の方向、安定性が高まる
インパクトでフェースが変形しないことに加え、ヘッド後方を重くできるのでインパクト時のヘッドのグラつきが抑えられ、高い方向安定性を実現できる

解説/東京工業大学・宝田亘助教授

「ステルス」に搭載された5つのテクノロジー

画像: 60層も重ねたカーボンフェースにPUコーティングとグルーブ加工を施し、ウェットコンディションでも最適なスピンを実現する

60層も重ねたカーボンフェースにPUコーティングとグルーブ加工を施し、ウェットコンディションでも最適なスピンを実現する

画像: 「SIM」シリーズから採用された「イナーシャジェネレーター」をさらに進化させて搭載(写真上) 「M3」「M4」から受け継がれている「ツイストフェース」をカーボンフェースにも採用(写真下)

「SIM」シリーズから採用された「イナーシャジェネレーター」をさらに進化させて搭載(写真上)
「M3」「M4」から受け継がれている「ツイストフェース」をカーボンフェースにも採用(写真下)

画像: 「ステルスプラス」には10gの「スライディングウェイト」を搭載(写真上) 「貫通型スピードポケット」を採用し、さらなる高初速を実現(写真下)

「ステルスプラス」には10gの「スライディングウェイト」を搭載(写真上)
「貫通型スピードポケット」を採用し、さらなる高初速を実現(写真下)

どれも高初速・低スピン弾道の高さで選べる

画像: どれも高初速・低スピン弾道の高さで選べる

『ステルス』シリーズは、スタンダードモデルの『ステルス』のほかに、つかまった高弾道が打ちやすい『ステルスHD』、スライディングウェイトを搭載した『ステルスプラス』の3モデルがラインナップされている。この3モデルをおなじみ横田英治プロに試打してもらった。

「どのモデルも、すごくボール初速が出ています。そして低スピン。“高初速・低スピン”という飛びの条件が2つそろっているわけですから、すごいポテンシャルを秘めていると思います。しかも低スピンということは、ミスヒットなどでボールの回転軸が傾いた場合でも曲がりにくい。まさに“飛んで曲がらない”ドライバーだと思います」

これに加えて横田プロが驚いたのは、打感。過去のカーボンフェースドライバーはいずれも「ボコッ」というこもった打球音で飛んでいる感じがしないものばかりだったが、この「ステルス」シリーズはそれを完全に払拭したという。

「チタンの打感とは少し違いますが、フェースにボールが吸いつく心地よい打感で、飛んでいるという感触がちゃんとします。3つのモデルは弾道が高い順に『ステルスHD』『ステルス』『ステルスプラス』となっているので、求める弾道の高さで選べば、誰もが高初速・高打ち出し・低スピンで飛ばせると思います」

【STEALTH】軽いフェードで飛ばせる。叩いても左が怖くない 

画像: 「中弾道で、素直に打つと自然なフェード。初速が速く、多少芯を外しても初速が落ちないし曲がらないうえ、左に行く感じがしないので思い切って叩けます」

「中弾道で、素直に打つと自然なフェード。初速が速く、多少芯を外しても初速が落ちないし曲がらないうえ、左に行く感じがしないので思い切って叩けます」

〔ヘッド速度〕48.3m/s 〔初速〕72.7m/s 〔ミート率〕1.51
〔スピン量〕1805rpm 〔打ち出し角〕12.0度 〔キャリー〕268.8㍎ 〔トータル〕301.2㍎
 
ヘッドスピード48.3m/sに対して72.7m/sという驚異のボール初速。打ち出し角12度とやや低めだが、約1800rpmの低スピン弾道でボールが前へ伸びていく。トータル300㍎超えのビッグドライブが出た

【STEALTH HD】ヘッド速度が遅めでも“飛ぶ”弾道が打てる

画像: 「見た目はスタンダードモデルと区別がつかないきれいな顔ですが、打ち出しは明らかに高い。つかまりもよく、パワーのない人でも高弾道・低スピンが打てます」

「見た目はスタンダードモデルと区別がつかないきれいな顔ですが、打ち出しは明らかに高い。つかまりもよく、パワーのない人でも高弾道・低スピンが打てます」

〔ヘッド速度〕48.2m/s 〔初速〕71.8m/s 〔ミート率〕1.49
〔スピン量〕1993rpm 〔打ち出し角〕12.5度 〔キャリー〕265.6㍎ 〔トータル〕299.1㍎
 
スタンダードモデルよりも打ち出し角がやや高く、バックスピンも200rpmほど多いので球が上がりやすく、ヘッドスピード遅めの人でも飛ばせる。それでもバックスピンは2000rpm未満と非常に低スピン

【STEALTH PLUS】ヘッド速度45m/s以上あると性能を出し切れるモデル

画像: 「かなりの低スピンで、ヘッドスピードが45m/s以上ないとドロップしそう。そのぶんハードヒッターにとっては強いライナーで狙ったところに飛ばせます」

「かなりの低スピンで、ヘッドスピードが45m/s以上ないとドロップしそう。そのぶんハードヒッターにとっては強いライナーで狙ったところに飛ばせます」

〔ヘッド速度〕47.4m/s 〔初速〕71.3m/s 〔ミート率〕1.50
〔スピン量〕1559rpm 〔打ち出し角〕11.8度 〔キャリー〕262.5㍎ 〔トータル〕299.6㍎
 
打ち出し角11.8度の中弾道で、バックスピン1559rpmと超低スピン。ライナー性の直線的な弾道でランも多く出る。ヘッドスピードが不足するとキャリーが出にくいがハードヒッターほど性能を引き出せるだろう

月刊ゴルフダイジェスト 3月号より

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