第86回「マスターズ」は2位に3打差で出たスコッティ・シェフラーが逃げ切りメジャー初優勝を飾った。プロゴルファー・中村修が現地からのレポートをお届け。

「マスターズ」とはなんと感動的なメジャー大会なのでしょうか。火曜日の練習日からオーガスタに入り、すべての瞬間を目に焼きつけようと過ごしてきました。雷雨で午前中でクローズになった火曜と水曜日、自動車事故から復帰し1番ティーに立ち4日間を戦ったタイガー・ウッズ、同じくケガで実戦を離れていた松山英樹選手も4日間を戦い抜きました。それぞれプレーを追いながら、最終18番グリーンサイドで見届けると大きな感動が待っていました。

画像: 交通事故からの復帰戦をマスターズで迎え47位で終えたタイガー・ウッズ

交通事故からの復帰戦をマスターズで迎え47位で終えたタイガー・ウッズ

タイガーは足を引きずりながら歩き、パットのラインを読む姿勢は中腰と後遺症の残る体で最後まで戦い抜くその姿に、パトロンたちも大歓声で応えます。「お帰り!タイガー!」とパトロンたちからの声に、タイガーは「この場に帰ってこれて感謝している!」とお互いに感謝とリスペクトを称えあっているようなとても感動的なシーンに心打たれました。

長期間のトレーニングやリハビリにも耐えながら、右足に残るプレートやボルトのせいで足首が曲がらずにスウィングも大幅に改良しなくてならなかったといいます。それでもアップダウンのあるオーガスタを復帰戦に選び19位タイで予選通過をしてみせ、寒く風の強く吹いた3日目を最後まで歩き、晴天の最終日にパトロンたちに称えられながら最終ホールまでたどり着きました。ラウンド後の会見では「感謝しています。何度も言いますがここまで来れたことに本当に感謝しています」と話しました。

ひざや腰の故障で手術を乗り越え、コーチを変えるたびにスウィングをチェンジし、その都度結果を出してきた経験と、それを乗り越えるたびに強くなっていったタイガーが再びその姿を見せてくれま、浮き沈みのある人生を今回も乗り越えてプレーを見せてくれたタイガーに勇気をもらえた4日間になりました。

画像: 最終日をイーブンパーでまとめトータル2オーバー14位タイで終えた松山英樹

最終日をイーブンパーでまとめトータル2オーバー14位タイで終えた松山英樹

その後、あがってきたのは同じく首や背中を痛めて実戦から離れていた松山英樹選手。
18番で最後のパットを入れグリーンをあとにしようとすると、グリーン周りを埋め尽くしたパトロンたちからスタンディングオベーションで大歓声が贈られました。ディフェンディングチャンピオンとしてケガを乗り越え、4日間を戦った松山選手対するリスペクトが会場全体に溢れていました。12回連続出場する松山選手はこのオーガスタににはなくてはならない存在になっていると改めて感じさせるシーンに心が温まりました。

画像: 故障個所に負担をかけないスウィングを模索しながらも随所に松山英樹らしいプレーを見せオーガスタのパトロンを大いに沸かせた

故障個所に負担をかけないスウィングを模索しながらも随所に松山英樹らしいプレーを見せオーガスタのパトロンを大いに沸かせた

松山選手は、故障個所に負担をかけないスウィングを模索しながら短い時間の中でマスターズに臨んで来ていたことだと思います。実戦感覚を失いながらも7回の寄せワンでスコアを作った初日から、風の強く吹いた2日目に3つスコア伸ばし2位タイに浮上してみせました。寒く風の吹いた3日目にスコアを落としましたが、最終日はイーブンパーにまとめ、世界一級品のアイアンショットやアプローチの技術を随所に見せてくれて14位タイで4日間を終えました。

随所で見せた低く打ち出すアプローチは、スピン量も多い代わりに出球が速くなり、わずかでもリーディングエッジの入り方がズレるとスピンが入らずオーバーするリスクがあります。その精度の高さはピンの1メートル手前で落とすと2バウンドでピタリと止まり50センチに寄せていました。引き球のようなスピンを効かせたアプローチをすることもありますが、松山選手のアプローチは低く出るのに飛び方がゆっくりで計算されたスピン量で傾斜を使ってピンに寄せるアプローチがまた秀逸。上げたりランを多くしたり、時にはクッションを入れながらスピンも入れて、ボールをピンに寄せる技術は本当に世界最高峰のアプローチに技術の高さを見せてくれました。

二人を見送ったあと、そのままグリーサイドの席で最終組まで見届けようとしていると、1オーバーからスタートしたローリー・マキロイが首位のスコッティ・シェフラーにプレッシャーをかけようと17番まで7つスコアを伸ばしてスコアボードを駆け上がってきました。

そして最終18番ホールでグリーン右横のバンカーに入れると、2段グリーンの下に切られたピンに向かって大きな弧を描き、まるでボールが意思を持っているかのようにカップに吸い込まれるチップインバーディを決めます。埋め尽くしたすべてのパトロンたちが立ち上がり、スタンディングオベーションで7アンダーまでスコアを伸ばしたマキロイを称えます。

すると同じ組で同じバンカーに入れていたコリン・モリカワがまさかのチップインバーディで続き、二人のダブルチップインで会場は最高潮に湧き上がりました。

思わず立ち上がり叫んでしまい気がつくと涙があふれ出ていました。二人のプレーを目の前にして「これぞマスターズ、これぞオーガスタ」という感動に包まれました。

最終日の18番のピン位置は右手前ですが、右のバンカーからはランが使えるので寄せられる可能性はじゅうぶんにあります。マキロイは下り傾斜にスピンを効かせたバンカーショットを打ち、傾斜を使ってピンまで運びました。いっぽうのコリンは、砂を厚くとってスピン量は少ないながらも柔らかく打ち出し、ソフトに転がし下り傾斜を転がりカップへと沈めました。二人のバンカーショットの技術の高さに間近に見て、改めて観客を熱狂させるPGAツアーのメンバーに脱帽です。

最後に初メジャー制覇を目前に崩れることなく2位のマキロイに5打差をもってスコッティ・シェフラーが18番グリーンへと上がってきます。スタンディングオベーションでシェフラーを迎えると、ピンの奥の段から4パットのおまけつきでしたが余裕を持って初優勝を飾りました。

画像: 25歳のスコッティ・シェフラーがメジャー初優勝を飾った

25歳のスコッティ・シェフラーがメジャー初優勝を飾った

25歳の若きチャンピオンが誕生し、表彰式でグリーンジャケットを着せる松山選手を見届けてプレスセンターへと戻りました。優勝から1年間持ち出せるグリーンジャケットをコースに返還することになる松山選手は、「また外に持ち出せるように頑張りたい」と話し、新たな挑戦を私たちに見せてくれるでしょう。

画像: 1年間持ち出せたグリーンジャケットをコースに返還し「また外に持ち出せるように頑張りたい」と二度目のマスターズ制覇を誓った

1年間持ち出せたグリーンジャケットをコースに返還し「また外に持ち出せるように頑張りたい」と二度目のマスターズ制覇を誓った

マスターズで見せてくれた数々のプレー、大会の規模や格式、目に入るすべてのものが白と緑を基調にするオーガスタナショナルGCを目に焼き付けた6日間になりました。しばらくはこの余韻に浸らせてください。

写真/Blue Sky Photos

This article is a sponsored article by
''.