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練習器具を持ち込まないプロはマキロイくらい……
こんにちはケンジロウです。フロリダのオーランドよりお届けしています。早速ですが、今回はパッティングのお話をします。
先日のザ・プレーヤーズ選手権で選手たちの練習を見ていて思ったのですが、ほんと最近は、「パッティングの練習方法」が様変わりしましたよね。試合会場のTPCソーグラスにはクラブハウス前に大小ひとつずつ練習グリーンがあるのですが、ふたつの練習グリーンでは世界のトップランカーたちがいろんな器具を持ち込んでは、各種さまざまなドリルをしながら練習しているのを目にしました。
ただ単純に球を打ってカップに入れる練習をしている人は、ひとりもいない……と言っても過言じゃないですね。ローリー・マキロイぐらいかな、あんまり器具を使って練習するのが好きじゃなさそうですものね。アナログ派というかなんというか、でもそういうところがマキロイの魅力でもあるんですけどね。
小さな練習グリーンのところでじっと見ていると、コリン・モリカワが、コーチのリック、そしてキャディのJJと3人でああだ、こうだと議論しながら、練習しているのが目にとまりました。JJは何度もグリーンにはいつくばっては、ラインをジーっと読んでいます。
ラインを読み終えると、そこに持っていた器具をセットし、コリンはセットされた器具に球を置いて、球を打っています。
決まったラインに対してちゃんとストロークできるか、タッチが出せるかどうかを確認しているんでしょうね。カップから外れると、「本当にこのライン合ってる?」とJJに笑いながら詰め寄っていました。
また、大きなグリーンのほうでは、ダスティン・ジョンソンがふたつの器具を使って練習していました。ひとつは棒のようなもの、そしてもうひとつはひもを張っています。棒の横で球をしばらく打っては、今度はひものほうでも打ちます。棒もひももよく見ると曲がるラインに対してセットされています。棒は下りのスライス、ひものほうは上りのフック。ともに苦手なラインなんでしょうかね。
ひもと棒の間を行ったり来たりして、じつに40分ぐらい同じ練習をしていました。あれだけのパワーヒッターが、これだけの地味な練習をしているのには、なんか頭が下がりますよね。こうした陰の努力が大事っていうのも本人わかっているんでしょうね。
パッティングの課題を明確にしてドリルに取り組む
でもなぜみんな器具を使って練習しているのか?
以前、パッティングコーチの橋本真和さんに取材したときの話を思い出しました。
「ストロークなのか、エイム(向き)なのか、距離感(タッチ)なのか、振り幅なのか、グリーンリーディング(読み)なのか、みんなパッティングの課題をそれぞれ抱えていて、自分の弱点に対してのドリルをやっているんだと思います。
たとえばジェイソン・デイなどはミラーを2枚重ねて、自分のひじの向きを見るドリルをやっています。ひじの向きがずれるとプレーンもズレてきますからね。
リー・ウェストウッドなどは、スティックをヘッドの上部とみぞおちで支えるようにセットして、その状態でストロークしています。これは振り子運動を確認しているんだと思います。試合を重ねていくと、どうしてもその振り子がズレてきますからね。振り子がズレるとボールを軌道の最下点でヒットできなくなり、インパクトを自分で調整しやすくなってしまいます」(橋本)
このスティックの練習は、プレーヤーズ選手権で優勝争いをした、ラヒリも試合前にやっていましたね。このドリルは簡単にできそうだから、僕らも真似できそうですよね。
松山英樹のパッティング練習も、いつも1球1球何らかの意図をもってやっているように思えます。松山は朝の練習で、レーザー器具をシャフトにとりつけて、ストロークを確認するのはおなじみですよね。レーザーが真っすぐ動いていれば、クラブが正しく動いている証拠。シャフトをねじるような動きが入ると、レーザーもいろんな方向を差すというわけです。試合前のストロークの確認ですよね。
またティーペグを2本使ってヘッド幅が収まる場所にそれぞれ差し、ヘッドがティーに当たらないように打つ練習もしています。極端にインから来たり、極端にアウトから下りたりしたら、ヘッドがティーに当たってしまいますからね。こちらも自分の癖がわかるので、いい練習ですよね。
松山英樹も含めてどの選手にも言えるのは、そうした器具を使うことで、極端に間違った方向にいかないようにある程度軌道修正できるということですよね。昔はそこをアナログの感覚に頼っていましたから、一度軌道が狂っていくと、とことん狂ってしまうこともありました。
その結果、不振に陥る選手も何人も見てきました。こうした科学的な練習が取り入れられるようになったことで、極端に悪い状態に陥らないようにしているんでしょうね。
パッティングコーチはひっぱりだこ
そんなことを思いながら、芝生の上に座ってパッティンググリーンのわきで選手を眺めていると、メキシコ人のエイブラハム・アンサーと彼のパッティングコーチのラモン・ベスカンサさんがセッションをおこなっていたので、練習後にラモンさんをつかまえて話を聞きました。ラモンさんは以前も紹介しましたが、スペインからアメリカに渡ってパッティングの勉強をし、今は売れっ子のコーチになっています。
アンサーとは関係が深く、メキシコ代表のコーチとしてオリンピックにも来ていたんですよ。アンサーにはショートゲームとパッティングを教えているそうです。
「彼はもとからパットが上手いからね。とくに速いグリーンが得意で、曲がるラインのイメージを作るのが上手いんだ。グリーンを読むのも上手いし、だからタッチも出る。速くて硬い難しいグリーンでラインに対してしっかりスピードを作るのが上手くて、とてもアーティスティックなんだよ。今はそのいい状態をいかにキープするかが課題で、そこにフォーカスして練習している。パットは日替わりになりやすいからね、大きく悪い日を作らないようにしているのさ。そのためにやっているのは、各トーナメント会場にいったらその週のグリーンの速さをつかむ練習をまずするね。グリーンのスピードの感覚を早めにつかむことが大事だからね。『パーフェクトパター』を使ってまずラインをしっかりと把握して、そのあとゲートドリルをやって、出球でゲートを通すように練習するんだよ」とラモンさん。
なるほど。その「パーフェクトパター」とは、ラモンさんが開発した器具で、日本でもたまに見かけるようになりましたよね。以前も紹介しまいたが、その器具を使うことで、ラインを可視化できます。つまりラインが合っている状態で練習できるので、ラインのことを考えなくていいんですね。自分の弱点に純粋に向き合って練習できるということです。では、ほかの選手も同じことをやっているんでしょうか?
「教えている選手はみんなドリルが違うんだ。アンサーみたいにラインの練習をする選手もいれば、ストロークに悩みがある人は、打ち方を修正したり、ほんとさまざまでもドリルをやらない選手は一人もいないよ」(ラモン)
ちなみに彼が教えている選手は、エイブラハム・アンサー、キース・ミッチェル、ラッセル・ヘンリー、クリス・カーク、マティアス・シュワブ、ハロルド・バーナーⅢ、ハリス・イングリッシュと、じつにいろんな選手を教えています。
ラモンのようなパッティングコーチが現地で引っ張りだこになるという点を見てもわかりますが、そして、もはやPGAツアーではショットとパットのコーチは分業制が当たり前のようになってきました。パットの分野はなかなか手に負えないぐらい“やらなきゃいけないこと”がいっぱいあるということですよね。
写真/ケンジロウ