「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さてここ数回の記事では、アプローチショット上達のための考え方を、「クラブヘッドラグ」などの概念も含めて紹介してきました。

アプローチショットの「システム」をつくる

これまでの記事でも紹介してきたとおり、アプローチショットというのは様々な条件のために難易度が高いだけではなく、スコアメイクにおける重要度も高いショットになりますので、上級者ほど経験や感覚的要素に頼りがちになると言えます。

別の言い方をすれば、アプローチが上手なプロがいるとして、「どうやってそんなに上手くアプローチを打っているのか」と聞かれて、完全に論理的に説明できるプロというのは多くない気がします。10mのパットでも状況に応じて様々なタッチやラインがあると思いますが、プロが「なぜ」それをOKのゾーンに寄せられるのかを論理で完全に説明することは難しいでしょう。

そのいっぽうで、レッスンの現場で「いやそんなもの全部感覚ですよ」と言ってしまったら、それがそのレッスンプロにとって真実であるとしても、レッスンとしての情報量はゼロになってしまいます。

恐らくそのプロには、子供のときからウェッジという道具に慣れ親しんで、ボールを拾い上げたり、リフティングをしたり、わざとエッジで打って転がしてみたりといった「遊び」の中で、人生で何十(百)万球もウェッジでボールを触ってきた上での「感覚」があるわけです。

しかしアマチュアの場合はそうはいきませんので、せめて「30ヤードはこの振り幅、65ヤードはこの振り幅、30ヤード未満はボールのスピードだけをイメージして」など、状況に応じた対応を行うための「システム」を作っていくことがまず重要だと思うのです。

「Pシステム」という概念

そこでスウィングの「振り幅」や「段階」についての具体的な基準があったほうがコミュニケーションとしてはやりやすいことになります。そうして考えられた概念が「Pシステム」と呼ばれるものです。

最近では「P5のポジションでは」などと、レッスン動画でも一般的な表現として使われることが多くなりましたのでご存知の方も多いと思いますが、ここでそのシステムについて紹介したいと思います。

画像: 画像A アドレスからバックスウィングにかけての各ポジションの説明。P1がアドレス、P2はバックスウィングでシャフトと地面が平行になった地点、P3は左腕と地面が平行になった地点を表す(写真はスコッティ・シェフラー)

画像A アドレスからバックスウィングにかけての各ポジションの説明。P1がアドレス、P2はバックスウィングでシャフトと地面が平行になった地点、P3は左腕と地面が平行になった地点を表す(写真はスコッティ・シェフラー)

写真の通り、スウィングの進行の各段階を表したものになります。例えば「P2の高さのバックスウィング」と言うことで、スウィングの振り幅の程度を共有することができます。

画像: 画像B P4がトップオブザスウィング、P5がダウンスウィングで左腕と地面が平行の地点、P6がダウンスウィングでシャフトと地面が平行の地点となる(写真はスコッティ・シェフラー)

画像B P4がトップオブザスウィング、P5がダウンスウィングで左腕と地面が平行の地点、P6がダウンスウィングでシャフトと地面が平行の地点となる(写真はスコッティ・シェフラー)

また同時に、各ポジションで発生しがちなエラーのチェックにも使用することができます。例えばP5でアーリーリリースが起きていないかと言ったことを確認することにも役立ちます。

画像: 画像C P7がインパクト、以後P8がフォロースルーでシャフトが地面と平行になった地点、P10がフィニッシュを表す(P9は割愛)(写真はスコッティ・シェフラー)

画像C P7がインパクト、以後P8がフォロースルーでシャフトが地面と平行になった地点、P10がフィニッシュを表す(P9は割愛)(写真はスコッティ・シェフラー)

最近では「GGスウィング」として知られる、ジョージ・ガンカスがこの表現を多用する指導者として有名です。

アプローチショットの振り幅にあてはめてみる

ではこれを実際のアプローチショットの距離の打ち分けにどう活用していくのでしょうか。

一般論として、フルショットの距離を10とすれば、P2のバックスウィングの振り幅であれば3〜4掛け、P3のバックスウィングだと7〜8掛けになります。つまりサンドウェッジのフルショットの飛距離が85ヤード前後とすると、P2のスウィングならば30ヤード前後、P3のスウィングならば65ヤード前後になります。

つまりアプローチショットの距離の打ち分けシステムを構築していく上で、最初はこの二つの振り幅を「型」として練習することが必要になります。まず30ヤードと65ヤードの距離を、自信を持って打てるようにするということです。

「じゃあ50ヤードの時はどうするんだ」という話になりますが、それはその二つの中間、つまりP2以上P3未満で打つのです。その範囲で打てれば、悪くてもピンから10ヤードくらいの距離には寄せられるはずです。

画像: 画像D P2以上P3未満の振り幅で打つ河本結の約50ヤードのアプローチショット(写真は2023年のダイキンオーキッドレディス)

画像D P2以上P3未満の振り幅で打つ河本結の約50ヤードのアプローチショット(写真は2023年のダイキンオーキッドレディス)

あるいはもう少しロフトの立ったクラブを使うことでも飛距離を伸ばすことができるでしょうし、少し短く持つことで飛距離を減らすこともできるでしょう。

ここは考え方で、「フルショット未満のショットは全部58度のウェッジを使って、スウィングの振り幅を変える」でも良いですし、「スウィングを変えずにクラブのロフト角で調整する」でも、やりやすいほうで良いと思います。大事なことは、そのプレーヤーにとって最も信頼性の高い「システム」を作っていくことです。

スウィングを細分化するための共通ポジション

この「Pシステム」は、今回のようにスウィングの振り幅の表現としても使用できますし、各ポジションにおいて必要な動作の解析にも使用できます。

スウィング解析の代表的な例では、「ダウンスウィングのP6のポジションでは、グリップエンドが目標方向を向いているべき」といったものがあります。

画像: 画像E ダウンスウィングで正面から見てシャフトと地面が平行になるP6のポジションでは、後方から見てもグリップエンドが目標方向を向いているのが「オンプレーン」の状態である(写真はコリン・モリカワ)

画像E ダウンスウィングで正面から見てシャフトと地面が平行になるP6のポジションでは、後方から見てもグリップエンドが目標方向を向いているのが「オンプレーン」の状態である(写真はコリン・モリカワ)

実はこのようにスウィングを段階ごとに切り取って、詳細に分析するということには賛否両論があります。実際のプレー中に、始動からフィニッシュまでおよそ2秒、ダウンスウィングからインパクトまではおよそ0.2秒という一瞬のゴルフスウィングの動作において、各段階のポジションを明確に意識することは不可能だからです。

かの「球聖」、ボビー・ジョーンズも、「スウィングの写真の一部を持ち出して、『この選手のスウィングはここが特徴的だ』などと言う人がいるけれど、実際の指導に役に立つとは思えない。なぜならスウィングは一連の流れる動作なのだから」という意見を持っていたとされます。

確かにあまり細部にこだわりすぎるのもどうかとは思いますが、ボビー・ジョーンズの時代と違い、現代ではモーションキャプチャーの技術を使用したスウィング解析はもはや常識になりつつありますし、誰もがスマホで自分のスウィングを撮影して「ここでヒジが曲がっちゃうんだよなぁ」なんて確認をすることも当たり前になっています。

ではいつからこの「スウィングの細分化」というややこしいことが始まったのか、つまり今回紹介した「Pシステム」の原型は何なのかということですが、それがどうも「ザ・ゴルフィングマシーン」だと言われています。

「ザ・ゴルフィングマシーン」では、「Pシステム」とは少し違った、「12のセクション」という表現でスウィングの段階の細分化を行っています。長くなりましたので次回の記事で紹介をしていきます。

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