23年はトーナメントで有村智恵の姿を見ることはない。「でも試合だけじゃないゴルフの楽しみもあるな、と思っているところです」という有村智恵と陣内貴美子のアスリート対談は後編へ。
画像: ゴルフを再開した陣内からコーチを頼まれて、「出張個人レッスンいたします」と即答した有村(撮影/南しずか)

ゴルフを再開した陣内からコーチを頼まれて、「出張個人レッスンいたします」と即答した有村(撮影/南しずか)

有村 陣内さんはセカンドキャリアとしてキャスターもなさって。よく決断されましたね。

陣内 決断はしてないの。私がヨネックスでバドミントンのコーチをしているとき、明石家さんまさんの番組に出ることになったんだけど、さんまさんはご存じ、素人いじりの天才(笑)。

で、そのときのやりとりをたまたま見ていたフジテレビのプロデューサーが「キャスターをやってほしい」と言ってくださって。

でも、私は当時、ヨネックスの社員。もちろん上司に相談しました。そしたら「外の世界を見るのもいいんじゃないか。でも、テレビは水物。どうなるかわからないから、うちの仕事も続けなさい」と言ってくれたんです。

有村 えー、素敵な上司の方ですね。

陣内 そうなの。でも、そのうちキャスター業が忙しくなってきてコーチ業ができず、選手に対して失礼だなと思うようになったんです。

それでもう一度その上司に相談したら「今しかできないことをやったら? それでキャスターの仕事を将来バドミントンの普及につなげればいいんじゃない?」と。

有村 キャスター業を通してそれまでとのギャップを感じたことはありましたか?

陣内 まず、バドミントン以外のことは全然わからなかった(笑)。最初は、野球だったら「巨人とどこか」。そのレベル。

あとはね、なまる(笑)。指摘されるんだけど自分じゃわからないから母に電話するでしょ。で「お母さん、私、なまるってたい」と相談して、原稿を読んでみるの。すると「よかよか、ちゃんとできとる」って。

それで、母に聞いたらダメだとわかって「しばらく電話せんけん」ってなった(笑)。

有村 確かに、今の熊本弁、ネイティブでした(笑)。

陣内 言葉のほかにも気をつけたのは、自分の専門のバドミントン以外では技術的な話をしないということ。

たとえば、プロゴルファーに「あのパットのタッチが」とか絶対に言わない。聞くとしたら自分の経験と共通するメンタルについてくらい。

あとは、アスリートとして自分がされて嫌なことをしない。集中したいときに「調子どうですか?」とか聞かれるのは嫌なものでしたから。そのあたりはアスリートとしての経験が生きたと思いますね。

キャスターを始めてからは、尋ねる側の気持ちもわかるようになってきました。アスリートの気持ちを乱そうとかじゃなくて応援しているの、確実に。それで、私は「両方の気持ちがわかる」と思って「じゃあ両者をつなぐパイプ役になれる」と気づいた。

それが私なりのやり方というか、今のキャリアにつながった部分です。

有村 キャリアの話でいうと、実は私、2023年シーズンはゴルフはお休みして、妊活に専念することにしました。

実は昨シーズンから始めていたんですが、スケジュールと体調との兼ね合いとか、モヤモヤが取れない状態だったんです。

競技に専念すれば妊活ができなくて、その逆も同じ。そういったモヤモヤの1年が続くなか、どっちの選択をしたら後悔が少ないか考え、妊活に専念することにしたんです。

でも、競技と違って“答え”がない。努力が必ず実るかといったらそうとも限らないし。挑戦してみなければわからないことでもあると思っています。

陣内 私も不妊治療の経験があるから、有村さんがさっき「挑戦」っていう言葉で表現したとき「アスリートだなあ」って思いました。これまで頑張ってきたからね……。

そして頑張っただけの結果が出るかどうかわからないのが不妊治療なんだよね。

だから「この休養期間中に!」とか思わなくていいと思う。心がね、つらくなっちゃう。私のときは「今月もダメか」とがっかりしているんだけど、周囲には普通の顔をしてないといけなくて。

時代もあると思うけど「不妊治療している」と言えなかった。そのタイミングで取材が入っても「その日は……」なんて言えなくて。それが有村さん、自分の言葉でしっかり話している。それってすごいこと。

周囲には同じ思いをしている人もいるだろうから、その人たちにとって有村さんが指標になることもあるし、勇気づけられている人もいる。

でも「自分がみんなの指標に」と強く思うのもまたしんどいのもわかる。

有村 そうですね。試合となれば綿密にスケジュールを立てて体を追い込んでいくのがこれまでのスタイル。

“頑張らなかった経験”があまりなくて……。そして、妊活ってほんとに人それぞれ。私も探り探りで「私は今、正解のないところにいるんだ」ということを何とか受け入れた状態です。

先ほど陣内さんが「不妊治療のことを人に話せなかった」とおっしゃいましたが、こうして私が「妊活に専念するので休養します」と言えるのも、簡単にいえば「時代」なんですけど、それは誰かが変えてきてくれたものなんだなって。ありがたいって思います。

私の休養を理解してくださる人も多くて、それもありがたいんです。ほんとうにありがたいことがたくさん。

そして、今日は陣内さん、貴重なお話をありがとうございました。

陣内 あらっ、シメに入った(笑)。

そうそう有村さん、私、最近、インスタにもアップしているんだけど、ゴルフを再開したんですよ。夫に「おばさん打ち」って言われて悔しいんで、教えてもらえませんか?

有村 お安い御用です。出張個人レッスンいたします。

陣内 やったー。ゴルフ頑張る(笑)。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年2月21日号「有村智恵&陣内貴美子 異種アスリート対談」より

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