非常にコンパクトなトップながら、ツアー屈指の飛距離を誇っているのが、トニー・フィナウです。本人いわく、「ちょっと振れば、320Y先のバンカーまではオーバーできる」というのですから、そのパワーには驚くべきものがあります。
そんな彼の最大の特徴は、手首のコッキングと右ひじのたたみを使って、クラブをスウィングプレーンに乗せていく動きにあります。
アドレスでは右手首をわずかに甲側に折っているため、ドライバーでもややハンドファーストっぽい構えになっています。これはバックスウィングで手首をコッキングしようという意志の表れでしょう。
この構えから、体の回旋をほとんど使わず、いきなり手首のコックを使ってテークバックしていくのが、フィナウの特徴です。クラブが地面と平行になったポジションで、胸と腰がほぼ正面を向いているのは、体の回旋を使わず、手首のコックを主体にテークバックした証拠。ある意味、バンカーショットのようなテークバックをしているのです。
そこから、フィナウは右ひじをたたみながら、クラブをスウィングプレーンに乗せていきます。そして、グリップエンドをターゲットライン(ボール)に向け、クラブを完全にプレーンに乗せたところでバックスウィングはおしまい。そこからは、一気に下半身をリードさせてインパクトに向かっていくのです。
手首を使ってちょっと上げ、クラブをプレーンに乗せたら、一気に体の回転で球をとらえていく。フィナウのスウィングをひと言で表現すると、そんな感じでしょうか。
正直、一般のゴルファーがこんな小さなトップから球を打ったら、まったく飛距離が出ないと思います。しかし、並み外れたパワーと柔軟性を持つフィナウが再現性を高め、ショットを安定させるためには、このスウィングが必要だったのでしょう。
デビュー当時のフィナウは、かなりフックに悩まされていたそうです。その影響だと思いますが、フィナウには、フェースをオープンに使う傾向があります。
たとえば、後方からバックスウィングを見ると、左手首が甲側に折れているのがわかります。さらに、トップでも、まだわずかに左手首が甲側に折れ、トウが地面を指しています。これがフェースをオープンに使う動きになります。
通常、このコンパクトでフェースオープンのトップから球を打ったら、スライスしか出ない気がするのですが、ここからしっかりと球をつかまえられるのが、フィナウの非凡なところです。剛速球を投げるピッチャーのように、ひじを柔らかく使い、力強く球をつかまえてドローを打っているのです。これは、一般のゴルファーには決しておすすめできない動きですが、フィナウの場合、普通に打つと球がつかまりすぎてしまうので、フェースをオープンに使うことによって、それを防いでいるのです。
さて、そんなトニー・フィナウですが、参考にするのであれば、やはりクラブをプレーンに乗せる動きでしょう。
たとえば、体の柔軟性に自信のない人が、プロのように体を回旋させるのは、なかなか難しいものがあります。しかし、手首のコックを早めに使い、右ひじをたたむ動きでバックスウィングできれば、体の回旋量が少なくてもしっかりとクラブが上がるのでスピードが確保できるし、クラブがプレーンに乗れば正確性もアップできるからです。
ポイントは、バックスウィングとダウンスウィングでグリップエンドをターゲットライン(ボール)に向けることです。これができればクラブはスウィングプレーンに乗るので、ショットの精度を上げることができます。
ただし、フィナウのようにフェースをオープンに使ったり、腰の回旋を押さえたりすると、球がつかまらなくなるので注意します。バックスウィングとダウンスウィングでは、左手首が甲側に折れないように。また、体と腰の回旋はできる範囲でしっかりと使うようにしてください。