昨年、フジサンケイクラシックでプレーオフを制してプロ初優勝を飾った大西魁斗。日本生まれアメリカ育ちの“ハイブリッド”ゴルファーだ。アメリカの大学のこと、そして夢――気持ちを込めて語ってくれた。
画像: ピンを狙うときに「ディケイド」を"発動"する大西。このゴルフマネジメントの考え方によって、18ホールの数字がよくなるという

ピンを狙うときに「ディケイド」を"発動"する大西。このゴルフマネジメントの考え方によって、18ホールの数字がよくなるという

「すごく順調だとは思っています。でも、いろんな運がないとここまで来られないですから」 

大西魁斗はプロとしての今の自分をこう語った。 

21年、日本でプロ生活をスタート。Abemaツアー8試合で賞金ランク15位に入り、22 年前半戦の出場権を獲得した大西。

「昨年は1年通してずっと調子はよかったんですけど、フジサンケイのときは、それ以前に比べてベストではなかった。でも優勝するときはあんなふうにいい方向にいくんだと思いました。目標だった優勝ができてよかったですが、運で左右されたくないので、もっと実力を上げたいなと思います」 

運に感謝しつつ、運におぼれたくないと丁寧な日本語で答えてくれる大西。頭のなかではどちらの言語で考えているのだろうか。

「英語で考えるほうが多いんですけど、日本に帰ってきて1年半くらい経つので、ちょこちょこ日本語で考えているなと自覚しています。言語が違うととらえ方が違う。たとえば英語では強く言っている実感があっても、それと同じことを日本語で言うとそこまでストレートに感じなかったり……」 

コーチの内藤雄士が、大西はゴルフスウィングもロジカルに考えると話をしていた。

「アメリカでは全部ロジカルにメカニカルに説明する。個性的な練習もあまりしなくて、ずっと基本重視でやってきました。

内藤さんもまったく同じ考え方というか、僕が『今のショットこういう感じだったんです』と言うと、その感触をメカニカルに説明していただける。そこを直して打っていくとやはり感触がよくなります。内藤さんとはもう3年経ちますけど、その辺がすごく合っています」 

スウィングで一番大事にしていることは「コーチの言うことを聞くこと」だと意外な答え。

「1年通して戦うなかで、いろんなことをやってみたいと頭には浮かぶんです。でも感覚と実際起きていることは違うので、自分で何かをいじってしまうと、修正するにはもっと時間がかかることになる。

今、You Yubeなどに簡単にアクセスできます。ほかの選手を見るのはいいんですけど、そういうアクセスが多いのは危険だと僕は思っています。内藤さんを信頼して教えてもらっているので、僕の仕事はきちんとマネジメントして、言われたことをしっかりやることだと言い聞かせています。

そういう部分ではゴルフって個人スポーツですけど、会社の経営みたい。あ、実際したことがないのにごめんなさい(笑)。でも一人では全部できないので周りに頼ってやっていくということを、昨年は特に頭に入れていきました」 

会社の経営が出てくるあたりが、面白い。この辺は“アメリカン”な考え方なのか。アメリカの大学ではさまざまなコーチやシステムが細分化されているのだという。

「今流行っているのは『ディケイド』というシステムです。大学のチームではすごく力を入れていて、そのシステム通りにマネジメントします。数学が得意な方が、セカンドショットの“狙い目”を数値化したもの。

たとえば残り100Yなら、その5%は5Y。だからピンが左から5Yだったら単純にピンを狙う。それが200Yになると、5%は10Yだから、同じ状況ならピンの右5Yを狙う。仮に左がハザードだったとすると、プラス1Yとするのでピンの右6Yを狙うことになる。

重要なのは、ピンを狙って、たとえばドローをかけてピンに止まってはダメ。“狙い目”にボールが止まるという計算なので、ピンの右6Yのところでボールを収めなければいけない。

18ホールを通してそれがスコアをつくるのに最適というのが、数学の計算として出ているんです」 

今も大西は、これを使ってセカンドショットを選択する。

画像: 日本ツアーは「めちゃくちゃ楽しい」という大西。日本生まれでアメリカ育ちの"ハイブリッドプロ"の夢は、PGAツアーカードを得ることだ

日本ツアーは「めちゃくちゃ楽しい」という大西。日本生まれでアメリカ育ちの"ハイブリッドプロ"の夢は、PGAツアーカードを得ることだ

大西魁斗がアメリカに渡ったのは9歳のとき。父が英語関係の仕事をしていて語学の勉強をしたかったから。ゴルフの練習環境がよかったのもあるが、勉強とゴルフが両立できることも大きかった。

「僕は『勉強は重要』と言われて育ってきました。プロゴルファーになるのは確率的にすごく難しいので、勉強はしておかないと、と思っていました」 

両親の教育方針がしっかりしていたのだろう。大西がアメリカで学び続けることにも反対などなかった。

「本当にありがたいというか、僕が一番いい方向にいけるようサポートしていただけました」

名門、南カリフォルニア大学(USC)を選んだのは、日本から近く馴染みのあるロサンゼルスにあること、環境もコーチもよいこと、勉学にも秀でていたことがある。

「勉強もゴルフも強いところに行きたいと考えていたら、いいご縁があって。何を専攻するかもすごく重要でした。USCにはビジネス専攻があり、たとえば経済専攻より、ファイナンスやリーダーシッップなど全部学べるし、就職するにしても自分が何をやりたいのかがわかると思ったんです」 

アメリカの大学のいいところはたくさんある。

「僕のチームは10人でしたが、本当に選手が上手くなれるプログラムや環境を用意してくれます。それに一般では使えないリビエラCCで練習できますし、遠征費用も大学から出ます」 

大西は3、4年時に「フルスカラシップ(奨学金)」を受けた。

「素晴らしい制度です。お金、かからないですよ」と言うが、「それにしても本当に勉強しかしていませんでした」と笑う。

平均睡眠時間は5、6時間だった。 

大西の月~金はこうだ。5時45分に起きて6時出発。6時45分にコース着、7時スタートでラウンド練習。11時に終わり学校に戻るのが11時40分。12時から「1時間50分のクラス」を3コマ受け、17時50分終了。友達とご飯を食べ、20時くらいから勉強と課題をこなし24時くらいに寝る。

ゴルフの練習は朝だけだ。

「1年生のときは、本当にこんな暮らしをしなきゃいけないんだとつらかったし、驚きもしました」 

2年になると自分の好きなようにスケジュールを組めるようにもなる。こうして時間管理の大切さや集中力などを学ぶのだろう。

「だから今の暮らしは結構ラク(笑)。大学ではソーシャルスキルも学びました。スーツでプレゼンしたり。重要なことですよね」 

皆、当然プロを目指す。しかし大学時代の戦績で決まる世界。大学3年を終えた頃に“結論”を出すという。

「僕は1,2年の戦績がよかったので、普通にいけばプロになれるかなと思っていたら、3年がよくなかった。だから1回インターンシップをしなければ雇ってもらえないと思い、いろいろな会社に連絡していました。でもその最中に『この人生はつらいぞ』と思い始めて。

もう一回ゴルフをきちんとやろう、調子が悪いのはなぜかを探ろうと。後悔のないようにやってみようと思い、ご縁があって内藤さんに習い始めたんです」 

大学4年の3月にカナダのマッケンジーツアーの予選会を通過。しかし5月に卒業後すぐ、推薦で日本のAbemaツアーに出場。ここからはトントン拍子だった。 

「まず日本ツアーで頑張ろうと。きっかけをつくっていただけなかったら、正直今どこにいるかわからないので、本当にありがたいです。インターン、行かなくてよかった。

働いている友達の話を聞いていると、僕はプロゴルファーで本当によかったなと(笑)。何だか健康的じゃないですか。自分の時間を自由に使えますし」 

大西は“ご縁”という言葉を使う。縁を大切にし感謝するのは“ジャパニーズ”らしい。それでも結果を出してきたのは自分自身だ。

「日本では確かに狭いコースはありますが、それで難しいとは思わなかった。ただ、芝には悩まされました。ベントと高麗が交互でくる。でも、この芝だったら自分はこの傾向があると学んでくることができたのは大きいです」 

日本ツアーは「めちゃくちゃ楽しい」という。では、日本のレベルは?  今、若い選手が台頭し、海外へも積極的に挑戦している。

「日本ツアーでも、本当によいゴルフをしないと上にはいけません。コーンフェリー(ツアー)の最終QTは当然アメリカの今後活躍するトップ選手が集まっていますが、そこで見たとき、日本選手のほうが上手いと思ったんです」 

そのコーンフェリー最終QTは「めちゃめちゃ疲れました」と大西。

「日本のツアーカードを持っているので、もしダメでも日本に参戦できる。そう考えて気楽に行こうと思ったんです。でも試合に入ると負けたくないって。何より自分が成長していないのは受け入れられないというか、自分の成長を証明しなければいけなかった」 

12位という結果には納得しているという。

「トップ40に入りたかった。トップ10との試合数の差は4試合。8試合もいただいて、残りの試合に出られないようなら、自分の実力がそれまでだと思います」 

夢のスタートに立った大西は、年明けソニーオープンに出場後、コーンフェリーツアーに参戦。南米のバハマ、パナマ、コロンビアで戦っている。 

目標はもちろん、PGAのツアーカードを得ること。だからLIVゴルフに関しての考えは明確だ。

「僕は本当にPGAツアーに行きたい。そこで活躍することに意味はある。コーンフェリーのエントリーフィだけでも6000ドルくらいかかります。

大学卒業してスタートダッシュが必要だから、すぐLIVに行く人はいるかもしれない。でも、ゴルフ人生が終わったときに後悔はしたくないので。僕は夢を追いかけます!」

大西のような道を進みたいジュニアたちへアドバイスは?

「練習を人一倍すること、それに、何をするにも自分を知ることがすごく重要です。あとは周りの人を信じること。そしてとにかくアメリカの大学に行ってほしいですね」

ときっぱり。

「PGAのシステムで、大学で活躍したらそのまますぐPGAやコーンフェリーツアーに行く道もある。それに、人生として考えても損はない。いろんな人種の人がいるアメリカの大学で過ごして、いろんな人と出会って友達になるのが、将来的にはすごく大切です」 

大西のルーティンは侍が刀を構えるかのようにも見える。

“アメリカン”と“ジャパニーズ”、どちらも大西を育て強くしてきた。そんな大西魁斗から目が離せない。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年2月21日号「”逆輸入プロ”の進む道 大西魁斗」より

This article is a sponsored article by
''.