昨年末の本誌企画で2022年シーズンの米女子ツアー予想をした際に「古江彩佳や渋野日向子の強力なライバルになりそう」と、目利きのタケ小山が評したのがタイのアタヤ・ティティクル。いわく「14歳のときに欧州女子ツアーで優勝。ちょっとクセのあるスウィングだけど、すでに実績は十分です」。
確かに欧州女子ツアーを勝ったのは14歳4カ月19日で、リディア・コーの記録を塗り替えたと話題になった。2019年のメジャー「ANAインスピレーション」「全英女子オープン」でもローアマとなっており、確かに「実績十分」ではあった。
その後、Qスクールを3位で通過し、舞台はUSLPGAへ。米メディアも“天才少女のお手並み拝見”といった雰囲気だったのだが……。ふたを開けてみると、参戦たった5戦目、3月のJTBCクラシックで早々に1勝目。9月に2勝目を飾ると、10月末には世界ランク1位に立つという快進撃。USLPGA の「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」も受賞した。
米ゴルフ誌のシニアライターを16年以上務めるベス・アン・ニコルス氏は「優勝した後、予選落ちする選手は少なくありませんが、彼女にはそれがない。また、予選ラウンドでも決勝ラウンドでも、いつでも安定した結果を残しています」と舌を巻く。実際、出場26試合で予選落ちは7月のスコットランド女子オープンの1回のみ。
強さの秘密:平均ストローク60台を叩き出したショット力と練習量
シーズン前、米女子ツアーに参戦するにあたり「準備したことは?」と尋ねると「うーん、ショートゲームは磨きました」と本人。「トレーニングは?」と続けると「体は鍛えました」。「どのあたりを重点的に?」には「うーん、体を全体的に」と、今度は“のほほん”とした答え。マイペースのティティクルらしいとも言える。
シーズン後、ルーキー・オブ・ザ・イヤーで表彰された際はスピーチで「ハードワークは今年の初めからずっと続けてきたことです。スウィング改造もしてきました。しかし、それについては今お話しすることではないですね」と、またも秘密主義発動!? ただ、ショートゲームについては「残り30ヤード以内、アプローチ、パッティングを毎日3時間練習するのが日課」と明かす。
「ショットには好不調の波がありますが、ショートゲームは波が少ないので。もっともっと精度を上げていきます」という。しかし、2019年の日本女子ツアー「センチュリー21レディス」にアマチュアとして出場した際には「ロングゲームが得意。ドライバーを見てほしい」と話していたので、この数年で本人の意識もスイッチしてきたようだ。
そして、ティティクルの強さを分析するとき、本人や専門家の口から出るのは“安定性”や“波のなさ”。平均ストロークは60台(69.46)をマークし3位。言葉のやや少ない本人に代わり、さらに、深掘りすべくベテランプロも直撃取材した。
ルーキーイヤーでの2勝という成績に驚いていないのがタイの先輩プレーヤー、アリヤ・ジュタヌガーン(27)。スポンサーが同じという縁もあり、タイで会う機会は多いという。
「初めて会ったのは6、7年前ですけど、すぐに確信しましたよ。ああ、すごい選手になるなって」と振り返る。「とにかくよく練習する選手です。やると決めたら必ずやるし、強い自制心の持ち主で怠けることがないんです」と、かねてから練習の虫だったことを明かした。
アリヤは「そもそも誰もが認めるゴルフの才能があって、しかもよく練習するんだから鬼に金棒。世界ランク1位やルーキー・オブ・ザ・イヤーも当然のことだと思います」とキッパリ。
ただ「(ルーキーイヤーは)失うものがなかったし、悩んだり、細かいことを考えたりせず、まずやってみるという精神も奏功したように思います」と、セカンドイヤーでの飛躍にさらなる注目を寄せているようだ。
ティティクルやモリヤ&アリヤのジュタヌガーン姉妹、パティ・タバタナキット(23)などを輩出する“ゴルフ天国”タイでも、ティティクル人気はうなぎ上り。本人も「家族のため、チームのため、ファンのため、そして国(タイ)のために、これからも頑張ります」と話しており、“タイの代表”としての自覚が芽生えている。
このプレッシャーが、今後のティティクルにどう影響していくか。9月のアーカンソー選手権では、歴戦の猛者、ダニエル・カン(30)をプレーオフで下す(2ホール目にティティクルがバーディ奪取)など、ハートは強そうだが……。
強さの秘密:ドローもフェードも打てる最強スウィングに改造
米女子ツアー最終戦CMEグループツアー選手権の直前に行われたロレックスLPGAアワードに、古江彩佳ら初優勝者、メジャーチャンプらとともに参加。記念に贈られたロレックスの腕時計をつけ、ドレス姿でステージに。試合前のインタビューと併せ、本人の言葉を拾っていくと、ティティクルの人となりに加え、これまでそれほど語られてこなかったスウィング改造についてもその一部が見えてきた。
「世界ランクナンバーワンというのは、全選手が憧れる1つのゴールではあると思います。もちろん、自身で誇りに思いましたが、同時に私はまだまだ成長しなければならない19歳の人間です。経験が全然足りません。謙虚にならなくては。でも、正直なところまだまだなんです。スウィング改造のことですか? 15か16歳の頃、コーチから『将来は有望。でも、今のままのスウィングではLPGAツアーではトップになれないと思う』と言われたんです。タフなコースセッティングに対応するには、もっと多彩なショットを身につけなければならなかったんですね。私も納得して、それで決心しました『一緒に変えよう』って。実は、私、それまでドローボールしか打てなくて。フェードが打てなかったんです。それでLPGAのトップに立とうとしていたなんてね。でも『変えよう』と言ったのはいいけれど、それからは大変。だって、ぜーんぶ変えたんですよ(笑)」
そのスウィング改造はティティクルにとって「huge challenge(壮大な挑戦)」だったという。そして、そのチャレンジは19歳にして完成へと近づいている。アリヤ・ジュタヌガーンの言葉が思い出される。「やると決めたら必ずやる子」。19歳恐るべし。
(写真・取材/南しずか)
※週刊ゴルフダイジェスト2022年12月20日号「アタヤ・ティティクル 強さの秘密」より