堤先生によると「こむら返りは夏に起きることが多いのですが、冬にももちろん起きます。この時季でも油断大敵ですよ」。そもそも「こむら」とは、漢字で「腓」と書き、ふくらはぎの筋肉を指す。ここが攣(つ)るのが、こむら返りだ。
「通常、骨格筋は随意に運動させることができますが、随意性を失って自分勝手に、そして痛みを伴うほど強く収縮し続けてしまうことがあります」。それが、こむら返りの正体。
ちなみに、この筋けいれんは、ふくらはぎだけでなく、手足の指、前腕、脛の前、太もも、土踏まず、首、背中、お尻などで起きる場合もある。収縮したままロックされてしまい、痛みを伴ったまま、自分の意思で動かせなくなる……これは辛い。
ミネラルバランスが崩れると、こむら返りになりやすい
では、原因は?
「筋肉の冷え、脱水、電解質不足、疲労、末梢神経障害などです」
たとえば、夏場、寝間着が夏用の半ズボンタイプになり、脚をむき出しにし、冷房をつけて寝るとふくらはぎが冷える。それが、こむら返りの引き金になりうる。
また「夜間の睡眠中は副交感神経が優位になり、脈拍や血圧が低下し、酸素供給が低下することも一因として考えられます。あとは発汗による水分喪失、電解質(ナトリウム、カリウム、マグネシウム)喪失なども原因になり得ます」。そう「夏場に多い」とされるのは、冷房で冷えやすい、汗をかきやすいなどの条件が重なるため。しかし、夏場以外でもこむら返りが起きる人もいる。
「考えられる原因はさまざまで、たとえば加齢による筋肉量減少もそのひとつです」。足は"第2の心臓"と言われるように、下肢の筋肉はポンプのような働きをして血液を心臓に送り返すのだが、筋肉量が減少するとそれができない。結果、血流が滞り、筋肉の収縮や弛緩に関係する酸素やミネラルが体中に行き渡らなくなる。「ミネラルバランスが崩れると、こむら返りを招きやすくなります」。夏だけでなく普段から「足がむくんでいるなあ」と思う人は要注意だ。
また、筋肉疲労の蓄積の影響もある。「連チャンでラウンドをしたら夜中にこむら返りが起きた」という人は、このタイプかもしれない。加齢で代謝が低下すると疲労回復も遅くなるため、老廃物である乳酸などが蓄積し、睡眠時のこむら返りが起きやすくなることは否めない。
そして「単なるこむら返りでしょ」と、甘く見られない理由も。
「こむら返りの頻発に病気が隠れていることがあります。たとえば、高血圧症や糖尿病などの生活習慣病や、腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなどの腰椎の病気があると、抹消神経障害が生じてこむら返りが起こりやすくなります。
私自身、腰部脊柱管狭窄症の手術を受けた経験がありますが、やはりこむら返りは起きます」という。「年だからこむら返りは仕方ない」と思わず、頻発するようなら整形外科医の診断を仰いだほうがいい。
では、起きた場合の対処は?
まず、よく知られている、ひざ裏伸ばし。こむら返りが起きたほうの足を前に出して座り、つま先をつかんでゆっくり手前に引く。手がつま先に届かなければタオルなどをつま先にかけ、ゆっくり引っ張るのもいい。激痛を感じているときはそれさえできないケースもあるが、その場合、ただ痛みが引くのを待つしかないのか……?
「私は今朝(11月初旬)、こむら返りが起きましたが、漢方薬の芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう・ツムラ68番)をすぐに服用しました」
漢方薬がすぐに効くの? と疑問に思う向きもあるだろうが「驚くほど即効性のある薬です。自身のこむら返りの際、服用してから効果が出るまでの時間を測ったことがありますが、最短で約40秒でした。患者さんには『攣ったらすぐに服用できるよう、寝る前に枕元に常備しておくといいでしょう』と説明しています」
ラウンド中のこむら返りに、“冷やす”は危険
ラウンド中は、芍薬甘草湯をキャディバッグやラウンドポーチなどに入れておいて「キタ」と思ってから服用してもいい。通常は水とともに服用するが、緊急なら、なめてもOK。ラウンド時以外でも旅行やハイキングなどの際、携行していると安心だ。
ちなみに、痛みを感じると、とっさに「冷やそう」と思う人もいるかもしれないが、先述の通り、冷えはこむら返りの要因のひとつ。筋肉や血管が収縮して血流が悪くなり悪化するおそれもあるので、くれぐれも冷やすことはないよう。逆に温めるのは血行促進につながるので、激痛が収まり、やや痛みが残るくらいまで落ちついたら足湯や温水シャワーなどはあり、と言える。
また、ひどいこむら返りの後、筋肉痛が数日続くケースもある。
「筋肉が不随意に強い収縮を感じたためなので、ひどく痛むようなら痛み止めの内服薬や外用薬もあります」とのことなので、やはり整形外科などで医師の診断を仰ぐのがいいだろう。
では、対処のほかに、予防策はあるだろうか。
「普段からストレッチ、ウォーキングなど、適度な運動を心がけることです」。それにより筋肉量をキープすることが大事だ。ただし、やりすぎも禁物。「ウォーキングのような有酸素運動のほか、筋トレもいいのですが、軽めの負荷で疲れない程度にとどめておいたほうがいいですね」。こむら返りが起きやすい人は下肢の裏側が硬くなっている危険性もあるので、ウォーキング、筋トレのほか、ふくらはぎを伸ばすストレッチももちろんOK。隙間時間の習慣にしよう。
そして、水分補給は常に抜かりなく。しかし、運動時はともかく就寝前に水分補給すると睡眠中トイレに行きたくなるのが心配という人もいるだろうが……。「寝る前の水分補給は、こむら返り対策だけでなく、高齢者をはじめ、生活習慣病など動脈硬化リスクのある患者さんや脳血管疾患、虚血性心疾患などの患者さんにも生活指導上、勧めています。脳卒中や心筋梗塞のリスクを低減させるためです」という。
「電解質の補給は食事で行い、寝る前の水分補給は水やお茶でいいと思います。お茶はカフェインによる利尿作用もあるのですが、最近はカフェインの入っていないお茶もたくさん販売されています。電解質の補給としてはナトリウム(食塩)やカリウム(リンゴやバナナに多く含まれる)ですが、最近ではマグネシウムの重要性が説かれています。海産物にはマグネシウムが豊富なので、患者さんにはヒジキ、コンブ、ワカメなどの海藻類や、カキ、アサリなどの貝類、ちりめんジャコ、イワシ、アジ、サバなどの魚、あとは豆腐や厚揚げなどを勧めています」
スポーツ中なら「水分+電解質が補給できるスポーツドリンクと水が良いですね。私は夏場のゴルフの試合なら3リットルほど持参します」とのこと。
ちなみに「アルコールで水分補給しよう!」は大間違い。アルコールには利尿作用があり、飲んだ以上に尿として排出されてしまう。特にビールは利尿作用が強いのでご用心。
適度な運動で筋肉をキープし、水分と電解質の補給を忘れず。いざなってしまったら、ふくらはぎを伸ばす、困ったら芍薬甘草湯。"傾向と対策"があれば、あの「イテテッ」を予防&対処はできる! ぜひ、心がけを。
※週刊ゴルフダイジェスト2022年12月6日号「こむら返り『傾向と対策』」より