サザンヒルズCCのゴルフディレクターを務めるキャリー・コスビー氏の元にPGAオブ・アメリカから「タイガーが視察プレーをするのでキャディをしてもらいたい」という打診があったとき、心が浮き立つのを隠せなかった。しかし先方から「このことは極秘事項なので口外しないように」といわれた彼は息子にさえ「〇〇さんのキャディを頼まれた」と嘘をついた。
タイガーは07年にサザンヒルズで行われた全米プロで優勝を飾っているが、その後コースは大幅に改造され新しく生まれ変わっており、本番の前にその全貌を把握しておくことは重要なミッションだった。
彼は事前にはコスビー氏に「当日は1番のティーで会いましょう」と伝言し、混乱を避けるためクラブハウスには入らず練習場に直行。約束通り1番ティでコスビー氏と対面したのだが「コースは通常営業だったのですでにその時点で40人以上のメンバーが見物していた」という。
4番に差し掛かると上空のヘリコプターが旋回し始め「ホールを見下ろす丘の上に50人から70人が集結。6番では通りを隔てた林の中に30人から40人。さらにカメラを担いだテレビクルーまでが現れた。携帯を構えて、タイガー、愛してる! タイガー、頑張って! ナイスショット! などと声援を送る人まで現れたのには驚いた」
「18番では100人を超すギャラリー(メンバー)が見守りまるでビートルズがやってきたような騒ぎだった」。オクラホマの片田舎の町を嵐のように駆け抜けたタイガー。練習でさえヘリやテレビカメラに追いかけられるのだからスターは辛い。しかもこの生活(終始注目を浴びる生活)を25年近く送ってきたのだからその精神力は鋼を通り越してダイヤモンド。
ではプレーのほうはどうだったのか? 「事故から15カ月しかたっていないとは思えないほど素晴らしかった。すべての動きがスムーズだしリズムも完璧。球も飛んでいたしグリーン周りもパットも文句のつけようがない。十分優勝争いができるレベルだった」とプロゴルファー目線で語ったコスビー氏。
「マイケル・ジョーダンも年を取ってからも強かった。それを同じ技術と風格を感じた。このコースでは飛ばすだけではないショートゲームのよし悪しが勝敗を決める。そういった意味でもタイガーに勝機はあるでしょう」
全米プロにはタイガーのほか、しばらく戦列から離れていたディフェンディングチャンピオンのフィル・ミケルソンもエントリーしている。看板役者が加わることで今回のメジャーはさらに盛り上がりそうだ。