すべてのゴルファーあこがれの場所「オーガスタ ナショナル ゴルフクラブ」。「マスターズ」が開催されるこの美しいコースの魅力を写真家・宮本卓が語る
Ike's Tree アイクツリー
2014年の季節はずれの大雪で、17番ホールの通称「アイクツリー」がひどく損傷した。オーガスタのシンボル的存在だったこの木を、オーガスタ委員会は苦渋の決断で伐採することにした。
1948年から亡くなる1969年までオーガスタのメンバーだった第34代アメリカ大統領のドワイト・D・アイゼンハワーはスライサーだったため、何度となくこの木に阻まれた。
アイゼンハワーはこの木を切るべきだと提案、しかし創始者のひとりで当時の会長、クリフォード・ロバーツは大統領の提案を却下した。それ以降この巨木に「アイク(アイゼンハワーの愛称)ツリー」の名がついた。
この木は優勝争いする選手にとっても厄介な存在だったが、樹齢100年を超える老松を選手たちは好意的に受け入れた。
2011年マスターズ3日目、タイガーのティーショットはこの木に当たり、2打目を木の下の松葉の上から無理な体勢で打ち、左ひざとアキレス腱を痛めて長期欠場に追い込まれた。3年後に、まさかアイクツリーがなくなるとは想像だにしなかった。
木が倒れた翌年のマスターズ、プレスルームの玄関には大きな切り株が展示されていた。
くっきり浮かび上がる年輪。そこには小さな文字でオーガスタの歴史が書き込まれていた。
今では17番210ヤード地点の巨木はなくなってしまったが、僕の目にはその存在がくっきり見えている。きっとメンバーや毎年オーガスタを訪れる選手たちもそうに違いない。