2001年、初挑戦にしてそれまでの日本人初の2桁アンダー、歴代最高成績となる4位タイという功績を残した伊澤利光。優勝争いはタイガー・ウッズを含む、そうそうたる面々だった。当時を振り返りつつ、マスターズ勝者に求められるものとは何かを考える。
画像: 伊澤利光 1968年生まれ、神奈川県出身。 89年にプロ転向し、ツアー16勝。 01年、03年と2度の賞金王。01年のマスターズで 当時日本選手最高の4位タイに入り、 アーノルド・パーマーから「キング・オブ・スウィング」と称賛された

伊澤利光
1968年生まれ、神奈川県出身。
89年にプロ転向し、ツアー16勝。
01年、03年と2度の賞金王。01年のマスターズで
当時日本選手最高の4位タイに入り、
アーノルド・パーマーから「キング・オブ・スウィング」と称賛された

オーガスタで肌で感じたタイガーとの差

2021年、松山英樹が日本人として初めてグリーンジャケットに袖を通すまで、「マスターズ」における日本人の上位の成績は、2009年片山晋呉の4位そして、01年に伊澤利光がマークした「4位タイ」だった。その年の優勝はタイガー・ウッズ。2位はデビッド・デュバル、3位がフィル・ミケルソン。前年末の時点で、ワールドランク1位(ウッズ)、3位(デュバル)、4位(ミケルソン)という顔ぶれに交じって、上位を争ったという事実は、21年経った今も決して色あせることはない。

画像: 01年の2日目に、オーガスタでの日本人ベストスコア「66」をマーク。最終日も15番パー5でイーグルを奪うなどしてスコアを伸ばし、4日間トータル「-10」でフィニッシュした

01年の2日目に、オーガスタでの日本人ベストスコア「66」をマーク。最終日も15番パー5でイーグルを奪うなどしてスコアを伸ばし、4日間トータル「-10」でフィニッシュした

 自分の中学時代、高校時代は、今みたいにアメリカツアーが全試合中継されるようなことはもちろんなくて、「マスターズ」くらいしか、毎年テレビで見られる試合はなかったんですね。だから、そこで見たオーガスタのレイアウトとか、コースのきれいさというのは強烈に印象に残っていて、自分も『いつかプレーしてみたい』という憧れはずっともっていました。

 01年に、実際に現地に初めて行って、練習ラウンドをしてみると、テレビで見ているだけではわからない、コースの難しさにしびれましたね。ピンポジションも、練習日だっていうのに結構厳しくて(笑)。1ラウンドあたり、どのくらいで回れば優勝争いができるのか、ずっと考えていましたが、自分としては2~3アンダーが限界という感じはありました。だから、優勝スコアが8アンダーから12アンダーくらいなら、自分にも「まあまあチャンスがあるかな」と思っていたんですが、結局、タイガーの優勝スコアは16アンダーでしたから、ちょっと届かなかったですね。

 自分より順位が上だった3人に共通していたのは、大事なところで絶対に「ボギーを打たない」ということだと思います。オーガスタのグリーンというのは、アメリカツアーの中でも難しさがケタはずれで、落としどころを間違えると10メートルも転がって外に出てしまうような形状のグリーンばかりです。だから、ただ乗せただけでは安心できないんですが、トップの3人はどこからでも2パットに収めてくる。

 タイガーはバーディパットを決めているシーンが印象的ですが、入らなくても、つねに次は楽にパーがとれるところまでもっていく技術がすごいんです。それは、当時のデュバルやミケルソンも同じでしたね。どこからでも2パットで収められる自信があるからこそ、危険なゾーンははっきり避けて狙っていける。

 普通なら3パットが頭にちらついて、少しでもピンの近くに打とうとしてしまうんですが、あの3人にはそれがない。そこがいちばんの差だと、当時は感じました。

99年に世界ランク1位となり、「打倒タイガー」の1番手と目されていたデュバルだが、01年を最後にメジャーで活躍することはなかった

ミケルソンは最強時代のタイガーと優勝争いを繰り広げ、そこから20年後に50歳を過ぎてメジャーに勝つという離れ業を成し遂げた

前年優勝のビジェイ・シンから、グリーンジャケットを受け取るタイガー。これで、前年の「全米オープン」からメジャー4連勝となり、いわゆる「タイガースラム」を達成した

“高い球”は本能レベルで必要。そこに距離感が宿ればマスターズに勝てる

フェアウェイキープ率が勝敗を分ける

 伊澤がプレーした2000年代初頭から、度重なるコース改修が行われ、現在のオーガスタはかつてとはまた違う攻略法が必要なコースとなっている。それを踏まえたうえで、伊澤が考える、マスターズ「勝者の条件」とは何か。

 まずひとつには、平均300ヤードを超える飛距離があること。次に、4日間ある程度フェアウェイをキープし続ける正確性があること。それに、グリーンを狙うアイアンの距離感と方向性がいいこと。最低この3つが「条件」になると思います。

画像: 2021年優勝 松山英樹

2021年優勝 松山英樹

 まず飛距離については、03年までは、タイガーでも平均飛距離が300ヤード未満でしたが、現在のPGAツアーのスタッツを見ると、平均300ヤード以上の選手が90人以上いるという異常な状態です。そうなると、平均飛距離が290ヤード台の選手はかなり不利と言わざるを得ません。飛ぶ選手が8番アイアンで打つところを、6番アイアンとか、下手をするとハイブリッドで打たなくてはいけなくなるからです。

 同じ理由で、より多くのフェアウェイをキープできる選手が有利です。オーガスタは、全米オープンのような深いラフはありませんが、フェアウェイとラフからだと、やっぱり0・5打くらいは差が出てしまう。

12年と14年に、バッバ・ワトソンが優勝したとき、ドライバーを「曲げまくって」いた印象があるかもしれませんが、実はここぞという大事なホールでは、ほとんどフェアウェイをヒットしていました。4日間のフェアウェイキープ率は、できれば75%以上はほしいところです。

 最後にアイアンの精度ですが、これはオーガスタではとくに重要です。先ほども言ったように、グリーンの形状が難しく、落としどころを間違えると簡単にボギー以上になってしまうホールが多いからです。

また、終盤になると、12番のパー3のように、絶対にパーで切り抜けたいホールと、13番、15番のパー5のように、バーディやイーグルを取りたいホールが続きます。

01年の最終日、15番で2オンしてイーグルを取りましたが、あのときのセカンドは4番アイアンで打ちました。当時はロングアイアンでいかに高い球を打って、グリーンに止めるかということが求められていましたが、今はむしろ弾道が低い選手は皆無ですから、いかに短い番手で打てるかと、いかに正確に風を読むかという勝負になってきているような気がします。

 では、以上のことを踏まえた上で、今年のマスターズ優勝にいちばん近いのは誰か、予想するとしたら、やっぱり今シーズンも勝利を挙げて調子のいい、松山(英樹)君が大本命なんじゃないでしょうか。ドライバーの飛距離、アイアンの精度は申し分ないので、あとはどれだけフェアウェイをヒットできるかがカギになってくると思います。

伊澤利光 2022注目❶  松山英樹

アイアンの精度ではPGAツアーでも1、2を争う松山。ティーショットでいかにフェアウェイをキープできるかが、連覇へのカギになるか。今シーズンも早々に2勝を挙げ、期待が高まる

画像: 伊澤利光 2022注目❶ 松山英樹

伊澤利光 2022注目❶ 松山英樹

伊澤利光 2022注目❷  C・モリカワ

20年の「全米プロ選手権」、21年の「全英オープン」と、いずれも初出場で初優勝を成し遂げたモリカワ。3つ目のメジャー獲得なるか

画像: 伊澤利光 2022注目❷ C・モリカワ

伊澤利光 2022注目❷ C・モリカワ

「距離感と正確性を兼ね備えたアイアンの精度は群を抜いている」(伊澤)

完璧なオンプレーン、スクエアなフェース使いで、ツアーでも高いパーオン率を誇る
(20-21シーズンは70.80㌫でツアー5位)

伊澤利光 2022注目❸  D・ジョンソン

20年、秋開催のマスターズで初優勝を挙げたが、昨年は60位タイに沈んだ。ツアー屈指の飛距離がハマれば、十分にチャンスはある昨年の全米オープン覇者。オーガスタとの相性も悪くなく、過去出場5回のうち、4回トップ1 0に入っている(最高は18年の4位タイ)

画像: 伊澤利光 2022注目❸ D・ジョンソン

伊澤利光 2022注目❸ D・ジョンソン

伊澤利光2022注目❹  J・ラーム

昨年の全米オープン覇者。オーガスタとの相性も悪くなく、過去出場5回のうち、4回トップ1 0に入っている(最高は18年の4位タイ)

画像: 伊澤利光2022注目❹ J・ラーム

伊澤利光2022注目❹ J・ラーム

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