ゴルフには、みんながなんとなくそう思っている定説がいくつもある。もし、その定説が違っていたとしたら……。1メートルが9割の確率で入る「トライプリンシプルパター」とその理論を作り上げた福岡大学名誉教授、医師・医学博士の清永明(きよながあきら)先生とともに考える新コーナー! 「ボールはバックスピンだけで戻らない!?」を引き続き検証!
画像: ショットで空高く放たれたボール、地面に着弾して転がるとき、スピンはどうなっている?

ショットで空高く放たれたボール、地面に着弾して転がるとき、スピンはどうなっている?

2回にわたってお送りしておりました、名付けて「バックスピンだけでボールは戻るのか?」問題。第1回目は背理法によって「バックスピンではボールが止まらない、戻らない」を証明しました。第2回目ではバックスピンという因子を排除して、ボールがグリーン上で止まるために関係する諸々の因子を列挙しました。

「ゴルフの常識」にとらわれ続けているみなさんの頭もだいぶ柔らかくなってきてのではないでしょうか?  では3回目の質問です。一緒に考えてみましょう!

(質問)真っ平らで凹凸のない0%傾斜のグリーン面に落下したボールが進行方向へと転がる場合、そのボールのスピンはどうなっていますか?

1)落下後も転がる進行方向に逆らう回転(バックスピン)のままで止まる。
2)落下後は転がる進行方向に順じる回転(オーバースピン)で止まる。

画像: 打ち出された弾道にはバックスピンが掛かっていて地面に着弾する。そのあとボールにはどんなスピンかかかっている?

打ち出された弾道にはバックスピンが掛かっていて地面に着弾する。そのあとボールにはどんなスピンかかかっている?

第1回で発表しましたように、私が実験者となり、自らサイエンス・アイを使ってデータを収集しました。その中でもとくに新知見である、56度SW のラン(ローリング) に影響する上方向打ち出し角度とバックスピンとの関係をもう一度見て頂けますでしょうか?

これらのデータからもわかる通り、グリーンに着弾してからのボールのランを抑えるにはバックスピン数ではなくて、上方向の打ち出し角度が大きく関与しています。

測定データの分析をする際バックスピンを発生させる因子に関しては、河村龍馬東大名誉教授(「ゴルフ頭の体操」133〜137, 149~153頁、昭和47年2月10日:ゴルフダイジェスト社)の考えを参考にしました。河村教授はインパクト時のボールに働く力として「法線力」と「切線力」という言葉を以下のように定義されました。

ヘッド運動によるベクトル(力と方向)はフェース面に対して垂直方向の「法線力」とフェース面に平行な方向の「切線力」へ分解する。

「切線力」はボール接触面に対する摩擦力ですからボールのバックスピン数をおもに決定します。「法線力」はボールを押しつける力ですので飛距離に関係します。

第1回で紹介しました私自身の研究結果からは、新知見として上方向打ち出し角度とバックスピン数との二者関係において有意な逆相関を認めました。なお逆相関するということは上方向打ち出し角度とバックスピン数のそれぞれの数値を掛け合わせた値(つまり二重積)は一定になると理解できます。

これらを考え合わせますと、バックスピン数を規定するのは河村教授説であるロフト角のボールに及ぼすベクトルだけでなく、インパクト時のボール中心(重心位置)とヘッドの重心位置との関係、並びにフェース面の上下左右のどこの部位に当たっているのか等の相対的な位置関係によっても影響されることが示唆されるのです。

その他にも「ゼクシオ」の開発者メンバーとして有名な山口哲男氏(「飛ばすため!曲げないため!ゴルフ&ボール本当の科学」44〜49頁、2008年10月21日:パーゴルフ新書)によるコンピューターシミュレーション解析を根拠とするボール内部構造の素材の差異によって生じるリコリル説もあります。

恐らくゴルフの研究者やメーカーから発表されているインパクトに関係するデータは、理論上の一点(例えばフェース中央点)に集約されているようです。また被検者がプロゴルファーやスイングマシンによって収集されたのですから、当然データの分散や誤差は少なくなります。

いっぽう素人である若かりし頃の私自身の生データは、インパクト点がフェース面でバラつく(打点の分布範囲が広くなる)のはやむ得ないでしょう。しかしながら図に一球ごとに黒点で示している通り、素人のインパクト点の分布が広いことによって、打点分散に基づく上方向打ち出し角度とバックスピン数との二者相関において有意な負の一次回帰式が成立したと考えます……。まったく何が幸いするのか分かりません(笑)。ですが、結果的に新知見を得ることができました。

その結果、「いままでみなさんが思っていた常識」とは異なり、バックスピン数が多い場合はランが多くなるという、この驚きの事実を発見できたのです!!

画像: 清永教授の試打テストによる、56度SW のラン(ローリング) に影響する上方向打ち出し角度とバックスピンとの関係

清永教授の試打テストによる、56度SW のラン(ローリング) に影響する上方向打ち出し角度とバックスピンとの関係

ちなみに6番アイアンでも実験しましたが、上方向の打ち出し角度がランには大きく影響し、バックスピン数はランには無関係であり、あくまでもインパクト時の重心位置との関係で決定されるものであるということがわかりました。

画像: 清永教授の試打テストによる、6番アイアン のラン(ローリング) に影響する上方向打ち出し角度とバックスピンとの関係

清永教授の試打テストによる、6番アイアン のラン(ローリング) に影響する上方向打ち出し角度とバックスピンとの関係

しかし、しかしですよ、これがロフト角21度の3番アイアンで実験すると違う結果が出ました!

3番アイアンは他のクラブと異なり、これまでの常識通り、上方向の打ち出し角度が大きくバックスピン量が多ければ多いほどランが少なくなったのです。常識とされるバックスピン数が多ければ多いほどにボールが止まるのはロングアイアンの場合だけだったのです。

画像: 清永教授による、3番アイアン のラン(ローリング) に影響する上方向打ち出し角度とバックスピンとの関係

清永教授による、3番アイアン のラン(ローリング) に影響する上方向打ち出し角度とバックスピンとの関係

これらの結果から

「ラン(ローリング)を少なくするには?/どうしてボールを止めるのか?」への答えとして、ショートアイアンだけでなくミドルアイアンやロングアイアンでは以下に示すように、

1)SWは打ち上げ角度が上方向になればなるほどよく止まる。

2)PWは打ち上げ角度とバックスピン数のうちのどちらか片方によって決まる。

3)6番や3番アイアンは打ち上げ角度とバックスピン数の二重積が多ければ多いほどに止まる。

ということがわかりました。

ではウェッジやショートアイアン、ミドルアイアン、ロングアイアンのすべてのアイアンクラブに共通しかつ共有できるような、ランの転がり距離を決定する因子は果たして何なのでしょうか。確かに上方向打ち出し角度とバックスピン数の2つの因子が何らか形で関係するだろうと思われました。次回では続きとして、さらに詳しく解説したいと思います。

今回(第3回)の質問に対する答えは、

2)の落下着弾点からはオーバースピンで進むが正解です。バックスピンを維持・保持したままで止まっているのではありません。パットしたボールがグリーン上で止まる動きと同じ現象です。

これへの解説は次回に回させて頂きます。

みなさんの答えは合っていましたでしょうか? 

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