小祝さくらは以前、「私は木になりたい」と言ったことがある。今でもそう思っているのだろうか?「はい、そうですね。木がいいです」とはにかむさくら。「木はすごいラクだと思うんです。ラクと言うと木に申し訳ないんですけど、でも何もしなくていいですよね……まあ、木は木で大変なのかもしれないんですけれど。まだ木になったことがないので、本当のところはちょっとわからないんですけれど」。勝負の世界で生きる小祝。やっぱり、日々つらいことが多いのだろうか。「そういうわけではないんです。ただただ、木になりたい。もし、なれるなら、けっこう太めの木がいいですね。細いと台風が来たら折れたりして、耐えるのが大変じゃないですか。だから安定感がありそうな、幹の太い、何が来ても折れなさそうな木がいいですね」
小祝さくらは「謙虚の木」
小祝のプレーを見ていると、ときどき“木”に見えることがある。何があっても動じず、ブレない、しなやかでおだやかな。2022年シーズンが始まる直前、目標を聞いたとき、「謙虚、です」と答えたさくら。勝負の世界で「謙虚さ」は邪魔にならないのか。「ならないですよ」ときっぱり。「アマチュアのときからずっとそういう感じでやってきたので、あまり変わらないんです。確かに、勝とうという気持ちが足りないということになるかもしれませんし、もっと勝とうという気持ちでやったほうがいいとアドバイスをいただくこともあったので、少しそういう気持ちを持とうとは思ってはいるんです。でも、それと謙虚とは別ですよね」。小祝がおだやかに見えるのは芯の部分に「謙虚」があるからだろう。試合では「ギャラリーの方に、別に私なんか見に来ていている人はいないから。みんな(原)英莉花ちゃんとかを見に来てると思う」と本気で考えている。何勝も挙げトッププロとなっても、「調子に乗っている」「なんだか生意気になったな」と周りが感じる言動はしない。小祝さくらは「謙虚の木」なのだ。
だから試合中も「起きたことはしょうがない」と考えることができる。10月のスタンレーレディスホンダ。真冬のような寒さ、雨、風。サスペンデッドで2日目に29ホールを回ることになった。心身ともにつらい状況。こういうとき、小祝は強い。自然に状況を受け入れ、自分を貫くことができる。
終わってみれば54ホールをノーボギーで回り、今シーズン2勝目、通算8勝目を挙げた。小祝さくらは、これからの試合も「謙虚の木」となり、ひたすら自分のゴルフを磨いていく。
こいわい・さくら。1998年北海道生まれ。ニトリ所属。8歳でゴルフを始め、17年のプロテストで合格。19年初優勝、昨季は5勝、2022年は2勝。つねに「黄金世代」を引っ張る存在。「私が連載なんて、自信はないですが、普段通りで行きます」
※2022年週刊ゴルフダイジェスト11月1日号より(協力/札幌リージェントGC、撮影/阿部了、有原裕晶、イラスト/オギリマサオ)