「やはり持ってるなぁ」と感じさせてくれるのが、昨年、三井住友VISA太平洋マスターズで約3年ぶりの優勝を飾った(石川)遼くんです。最終日をニュースターの蟬川(泰果)くん、若手の中心的存在である星野(陸也)くんと最終組で回り、2人を振り切っての優勝でした。優勝インタビューで、本人が信じられないという表情を見せたように、決して調子がよかったわけではない。それでも50回の記念大会、入場無料という主催者の粋な計らいもあり4日間で約2万7000人と、国内ツアーで一番観客が入った大会。大舞台での優勝は絵になり、観客を興奮させ、千両役者と呼ぶにふさわしい存在です。
コロナ禍となり、そして大きなスウィング改造後、初の優勝。最終戦の日本シリーズでも優勝争いを演じ、大会を盛り上げ、久々の優勝を機に本来の調子を取り戻しつつあるようです。
日本シリーズに関していえば、前述の蟬川、桂川有人、河本力、大西魁斗ら8人もの初出場者が話題を集めました。一方、遼くんはといえば、谷原秀人、池田勇太の14回に次いで13回目の出場。しかも31歳という若さでです。
15歳でセンセーショナルな優勝を果たして以降、遼くんは常にゴルフ報道の中心にいました。勝てばもちろん、20位、30位になっても予選落ちをしても、やれスウィング改造をした、コーチを代えた、ときに私生活までその一挙手一投足が注目され続けてきました。そんなことまで報道する必要があるのか。そんなふうに思ったことも一度や二度ではありません。
スウィング改造や肉体改造に取り組むたびにメディアが飛びつき、賛否両論がついて回る。常に変化を求めてきた遼くんですが、どんなことにも取り組もう、取り入れようというチャレンジ精神もまた遼くんの持ち味なのです。22年は、特に若手の躍進が目覚ましい一年でした。彼らの多くがゴルフを始めるきっかけになったのが遼くんです。女子でいえば(宮里)藍ちゃん、男子は遼くんのアマチュア優勝が、ジュニアのゴルフ人口を飛躍的に増やし、底辺を拡大させました。そして彼のゴルフに対する情熱は、今も若手に大きな影響を与えているようです。
実は昨年、9月のANAオープンと10月のHEIWA・PGMの試合会場の駐車場でバッタリ遼くんに会いました。その風景は二度ともまったく同じ。車から降りるやトランクから1本クラブを取り出し、「今日はこんな感じでいくぞ!」といったオーラを出しながらイメージ素振りをするのです。それはまるで子どものようで、ゴルフが楽しくて仕方がないといった様子。その光景はなんともほほえましく「トップ選手はゴルフをずっと好きでいられる能力が高い」という光景を目の当たりにした感じで少しの間見入ってしまい、その後歩み寄って話しました。
永遠のゴルフ少年。2023年も、ゴルフ界を引っ張る遼くんがいることは間違いありません。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年1月31日号「うの目 たかの目 さとうの目」より