1997年、他を圧倒する飛距離を武器にタイガー・ウッズがマスターズを初制覇
今日的問題はボールやクラブなど用具用品の進化であり、飛びすぎることへのコースの対応であろう。ドライバーの素材はメタルからチタン、カーボン複合へ。そして2000年に登場したタイトリスト「プロV1」に代表されるウレタンソリッドボールによる飛距離の劇的なアップ。これはオーガスタとて例外ではない。
1997年、タイガー・ウッズが18アンダーと2位に12打差をつけて圧勝してから、彼を意識した改修が始まった。しかし、タイガーは01年、ナイキ「ツアーアキュラシーTW」を使い完勝、“通年グランドスラム”を達成してしまった。
かのジーン・サラゼンが、1934年、15番パー5でダブルイーグルの快挙を成し遂げたとき、サラゼンは残り220ヤードを4Wのフェースをかぶせて打っている。ホールの距離は485ヤードから昨年まで530ヤード(22年の今年は550ヤード)に伸びたとはいえ、飛ばす選手なら8番アイアンだ。
今年は11番パー4が15ヤード伸ばされ520ヤードに。15番パー5は前述のように20ヤード増で550ヤード。全長は大会史上最長の7510ヤードとなる。25年前にタイガーが初優勝したときと比べると、585ヤードとパー5の1ホール分以上も伸びている。
このように毎年コースを改修し、その時代、その時の最強選手が勝利するように演出する、これこそがマスターズの本質といえよう。
平均323ヤードという群を抜く飛距離で、2位に12打差という記録的な勝利を挙げたタイガー。オーガスタナショナルGCはタイガーのパワーに対抗すべく“タイガー・プルーフ(タイガー対策)”をスタートさせる。99年にはフェアウェイの周りに短いラフ、“セカンドカット”を設置し、高い精度のティーショットが求められるように。また、コースの延伸も始まり、2002年にはトム・ファジオによる大改造が行われ9ホールが延長(1、7、8、9、10、11、13、14、18)。しかしタイガーの勢いは止められず、2006年にはさらに6ホールを延長(1、4、7、11、15、17)。今年は1997年と比べて585ヤードも全長が伸ばされている。
オーガスタで唯一、リーダーボードに向かって打つ7番。2001年には4日間で3バーディを奪ったタイガーだったが、2002年の大改造でティーイングエリアが40~45ヤード下げられると、その年は2バーディに。2006年にさらにティーイングエリアが35~40ヤード下げられると4日間ノーバーディと、このホールでは〝タイガー封じ〟が成功したようにも見える。だが5勝目を挙げた2019年は再び2バーディを奪い勝利につなげた
オーガスタの〝タイガー・プルーフ〟が始まった
タイガーの優勝とヤーデージの変遷
開催年 | ヤーデージ | 記録 |
---|---|---|
1997年 | 6,925Y | 初優勝 |
1999年 | 6,985Y | ― |
2001年 | 6,985Y | 2勝目 |
2002年 | 7,270Y | 3勝目 |
2003年 | 7,290Y | ― |
2005年 | 7,290Y | 4勝目 |
2006年 | 7,445Y | ― |
2010年 | 7,435Y | ― |
2019年 | 7,475Y | 5勝目 |
2022年 | 7,510Y | ― |
距離が伸ばされたバック9注目ホール
マスターズは本当にパワーゲーム化したのか?
圧倒的なパワーと飛距離でマスターズを制したタイガー・ウッズ。オーガスタは2002年と2006年に全長を伸長し対抗、距離的にタフなコースに様変わりした。しかし、タイガー以降も、フィル・ミケルソン、アンヘル・カブレラ、バッバ・ワトソン、アダム・スコットと、歴代優勝者には当時のパワープレーヤーの名が目立つ。誰もがタイガーのようなパワーと飛距離を求め、ゴルフ界に未曽有のパワーゲーム化が巻き起こったからだ。そして、いつしかオーガスタも「飛ばし屋有利」と言われるようになった。
だが1997年にはPGAツアーの平均飛距離でジョン・デーリーに次ぐ2位だったタイガーも、2019年には296・8ヤードで71位相当まで順位を下げ、トップのキャメロン・チャンプとの差は20ヤード以上。しかし5回目のグリーンジャケットを手に入れた。
「パー5が劇的に変わった。97年の15番はドライバーでティーショットを打ち、2打目はウェッジだった」というウッズだが、19年の2打目は5番アイアン。もちろん飛距離があれば有利なことには違いないが、経験と熟練の技も必要なのがマスターズ。大会史上最長の7510ヤードに伸びた今年のマスターズ。パワーヒッターと熟練の技のどちらが勝つのか目が離せない。
監修/川田太三(コース設計家)
協力/武居振一(JGAゴルフミュージアム参与)
構成/古川正則(特別編集委員)
写真/宮本卓、小誌写真部
11番 アーメンコーナーの始まり
昨年の平均ストローク「4.40」で2番目に難易度が高かった11番。ティーイングエリアからの景色は狭く、左右から松の枝が迫りプレッシャーに。すでに距離の長いパー4として知られていたが、今年、さらに距離が伸ばされた。ティーショットが打ち下ろしとはいえ、パー5の13番より10ヤードも長く、難易度がさらにアップ
主な変更箇所
2002年
ティーイングエリアを25~30ヤード下げ、右に5ヤード移動
2004年
フェアウェイ右サイドに36本の松の木を植樹
2006年
ティーイングエリアを10~15ヤード下げ、右サイドに木を追加
2008年
右サイドの木を何本か伐採し、フェアウェイを広く
2022年
ティーイングエリアを15ヤード下げ、左に移動。右サイドの松を何本か伐採
13番 距離の短いパー5
開場から3度もティーイングエリアが下げられ現在は510ヤード。距離は短いがティーショットの難しさ、セカンドショットの多様性、グリーン周りのハザードを考えるとやさしいホールではない。2017年に隣接するオーガスタCCから土地を購入しており、将来的に距離が伸びる可能性も
主な変更箇所
2002年
ティーイングエリアが20~25ヤード下げられる
18番 木のトンネルを通すティーショット
主な変更箇所
2002年
ティーイングエリアを55~60ヤード下げ、右に5ヤード移動。バンカーの位置を見直し、大きさも10%アップ。フェアウェイバンカーの左側に木を植樹
2022年
グリーンまでの距離を変えずにティーイングエリアを13ヤード拡張」
2002年の改造でティーイングエリアが大きく下げられた18番。2019年最終日は1、5、7、10番のティーショットで3Wを使用してきたタイガー。優勝を目前にした18番でも迷わず3Wを手にし、フェードボールでフェアウェイ右サイドをとらえ、2打目をショートさせたものの優勝を勝ち取った
15番 巧妙なわなが待ち受ける
主な変更箇所
1999年
フェアウェイのマウンドを小さくし、左右に松の木を植樹
2006年
ティーイングエリアを25~30ヤード下げ、左に20ヤード移動
2009年
ヤーデージは変えずにティーイングエリアを前方に8~9ヤード拡張
2022年
ティーイングエリアを20ヤード下げ、フェアウェイの形を変更
昨年の最終日、松山英樹が2打目をオーバーし池に入れたホール。左の林がせり出しているため2オンを狙おうとするとドローで曲げないといけないが、ドロー回転のボールではグリーンで止められず奥にこぼれてしまう。グリーン手前は短く刈り込まれ、少しでもショートすると手前の池に転がり落ちる
タイガーの最終日2打目の番手変化
1番 Par4 | 2番 Par5 | 3番 Par4 | 4番 Par3 | 5番 Par4 | 6番 Par3 | 7番 Par4 | 8番 Par5 | 9番 Par4 | 10番 Par4 | 11番 Par4 | 12番 Par3 | 13番 Par5 | 14番 Par4 | 15番 Par5 | 16番 Par3 | 17番 Par4 | 18番 Par4 | |
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1997年 | 400Y PW | 555Y 8I | 360Y 残り15Y | 205Y 6I | 435Y PW | 180Y 9I | 360Y PW | 535Y 2I | 435Y PW | 485Y 8I | 455Y PW | 155Y PW | 485Y 8I | 405Y PW | 500Y PW | 170Y 9I | 400Y SW | 405Y SW |
2019年 | 445Y 8I | 575Y 4I | 350Y SW | 240Y 4I | 495Y 4I | 180Y 8I | 450Y 8I | 570Y 5W | 460Y 8I | 495Y FWに戻すだけ | 505Y 7I | 155Y 9I | 510Y 8I | 440Y 9I | 440Y 9I | 170Y 8I | 440Y 8I | 465Y 7I |