2020年末、「卒業」という形で関係を解消していたメジャー優勝コンビが戻った。渋野日向子と青木翔コーチ。現在、何に取り組んでいるのか青木翔コーチに聞いた。

昨年末に、青木翔コーチの元へ「ちょっと行っていいですか?」と電話があり、「なんとなくそろそろ来るかも」と思っていたので、特に驚きはしなかったという。そして、新生・渋野日向子の道が始まった。

画像: 2019年の全英女子オープンに勝った後、帰国してすぐに行われたニトリレディスのドライビングレンジでのひとコマ。今年は笑顔のしぶこが見られるシーンが多くなる!?

2019年の全英女子オープンに勝った後、帰国してすぐに行われたニトリレディスのドライビングレンジでのひとコマ。今年は笑顔のしぶこが見られるシーンが多くなる!?

バックスピンが入るよう、トップの位置を高くする

青木コーチのもとを離れてから大幅なスウィング変更が行われているが、「元に戻さなければ」とは思わなかったという。

体格も変わり、今の体使いに馴染んでた動きもある。なので「イチから作り直しです」。とはいえ、目指す形は具体的に固まっているようだ。

「グリーンが硬く速い米ツアーで戦うには、スピン量の多い高い球が必須。じゃあそれを打つにはどうするか? と話しました。今までのスウィングはバックスピンが入りにくいから、トップの位置を高くしようという答えを出したんです」

「腕が長くて、左手を掌屈するのが彼女の特徴であり、強み。それらも加味したうえで“高いトップ”という目指すべきものが見えてきたのであって“高いトップ”ありきではありません」

渋野日向子は、以前から、切り返しで自然に左前腕から左手首を掌屈する特徴を持つ。フェースローテーションを抑え、インパクトロフトを立てられる。これは長所。

さらに、渋野日向子は、両腕を広げたときの長さが身長より9センチも長い。トップの位置を高くすることでその身体的特徴を最大限に生かすことができるという。

画像: 渋野日向子の身長は167センチ。両手を広げた長さはそれよりも9センチも長い(2019年撮影)

渋野日向子の身長は167センチ。両手を広げた長さはそれよりも9センチも長い(2019年撮影)

選手にヒントを与えて、気づきを積み上げていくのが青木翔流だが、スウィングのほかにも変化したことがあったそうだ。

「ゴルフに対してよく考えるようになっていました。以前は言われたことを黙々とやり続ける選手だった。もちろん、それもすごいけど、自分の考えや課題を言葉にできればもっと上を目指せる。その下地は備わっていると思います」

とはいえコーチとして復帰してからここまで2カ月と少し。これからは、ツアー参戦しながら修整をしていくという難易度の高いチャレンジは成功するのか。

「できる、できないではなく、やるだけです。ハイレベルな戦いというのはそういうこと」

高いトップを作るために、手元の動きだけでなく、根本的な修整を図ったという。

テークバックの始動を見直した

「トップの位置を変えるために、始動から見直しました。これまではフラット気味に上げようと、手でクラブの軌道を作っていました」

「それでクラブが寝た状態になり、極端なインサイドアウト軌道になってたんです。だから体の回転に合わせてクラブを上げ、自然とトップが高い位置に来るようにしました」

取り組み前後の違いはテークバックの軌道に表れている。「昨年までは、ヘッドが手元より背中側にありますが、直近では胸の前にヘッドがあります。ここでヘッドが体の正面にあればトップは自然と高くなります」

画像: 渋野日向子のテークバック。左が2023年。右が2021年。ヘッド軌道の違いは一目瞭然

渋野日向子のテークバック。左が2023年。右が2021年。ヘッド軌道の違いは一目瞭然

短い期間で大掛かりな変更となったわけだが、具体的にはどのような練習をしたのだろうか。

「極端な縦振りから始めました。強いスライスが出ますが、それはバックスピン量が増えた結果だからOKと。時間があれば僕の所に通い4時間近く打つ。そんな2カ月でした。量をこなせるのも彼女の強みです」

バックスピン量を増やすためトップを高くしたスウィング改造は、ドライバーにも良い結果をもたらしつつある。

画像: 左が2023年のトップ、右が2022年のトップ。短期間でこれほどの改造を進めた。「右ひじ高~くって、いつも唱えています(笑)」(渋野日向子)

左が2023年のトップ、右が2022年のトップ。短期間でこれほどの改造を進めた。「右ひじ高~くって、いつも唱えています(笑)」(渋野日向子)

「体でクラブを上げる動きはドライバーでも同じです。それを意識したことでトップでの捻転がより強くなりました。以前は手でクラブを操作していたので体のねじれが少なく、トレーニングで鍛えた筋肉を生かせていない状態だったといえます」

高い位置から振り下ろす力と、ねじり戻しから生まれる力で、力強いハーフウェイダウンが作れるようになってきている。

「小手先でヘッドを上げる動きを減らしたことはフェースローテーションを抑え、打ち出しを安定させることにもつながっています」

小手先で上げるのを防ぐため、ヘッドではなく上体から始動させシャフトを“Cの字”にしならせる意識を持って始動しているという。

画像: クラブヘッドから始動せずに、体全体で引っ張る動きでテークバック。線のようにシャフトがCの字になるイメージ

クラブヘッドから始動せずに、体全体で引っ張る動きでテークバック。線のようにシャフトがCの字になるイメージ

「おそらく以前のように“左右どちらのミスも出る状態”は、確実に減ると思います。フォロースルーで体の内側へ振り抜き、バックスピンの利いた高いドローになるのが理想です」

調整は続く。スウィングはまだまだ良くなる

一方で、まだまだ調整が必要な部分もあるという。

「適正なヘッドの入射角になってきていますが、改造前より鋭角になったのでバックスピンが多く入りすぎてしまう。目的に近づいているので良いことですが、試合で結果を出すことも考えシャフトを替えるなど調整をしていきます」

「シーズン中でも、スウィングはまだまだ良くなるでしょう。ただし、勝ちにつながるかはまた別。自分を変えながらも結果を残すのは難易度が高いですが、伸びシロだと思ってチャレンジしてほしいです」

新生・しぶこの道は、始まったばかり。これからも青木翔コーチとの道は続いていく。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年3月21日号より(PHOTO/Tadashi Anezaki)

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