みなさんこんにちは。SPORTSBOX AI・3Dスタッフコーチの北野達郎です。
今回は、今年に入って早くも3勝で世界ランキング1位に返り咲くなど、絶好調のジョン・ラームのスウィングをスポーツボックスAIの解析をもとに比較してみましょう。ラームと言えば、非常にコンパクトなトップが特徴的です。
まずグリップですが、両手ともにウィーク寄りのスクエアグリップです。このグリップは彼の特徴であるトップでの左手首の掌屈が入りやすく、スウィング中のフェース面をシャットに保てますので、フェードボールがマッチします。本人いわくティーショットでドローボールを打つ時にストロンググリップにすることを試したこともあったそうですが、マッチせずに3Wをドローバイアスのセッティングにしてドローを打っているそうです。
次にアドレスですが、ラームは身体を右足寄りにセットする「ビハインド・ザ・ボール」のセットアップです。スポーツボックスAIでアバターにしたアドレスの写真をご覧ください。頭、胸、骨盤それぞれの中心点が右足に寄っていることが分かります。このアドレスはアタックアングル(入射角)がアッパーブローになりやすい特徴があり、後述するラームのインパクトの特徴と関連があります。
続いて特徴的なトップのデータを見ていきます。CHEST TURN(胸の回転)は-73度、PELVIS TURN(骨盤の回転)は-35.7度といずれも右への回転は浅めですが、X-FACTOR(胸と骨盤の捻転差)は-44.6度としっかり捻転差が作られているのが分かります。
この捻転差があることでコンパクトなトップでも飛距離を出すことができます。そしてラームのようにコンパクトなトップを真似したいと考えている方に是非参考にして頂きたいデータがあります。それはデータ右端のMID-HANDS SWAY(アドレスの位置からの両手の左右移動)の項目です。
ラームのトップでの手の位置は-28.6インチ(72.6センチアドレスより右)と、かなり手が身体から遠いポジションでトップを迎えます。スポーツボックスAIのデータによると、PGAツアープロのレンジ(範囲)は-15.8~-8.0インチ(約40.1センチ~約20.3センチアドレスより右)ですので、ラームのトップはその倍近く身体から遠いポジションでトップを迎えていることになります。
おそらくラーム自身はP3(腕が地面と平行)のポジションでP4(トップ)という感覚で、あとは惰性で結果少し手が上がっているのだと思います。昔からテークバックは「アークを大きく・長く」とよく言われますが、ラームのように「手が身体から一番遠く長いポジションでトップの位置」という意識でスウィングすると左腕も伸ばされた良い位置にトップが収まりやすくなります。ちょうど弓矢を引くようなイメージで、トップの手の「高さ」ではなく「長さ」を意識するのがポイントです。
そして、ラームのインパクトについても解析してみましょう。先ほどアドレスで「ビハインド・ザ・ボールのポジションは、アッパーブローになりやすい」とお伝えしましたが、もう少し細かく言うと「このアドレスにすることでアッパーブローに入るように工夫している」です。
と言うのも、ラームに限らず最近のPGAツアープロに多いティーショットでのアッパーブローは、「ハンドファースト+アッパーブロー」だからです。ラームのインパクトのデータをご覧ください。先述のMID-HANDS SWAY(アドレスの位置からの両手の左右移動)のインパクト直前のデータは+5.4インチ(約13.7センチアドレスより左)です。通常このくらいハンドファーストですと入射角は本来ダウンブローになりますが、先述のアドレスで作った「ビハインド・ザ・ボール」の状態をインパクトまでキープすることで、クラブの最下点は右に移動し、その結果アッパーブローのインパクトとなります。
ですので、ハンドレートでのアッパーブローですと両手の位置はアドレス時の0かマイナス(アドレスより右)で当たりますが、ラームの場合はプラス(アドレスより左)のデータなのでハンドファースト+アッパーブローと言えます。このインパクトはハンドレートのインパクトと違ってアッパーブローでもロフトを立ててインパクトできるので、スピン量を減らして飛距離を効率よく出せるのが特徴です。このハンドファースト+アッパーブローのインパクトは、ツアープロならではの技術と言えます。
今回はジョン・ラームのスウィングを分析させて頂きました。15年ほど前にデビッド・レッドベターが「クラブの進化が進んだ未来は、非常にコンパクトなトップが主流になる」といったコメントをしていたのを私も覚えていますが、ラームの活躍を見ると正にその体現者といった印象です。4月のマスターズの優勝候補筆頭のラームのプレーに目が離せませんね!
撮影/Blue Sky Photos