「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて前回の記事ではスウィングの段階を示す指標である、「Pシステム」というものを紹介しました。

現在ではスウィング解析やティーチングの現場でも一般的になりつつあるこの「Pシステム」ですが、前回も紹介したとおり、この概念のもとになったのは「ザ・ゴルフィングマシーン」なのではないかと言われています。

「ザ・ゴルフィングマシーン」では「Pシステム」とは若干スウィングの分解の方法が異なる、「12のセクション」という分類を行っています。今回の記事ではこの「12のセクション」の内容を紹介していくとともに、「Pシステム」との違いについても考察していきます。

アドレス(セクション1〜3)

いきなり「Pシステム」との大きな違いになるのですが、「12のセクション」では実際のアドレスに入るまでの過程がやや細かく分類されています。

画像: 画像A 写真左からプレリミナリーアドレス、インパクトフィックス、アジャステッドアドレスとなる。(写真はダスティン・ジョンソン)

画像A 写真左からプレリミナリーアドレス、インパクトフィックス、アジャステッドアドレスとなる。(写真はダスティン・ジョンソン)

(1) セクション1:プレリミナリーアドレス(アドレス準備動作)
この過程では、ショットの情報(ライ、風、傾斜その他)分析と、そこから決定される戦略(レイアップ、ツーオン狙い、手前から、ピンデッドに狙うなど)の決定、それに伴うクラブの決定とまでを含みます。

(2) セクション2:インパクトフィックス
ここでは選択された番手による、スタンスの向き、ボール位置、フェース向き、ヘッドパスの方向などを決定し、ボールの弾道イメージが確定するまでを含みます。

(3) セクション3:アジャステッドアドレス
ここでは確定したスウィングイメージのリハーサルを行う段階であり、素振りやワッグル、フォワードプレスなどを含みます。

トップまで(セクション4〜6)

このステージでは、クラブの始動からトップまでのセクションになります。始動からトップまでの動作で、ほぼインパクトの内容が決定されるため重要なステージと言えますが、その手法は様々で選手の個性や慣性の違いが表れやすいパートと言えます。

画像: 画像B 写真左からスタートアップ、バックストローク、トップとなる。(写真はダスティン・ジョンソン )

画像B 写真左からスタートアップ、バックストローク、トップとなる。(写真はダスティン・ジョンソン )

(4) セクション4:スタートアップ
クラブのテークバックの始動に始まり、クラブヘッドが望ましい軌道に向かっていくところまでを指します。

(5) セクション5:バックストローク
ストロークが安定軌道に入り、トップまでの段階を指します。何を持って安定軌道、つまり「しっくりくる」バックスウィングになるかは、個々のプレイヤーのコックのタイミング、バックスウィングのリズムやテンポ、また「クラブヘッドラグ」のとらえ方によって変わります。

(6) セクション6:トップ
バックスウィングによる両手の移動が完了した時点を指します。言い換えれば「両手を下ろす準備が完了したところ」でもあります。この段階から、両手に伝わる「クラブヘッドラグ」を感じながらダウンスウィングに移行していきます。

トップから(セクション7〜9)

このステージではダウンスウィングにおけるクラブの加速が行われますが、興味深いのは、各セクションのクラブの加速が、キネマティックシーケンスに対応している点です。

画像: 画像C 写真左からスタートダウン、ダウンストローク、リリースとなる。それぞれがボディ、両手、クラブヘッドの加速パートになっている。(写真はダスティン・ジョンソン)

画像C 写真左からスタートダウン、ダウンストローク、リリースとなる。それぞれがボディ、両手、クラブヘッドの加速パートになっている。(写真はダスティン・ジョンソン)

(7) セクション7:スタートダウン
ここでは下半身、体幹から作られるエネルギーが、左肩を通じてパワーパッケージの加速に使用される段階であり、「肩による加速」のセクションと言えます。

(8) セクション8:ダウンストローク
「肩による加速」が終了し、両手がリリースポイントに向けて送り込まれる段階。「両手による加速」が行われるセクションになります。

(9) セクション7:リリース
「両手による加速」が終了し、クラブヘッドの「リリース」が開始されたところから、「クラブヘッドによる加速」がインパクトまで続くセクションとなります。

インパクト以降(セクション10〜12)

インパクトからフィニッシュまでの段階になりますが、この段階までに全てのエネルギーや筋力が使い果たされて、クラブヘッドの速度に転化されている状態が理想と言えます。

画像: 画像D 写真左から、インパクト、フォロースルー、フィニッシュとなる。(写真はダスティン・ジョンソン)

画像D 写真左から、インパクト、フォロースルー、フィニッシュとなる。(写真はダスティン・ジョンソン)

(10) インパクト
このセクションは、最大限に加速されたクラブヘッドがボールにコンタクトをしてから、再び離れるまでの間を指します。この間ボールは潰れた状態から回復することでボールの速度が増加するので、「ボールによる加速」が行われているセクションと言えます。

(11) フォロースルー
インパクトの終了から、両腕が真っ直ぐな状態になるまでを指します。以前の記事でも紹介したとおり、インパクト時点では右肘は曲がった状態を維持していることでスウィング構造の強度を作り出していますが、その構造が終了した地点とも言えます。

(12) フィニッシュ
フォロースルーの終了から、スウィング全体が終了するまでを指します。スウィングに問題がなければ、この時点ではしっかりとバランスをキープできているはずです。

12のセクションの特徴

ここまで「12のセクション」の内容を紹介してきましたが、前回の記事で紹介した「Pシステム」と比べていかがだったでしょうか?

私個人としては、「Pシステム」はあくまでスウィングの外見上の段階を分類したものであるのに対して、「12のセクション」は各段階で「どのようなことが達成されているべきなのか」という視点で分類されたものであると感じています。

そのため「ザ・ゴルフィングマシーン」ではこれで終わりではなく、さらに細かく各セクションで達成されているべき事項が第12章で詳細にリストアップされています。ただこの一つ一つに注目しながら自分のスウィングを作り上げることができるのかと言われれば、なかなか大変だと思います。

多くのプロ、上級者は、「アドレスして、あとは自分のリズムでフィニッシュまで振り切ればナイスショットになる」などと言いますが、そのくらいシンプルな思考になっていなければ、長時間のゴルフを一定の状態をキープしてプレイする事は難しいと思います。

画像: 画像E 「フィニッシュが良ければ全てよし」が最もシンプルな発想だと思われるが、アマチュアはそうもいかないのも事実である(写真はローリー・マキロイ 写真/姉崎正)

画像E 「フィニッシュが良ければ全てよし」が最もシンプルな発想だと思われるが、アマチュアはそうもいかないのも事実である(写真はローリー・マキロイ 写真/姉崎正)

いっぽうで、一般的な球技は動いているボールに対して反応した動作を行うものが多いなか、ゴルフは自分から動き始めないといけない競技です。同じような状況の球技に、野球のピッチャーやテニスのサーブ、ボウリングなどがあります。

これらに共通しているのは、上級者は動作の流れが毎回同じであるということです。野球のピッチャーで言えば、サインの確認の姿勢、セットポジション、足の振り上げ方から投球フォームのリズムまで、ほぼ毎回一定です。

つまり「自分のやり方」がはっきり決まっていることは、プレイヤーにとってメリットをもたらすことはどうも間違いないようです。

今回紹介した各セクションの「意味」を考えながら、少しずつ「自分のやり方」やルーティンを作ることに役立てていただければ幸いです。

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