昨年11月、プロゴルファー金井清一が82年の生涯を閉じた。新潟の農家から東京の電気店へ就職し、店にあった「鳥かご打席」でゴルフを覚えてプロとなり、“公式戦男”と呼ばれるまでのトッププレーヤーとなった。シニア入り後も活躍し続けたゴルフ界の功労者。ここに載せた記事は、当時36歳の金井清一がその年の「日本プロチャンピオン」として、スムーズ・スウィングについて語った、47年前の1976年・週刊ゴルフダイジェストの特集です。

今年度のプロ日本一の座を勝ちとった金井清一は、スムーズなスウィンガーとしてプロ界の最右翼に位置しています。そこでアマチュアにも可能なスムーズ・スウィングの秘訣を聞いてみました。案ずるより生むが易しとはこのこと、実はこんなにやさしい方法だったのです。

インパクトはアドレスと同型

“ボールを打つことはできてもクラブは振れてない”。アベレージゴルファーのスウィングをいったつもりですがこんないい方でわかるでしょうか。長いクラブ、とくにドライバーでその傾向が顕著なようです。

ゴルフにはセオリーとかタブーがいくつもあります。それらが究極的に言おうとしていることはクラブを振るためにはどうしたら良いのかということなのです。

画像: 週刊ゴルフダイジェスト1976年10月27日号の表紙。上段に金井清一ナイス・フォームの秘訣の帯

週刊ゴルフダイジェスト1976年10月27日号の表紙。上段に金井清一ナイス・フォームの秘訣の帯

例えば、頭を動かすな、と言います。頭が動くと円軌道の中心がブレて、クラブを振れなくなります。それを戒めるために頭をしっかり固定しておけと言っているのです。だから、クラブが振れていない原因に頭が動くというのがあります。それともう一つ、私が目にして気付いたことに、ウェートシフトにこだわりすぎていることがあります。

アドレスでは両足に均等にウェートをかけて立ちます。そこから、バックスウィングが始まり、クラブが上がっていくにつれて、ウェートは右足に多くかかっていきます。ダウンスウィングは体の回転を戻すとともにウェートを左に移行してゆき、ボールを打ち終わったフィニッシュでは、全体重が左足一本にかかります。ウェートシフトを簡単に説明するとこういうことになります。

問題はインパクトです。この一瞬、ウェートは左右均等、アドレスの状態に戻っているべきです。そうでなければ、インパクトはアドレスの再現という言葉の意味がなくなってしまいます。ところがどうでしょう。ほとんどのアベレージゴルファーが“左サイドの壁”という言葉に惑わされて、左にウェートを多くかけているのではないでしょうか。

これが初歩的な誤りだというのは、実際にやってみればすぐ分かることです。ボールにアドレスしてみて、左腰を目標方向に突き出してみて下さい。それが左サイドの壁を作ってみた状態です。そのときグリップとクラブフェースはどうなっていますか?

左腰が左に動いただけグリップもアドレスのときより左にあるはずです。クラブフェースは決してスクエア──アドレスしたときのような──にはなりません。そのことよりも、この場合問題にしたいのは、グリップが左に動いただけ、クラブヘッドの振りが妨げられたということです。つまり、クラブヘッドを走らせていない。ということになります。

ハンドファーストとは違います。アドレスでグリップエンドをあらかじめ左に倒しておきインパクトがその状態に戻ってくるのがハンドファーストの正しい方法です。どんな打ち方にしろ、アドレスのグリップエンドの位置をインパクトに正しく再現することでなければいけません。

私はドライバーでグリップエンドがおへその位置より若干左を指すアドレスをとっていますが、アマチュアの方もこのアドレスでいいでしょう。インパクトでは正しくその位置に戻すことを心がけてください。そこに戻ってくれば、ウェート配分もアドレス時と同じになるはずです。もちろん頭の位置とか体の回転、つまり肩の線などアドレス時と同じになります。そういうことすべてをひっくるめて、インパクトでアドレスのかたちを再現できるのです。

これはスウィングを単純にすることでもあります。ということは、クラブヘッドの描く円軌道とは別に、それより小さな、グリップの描く円軌道もあるわけです。
 

フォローで左サイドの壁

インパクトでグリップがアドレス時より左にあれば振りが妨げられるというのをもう少し詳しく説明しましょう。

画像: 金井清一レッスン特集のタイトル

金井清一レッスン特集のタイトル

スウィングの中心はさっきもいったように頭です。頭を支点ににしてクラブヘッドが大きな円を描きます。頭とクラブヘッドは一本の線で結ばれているのではなく、クラブのシャフトと腕に分けることができる。ということは、クラブヘッドの描く円軌道とは別に、それより小さな、グリップの描く円軌道もあるわけです。

頭の位置とグリップとクラブヘッドの3点が一本の直線のままスウィングされるのが、クラブヘッドを走らせるもっとも理想的な状態のはずです。

ダウンスウィングでグリップが先行するのは必然です。ところが、その状態でインパクトを突き抜けてしまうと、クラブヘッドの抜けていく余地がなくなってしまう。だから、ドライバーのインパクトでは、3点が一直線になるようにアジャストして、フォローを抜けやすくしてやる必要があるのです。それが、クラブヘッドを走らせるということです。

インパクトからフォロースルーに入りますが、そのときにこそ“左サイドの壁” が必要になるのです。これは、ボクシングのパンチを例にとって説明しましょう。右のパンチが相手の顔面に当たった瞬間が、スウィングのインパクトになり、そこから相手を押し倒すように右腕が伸びていくのがフォロースルーというふうに考えてください。

右パンチを顔面に叩きつけてそれからグッと右腰を捻ってウェートをのせていくのが、相手にもっと効果的なダメージを与える方法です。ゴルフでいう‟左サイドの壁”のような体勢を作っておいてから繰り出す右パンチに威力はありません。

右足親指のハラで地面を踏み込むようにすると右腰が入ります。このとき左腰が押されて若干左に出る。これが左サイドの壁なのです。つまりフォローの過程で左サイドに張りができるのがゴルフスウィングの正しい方法というのがお分かりになると思います。

ともあれ、大切なのは、体の幅の中でグリップエンドを操作するということです。クラブ・ヘッドを走らせる練習ということでこういうのはどうでしょう。両足を揃えて立ち、その状態でクラブを振ってみるのです。

両足を揃えて不安定な立ち方をしているのですから、グリップが体から離れてしまうことはありません。あくまでもクラブヘッドを振るスウィングになるはずです。そういうスウィングに馴れたら、次に30センチくらいのスタンス幅で立って、同じようにスウィングしてみます。

そのスタンスでボールを打ってみてもいいでしょう。ドライバーで150メートルくらい先に目標を置いて、先端を振るつもりでスウィングするのです。
 

フォワードプレスの効用

両足を揃えてスウィングしてみると分かることがあります。それは、スウィングの間中、グリップエンドはアドレスで指したところと同じ方向を指していることです。バックスウィングでも、フォローでもそうなっているはずです。

画像: トップとフィニッシュでウェート配分は左右対称になると説いた金井清一

トップとフィニッシュでウェート配分は左右対称になると説いた金井清一

よくバックスウィングをどう上げたらいいのかと質問されますが、こうしてみて見ると、クラブが上がっていく軌道はたった一つしかないことになるのです。

バックスウィングは、全身が一体になって始動されますが、クラブが上がっていっても、グリップエンドは、アドレスで指していたところと同じ体の位置を指しているはずです。

バックスウィングをさらにスムーズに上げていくのに欠かせないのが、フォワードプレスです。アドレスから、いったん左方向にクラブを押し込む動作の反動を利用してバックスウィングを始める。フォワードプレスをさらに徹底させるために、私は次の方法を勧めます。

プロ野球の張本勲選手がバッターボックスに立って、ピッチャーの方向に向けてバットを横にねかせるのを見たことがあるでしょう。あれがそもそもフォワードプレスです。

ゴルフでは、アドレスに入って最後に目標に目をやったときからフォワードプレスと思って、そのまま視線をボールに戻してきてクラブを上げていくとスムーズにバックスウィングできます。もちろん、アドレスの姿勢も大切です。

私自身のことですが、知らず知らずショットが悪くなったことがありました。後で気付いたのは、バックスウィングで体がまわりにくいアドレスになっていたのでした。肝心なのは、バックスウィングで体が十分まわる姿勢であることです。なおかつ、上体の安定が保たれないといけません。ここでアドレスのポイントを一つだけあげておきましょう。

右足の向きは、緊張感のあるトップスウィングを作るキーです。よくいわれるのは、ラインに対して右足は直角にしろというもんですが、体の硬い人がこうすると、肩がまわらなくなります。肩を90度まわして右ひざが流れない位置がベストです。

そういうアドレスの姿勢を作ってフォワードプレスからスムーズにバックスウィングを開始する。バックスウィングでグリップエンドが体の同じところをさしているようにクラブを上げる。インパクトではアドレスの状態を再現する……etc。いろいろと言ったようですが、それはすべて一本の線で結ばれていることですから、あなたは一つだけ、ヘッドを走らせるスウィングを念頭に置いておけば良いのです。それがスムーズなスウィングにつながるのです。

 

週刊ゴルフダイジェスト1976年10月27日号より

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