距離感に目覚めるヒント①型にこだわりすぎると、感性が消されてしまう
アマチュア時代から、アプローチには非凡な才能を発揮していた石川遼。その石川が、「アプローチはアマチュアにも究められるチャンスがある」という。その真意とは?
「これはボクの持論なんですけど、カップに近いショット、近いクラブほど、『型』が重要じゃなくなると思うんです。
つまり、打ち方は人それぞれでいい。なぜかというと、カップの近くからは大きく振らないし、強くも打たないから。打ち方による差が出にくいんです。
アプローチだと、どんな打ち方をしていても、ある程度つじつまが合っていれば、スコアが100前後の人でもプロや上級者とあまり変わらない結果が出せます。
遠くに飛ばす必要がないので、結果に対するハードルがショットよりだいぶ低くなりますよね?
だからこそ、誰でも上達するチャンスがあるということなんです」
それでも、いわゆる「基本の打ち方」のようなものの習得は必要ではないのか?
「カップに近づくほど、感覚のほうが大事になるので、型にとらわれないほうがいい。逆に言うと、型を意識しすぎると、どんどん感覚を生かせなくなるんです。
つまり、『こういう打ち方で』という部分にこだわると、いいヘッドの入り方、いい当たり方はするかもしれないですけど、『寄せる』意識がなくなってしまう。結果として、完璧に打ったのにまったく寄らないということが起きてしまうんです。
アプローチでは、最低でも自分の感性を生かせる状態にしておかなくちゃいけない。そのためには、別にきれいな打ち方でなくていいんです」
感性=距離感(タッチ)だとすると、そのタッチを作るにはどうすればいいのか?
「本来は、練習によって身につけるもので、たとえば『右手1本』で打つ練習がすごくいいんですが、そうはいってもアマチュアはアプローチ練習にほとんど時間を割けないですよね?
そうなると、距離感はその人が持っている潜在的なものを使うしかない。ゴミ箱にペットボトルを投げるのは、練習しなくてもパッとできる。しかも、空のものと水が入ったものだと、感覚で投げる強さまで瞬時に変えられるじゃないですか。その感覚を育ててアプローチにも生かしてほしいんです」
距離感に目覚めるヒント②「人生一度でいいから5ヤードを300球打ってみよう」
アプローチで最重要の感性(距離感)を磨くのに、石川が「人生で一度はやってほしい」というのが、キャリー5ヤードを300球打つ練習。
「プロの歌手でも、アカペラで歌うときは最初の1音を出してもらうみたいに、アプローチにも基準になる距離が必要で、それが『5ヤード』なんです。
なぜ300球も必要かというと、最初はまず『当たらない』という問題が出るかもしれない。その場合はスタンスやボール位置を確認して、最低でもザックリや大トップが出ない状態になったら、次は5ヤードを狙っているのに2ヤードしか飛ばないとか、6ヤード飛んじゃうといった『力感』の問題になってきて、ここからは『数』の練習になります。
ひとつのことをずっとやると、5ヤードの感覚が自分の中にちゃんとできてくるのがわかるはずです。『何となく』じゃなくて『いつでも打てる』に変わる。人生で1回でいいからやってみると、そこからアプローチに対する考え方が全然違ってくるはずです」
5ヤードは、一番小さく構えて、何も考えずにポンと打ったキャリーの目安。
人によってはそれが6ヤードでもいい。とにかく、その距離を何回でも再現できるようになれば、それを基準にいろいろな距離の打ち分けが簡単になるということだ。
(後編へ続く)
撮影/姉崎正
※週刊ゴルフダイジェスト2023年2月7日号「石川遼の距離感に目覚めるアプローチ」より抜粋