先日の日本オープン選手権で、アマチュアとして優勝を果たした蝉川泰果。現場で蝉川の一挙手一投足を見ていた佐藤信人プロは、その"プロ精神”に驚いたと語る。

 第87回日本オープンは、第1回大会以来、95年ぶりとなる蟬川泰果選手のアマチュア優勝で幕を閉じました。そうした歴史的快挙もさることながら、人々の記憶に刻まれる名勝負でした。タイプは違いますが2人の”プロフェッショナル”がつくったドラマでしたね。

ひとりはもちろん優勝した蟬川くん。アマチュアでプロと言うのは矛盾していると思われるかもしれませんが、ボクの定義するプロフェッショナルとはファンを喜ばせること。「ギャラリーに魅せる、応援してくれる人が喜ぶゴルフがしたい」というのが彼の口癖。「とことん1番ホール」の中継を終え、ボクは最終組についたのですが、いたるところで彼のプロ精神を目の当たりにしました。

たとえば1番ホール。飛ばし屋でもセーフティにFWやアイアンを握る場面です。しかし彼にはそれが不思議なようで、当然、ドライバーで挑みます。もちろんそこには、飛んで曲がらないドライバーへの絶対的な自信があるのでしょう。しかしその奥底にはファンが喜ぶゴルフがしたいとう強い思いがあり、同時に自分の信念を曲げない強さがあった。地元ということもあり、ラウンド中にかけられる多くの声援にひとつずつ応える姿も印象的でした。「ファンのため」と口で言うのは簡単ですが、優勝を争う緊張の場面で言行一致できるのは並大抵のことではありません。

画像: 「一番上手いなと感じるのはパット。ストロークは大きめですが、決してゆるむことなくしっかりと、そして正確にヒットしている。それがビッグスコアを出せる要因にもなっていると思います」by佐藤信人 (撮影/姉﨑正)

「一番上手いなと感じるのはパット。ストロークは大きめですが、決してゆるむことなくしっかりと、そして正確にヒットしている。それがビッグスコアを出せる要因にもなっていると思います」by佐藤信人 (撮影/姉﨑正)

象徴的だったのが、17番のパーパット前。比嘉(一貴)くんはもう少し短いパーパットを残しており、先に入れてしまえば最低でも3打差キープで最終ホール、比嘉くんが外せば4打差まであり得た局面でした。ギャラリーは息を飲み、アドレスに入った瞬間、ボランティアの方の持ったスコアボードのほうからカチャンという音がしたんです。ボクも現場で聞きましたが、後に録画で聞くより現場のほうがかなり大きな音に感じました。こうしたとき、ほとんどの選手は邪魔が入ったと感じるものです。優勝を左右する場面となればなおさらでしょう。蟬川クンを応援していたファンからもボランティアの方に向けて冷たい視線が浴びせられます。その一瞬にして変わった空気を察した蟬川くんは、ボランティアの方に「大丈夫ですよ」と声をかけ、これまた一瞬にして空気を変えた。仕切り直し後のパーパットは外しましたが、何事もなかったように最終ホールに向かう蟬川くんの姿に、心の底からファンを、応援してくれる人を大事にするプロフェッショナルの姿を見た思いがしました。

さて、もうひとりのプロフェッショナルは、最後まで後輩を追い詰めていった比嘉くんです。こちらも自分のプレーに徹し、決して諦めずにパーを重ね、勝負どころではバーディを決めるプロ中のプロでした。優勝が決まった後、蟬川くんがファンとハイタッチする時間をつくってあげたのも、寡黙な比嘉くんなりの東北福祉大の後輩への演出だったのでしょう

歴史が生まれた現場に立ち会え、今も興奮しています。

※週刊GD22年11月15日号「うの目 たかの目 さとうの目」より

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