週刊ゴルフダイジェスト、月刊ゴルフダイジェストで語ってきた本人の話を振り返り、その展望を占う。
4年ぶりの優勝の優勝を果たした2021年のマスターズ
昨年のマスターズ優勝まで、松山はそのキャリアの中でまさにどん底にいた。2017年以降、4年近く未勝利状態。優勝争いに絡む試合があっても、必死につないで、つないでなんとか優勝争いをしているような状態だった。
「正直、勝てない時期の1、2年間は、『まあ、勝てるだろ』と高をくくっていたところがあって、楽観的に考えていました。でも、19年、20年になってもなかなか思うような成績が出なくて……。コロナになる前に2週連続トップ10に入ったことがあったんですが(20年3月)、そこで勝てなかった時点で、『あぁ、もう勝てなくなるのかな』と思っている自分がいました」(松山)
自信を失っている状態の中で、昨年のマスターズ直前、松山英樹の中にある変化が訪れたのだった。
「オーガスタに入って、前の週にやっていたことと、その前の週にやっていたことがすごくマッチしたんです。オーガスタで練習をしていく中で、頭の中がすごくクリアになったというか、自分への期待度もどんどん上がっていたんです。『これなら勝てるかもしれない、勝てなくても絶対に上位にはいる、優勝争いはできる』って」(松山)
実際に松山は、昨年のマスターズの練習日の会見で、「調子がいい」という言葉を口にしていた。誰よりも自分の発言に慎重な男が、調子のよさに触れたのは非常に珍しいこと。よっぽど自分の中に手ごたえがあったのだろう。
「考えることが少なくなったというのがいちばん大きいですね。今までだったらスウィングのことを考えるだけでなく、それにプラスして球筋をどうするのかを考えていたんですが、あの週は考えることが本当に少なくなっていました。目澤さん(コーチ)と一緒にやり始めて、目澤さんの言っていることもすごくよくわかるし、実際にそこにフォーカスして取り組んできたんですが、いっぽうでそれによって自分をなくしているところもあるのかなと思っていたんです。それが何の拍子かわからないのですが、マスターズ前週のテキサスオープンで時間をかけて練習していたら、『なんかいい感じだな』というのを自分の中に見つけたんです。その試合ではダメでしたけど、オーガスタに移動した瞬間に、『ああ、だからこうなるんだ』とパターまで含めて、こう全部がつながっていく感じがあったんです。そこで、『あ、戦えるな』って思えるようになったんです」
実際に、昨年のマスターズでは、試合期間中はずっと、「スウィングの迷い」が消えていたという。
「けっこうシンプルでしたね。クラブを上げるときは、ここ(テークバック)とリズムだけという感じでした。意識していたとしても、1カ所、2カ所……、あっても3カ所ぐらい。普段はアドレスだけで多分4つぐらいありますから(笑)。まぁでも、考えることがどんどん減っていけばいくほどやっぱり調子が良くなるのはありますよね。考えることが1、2個だったら、すごくシンプルですから、調子がいいという発言にもなると思います」
記憶に新しいと思うが、マスターズの4日間を通して松山英樹のショットは安定していた。本人がベストショットと認めている最終日の最終18番ホールのティーショットは、まさに彼が長年取り組んできたスウィングが結実した瞬間だった。
結果が出なくてイライラしている自分がいた「よかった。腹が立つんだ」
昨年はマスターズ優勝後、7月のオリンピックでメダル争いに絡み、10月に日本で開催されたZOZOチャンピオンシップで優勝を果たした松山英樹。そして今年になっても1月のソニーオープンで優勝を遂げ、目標としていたアジア人最多の米ツアー8勝目にたどり着いた。この男、メジャータイトルを取っても、その闘志が燃え尽きることはないのだろうか。
「そうなる(モチベーションが下がる)んじゃないかと、自分自身も心配していました。でも、マスターズ優勝後、最初に出場した試合で結果が出ないことに腹が立っている自分がいて、『ああよかった、自分は変わってなかった、腹が立つんだ。やっぱりゴルフが好きなんだ』と思えたんです。そこで『勝ったからいいや』って思うようだったら多分ゴルフをやらなくなっていたはず。でもその時は本当に腹が立ったし、イライラしながら練習もしていたし、その姿を客観的にとらえて、『ああよかった』と思っている自分がいました」
そのいっぽうで、10月のZOZO以降は、1月頭のハワイの試合まで約2カ月間のオフを取るなど、少し気持ちに余裕も生まれていた。つねに試合に出続けていた松山からすれば、それは珍しいことだった。
「3週間以上クラブを握らないことなど今までなかったですからね。ZOZOで優勝してからまだ1回もクラブ触っていないですし、そういうことが平気でできるようになっています。休むのはプラスなこと? いやいや、絶対マイナスですよ。体を休めるには必要な時期だと思っていますが、でもさすがにちょっとやばいかなと」
本人の焦りの発言とは裏腹に、松山の調子は落ちることはなく、休み明けのソニーオープンの今季2勝目は、彼の強さをさらに印象付けた。まだまだもっと勝つんじゃないか、マスターズに向けて、否が応でも期待は高まってくる。
「(調子が)毎試合山のてっぺんだったらいいんですけど、『ピークが下がったところでどこにいるか』がすごく大事なので、そこの基準が上がれば、調子が悪くてもパーッと勝てるかもしれないと思っています」
コースの全長が伸びて、その戦い方にも大きな変化が出てくることが予想される。果たして松山は、再びグリーンジャケットに袖を通すことができるのか? 期待を込めて、見守っていきたい。
松山英樹
1992年2月25日生まれの30歳。
10年のアジアアマで優勝し、11年のマスターズでローアマに輝く。
13年にプロ転向し、賞金王に。
14年から米ツアーに本格参戦し、メモリアルトーナメントで初優勝。
その後WGCを含む、5勝を挙げる。
21年4月のマスターズで、日本人初のメジャー制覇を遂げた。
同年10月、ZOZOチャンピオンシップを制し、今年1月にはソニーオープンで優勝。
アジア人最多となる米ツアー8勝を挙げた。