近賀さんは、高校時代全国で活躍するテニス選手で、実業団に進んだ後、キャディに就職したことでゴルフと出会う。
「女子プロという職業は知っていましたが、ルールもまったくわからず、赤ティーは女性用ということも知りませんでした」と、笑う。初ラウンドは男性に混じって白ティーから。やがてゴルフの楽しさを教えてくれた〝お父さん〟と慕う現在の師匠と出会った。日本一になれたことで師匠に恩返しすることができた。
モットーは「飛距離を性別や年齢のせいにはしない」
ところで、女子アマの試合では、セカンドオナーでも、男性と一緒に回るときは、飛距離で苦労することはないのだろうか?
「もちろん、たいていはセカンドオナーです。でも最近のクラブは性能もいいし、ウッドを使えばパーオンもあるし、外せば寄せてパーを拾えばいい。それがゴルフじゃないですか。何より私、一番後ろから『エイッ!』って打つのが大好きなんです」と、近賀さんは屈託がない。
黒ティーでFWやUTの技術が磨かれ、アプローチの引き出しも増えた。技術はもとよりクラブへの造詣も深まり、それも近賀さんのいうゴルフの楽しさ、奥の深さにつながっている。
男性と回っているうちに飛距離は伸びたが、スコアアップにはグリーンに止まるボールが必要だと考え、持ち球をドローからフェードに変えた。
久邇CCのクラチャンでもある近賀さんは、男子のクラチャンの集う報知アマ、あるいは10代、20代の選手の主戦場となっている女子アマで戦えるのはそのためだ。現在のモットーは「飛距離を性別や年齢のせいにはしない」。
底抜けの明るさ、清々しさの理由はそんなところにあるようだ。
‟身の丈のゴルフ”でアプローチのバリエーションが増えた
近賀さんは、‟身の丈のゴルフ”にこだわっている。
「50歳なりの、女性なりのゴルフがしたい。それだけを考えています。言い方を変えれば自分のできるプレーを一生懸命にやる。それが大事だと思っています」。ゴルフを始めてからすぐに‟45の壁”にぶつかったことがある。男性と同じティーを使うためパーオンが難しい。ボギーになってしまう可能性が高いのだ。そこで求められたのが、アプローチやパッティングの技術だった。
「基本は58度のウェッジを使いますが、ボールポジションやフェースの開き方、ヘッドの当て方などをアレンジして、いろんな打ち方ができるようになりました。たとえばヨコからのラインは傾斜に流されやすいので、キャリーを増やしてランを少なくするとか、手前からの上りの長い距離ならボールを右に置いてフェースを被せて、強く出すとか……。これもゴルフの楽しさであり、奥の深さです」
昨年はミッドとシニア、どちらも2位。悔しかったかというと、近賀さんは、そうではないという。
「昨年は球筋をフェードに変えている途中で、手応えを感じていたところ、たまたま結果が2位でした。悔しいというより、結構いい球が打てて満足したほどです。今年は、思い通りにフェードが打てるようになって、スコアがまとまるようになり、1位になった感じです。若い子から『ひろこさん、すご~い。私もひろこさんを目標に頑張ります』そう言ってくれるのが、優勝したことと同じくらい嬉しいですね」
近賀さんにとって、競技ゴルフは、結果だけがすべてではない、同伴競技者と楽しく回るのがゴルフの最大の楽しみだとも。そのためいつもゴルフバッグには、飴やお菓子などを4人分が用意されている。同伴者に配るためだ。「ひとりじゃ食べにくいので」と、照れ笑いする。こうした気配りも近賀の‟身の丈”なのだろう。とことんゴルフを楽しむ、これが、美しい最強女子アマのゴルフスタイルなのだ。
※月刊ゴルフダイジェスト2022年6月号「クラチャンと回ろう」に加筆修正しました