バルスパー選手権ではスネークピットと呼ばれる池絡みの上がり3ホールでドラマが生まれるが、今回もトップに並んでいたスピースが足をすくわれたのがスネークピットの入り口=16番パー4。ティーショットを右の池に入れ4打目でようやくピン手前5メートル弱に乗せ、なんとかボギーで凌いだものの18番もパーを拾えず勝ったムーアに2打差の3位タイに甘んじた。
かたやムーアは15番パー3で「完璧な9番アイアンのショット」を放ち2メートル弱に乗せてバーディ。スピースがボギーを叩いた16番も8メートルをねじ込み連続バーディで二桁アンダーとし無難に17番、18番をパーで切り抜け一足先にホールアウト。クラブハウスリーダーとして最終組のスピースとアダム・シェンクが上がるのを待った。
「プレーオフになるのかならないのか、ドキドキしながら待っていた」ムーアのもとに朗報が届いたのはおよそ20分後。最終組の2人がボギーを叩きムーアが念願のチャンピオンに輝いた。
「実感が湧かなない。でもすごくクール。すごく興奮している」といった新チャンピオンの歩んだ道は10代からプロの世界で華々しく活躍し、瞬く間にメジャー4勝を挙げたエリート=スピースと同じなのは年齢だけであとは大違い。
アーカンソー大学に入学したときにはバスケットボールかゴルフかで悩み結局ゴルフを選んだのだが、その先の展望はまったくなかった。しかしカレッジゴルフで初めて優勝したとき「人生最大のスリルを味わった」ことで16年にプロ入りを決意。しかしそこからは苦労の連続で昨年PGAツアーの切符をつかんだばかり。大学でバスケットボールではなくゴルフを選んだのが1つ目の転機だった。
2つ目は下部ツアーに低迷していた数年前のこと。試合に向かうため車を運転し空港に向かっていたのだが息苦しさを感じ左に曲がれば空港、右に曲がれば病院の交差点を右折。この選択が今回の優勝につながった。
「肺が潰れて(詳しい病名は明かしていない)いた。最初は検査だけ受けようと思ったけれど結局手術も受けた。あのまま左折して空港に行っていたらいまこうして皆さんの前で(優勝)インタビューを受けることもなかったでしょう」
闘病中に思ったのは「必ずしもゴルフがすべてではない」ということ。ゴルフ以外にも人生があることに気づき、自分の人生を再構築しているうちに体が戻りゴルフができるようになった。休んだ時間があったからゴルフにより集中できるようになった」
本人には内緒で最終日に婚約者と彼女の父親が会場を訪れていた。ラウンド後ようやく2人と落ち合い喜びを分かち合ったムーア。「家族に勝つ姿を見せられて本当にうれしい」。ハッピーエンディングに乾杯!