O編 前から聞こうと思ってたんだけどさ。いま女子ツアーに出てるSさんとかMさんとか、ジュニアの頃からずっと教えてたよね? 何でコーチ辞めちゃったの?
坂詰 ここ数年はスクールの仕事が忙しくて、プロを教えるのが物理的に難しかったんですよねぇ。
O編 あぁ。プロを教えるとなったら、試合会場にも行かなくちゃいけないしね。時間が足りないか。
坂詰 プロは生活がかかっていますから、片手間にはできませんし。まして、何人もプロを教えるのは厳しいかなって。
O編 そうかぁ。しかし、もったいないねぇ。プロコーチとしては、プロになってからが面白いんじゃないの? 教え子がツアーで活躍すれば励みにもなるし、宣伝にもなるでしょ。それに、契約した選手が賞金を稼いだら収入も増えるし。
坂詰 いいんですよ、ボクは細々とやっていきますから。
O編 ホント、商売っ気ないなぁ。そう考えると、引退した佐伯三貴プロは、長くコーチしてたよね。
坂詰 三貴は、大学生の頃から引退するまで教えてました。プロになるのを勧めたのもボクですし。最初に見たときは、その才能に驚いたんです。キレがあってパワフルで、こんな男子みたいなスウィングする子、ほかにいないなって。
O編 ほれ込んだんだね。ん? でも、わきゅうがスクールを始めたのは、彼女の現役時代だよね?
坂詰 ええ。三貴が引退したのが19年。ボクがスクールを始めたのは10年ですからね。だから、そのとき、「これからは試合会場や合宿に行けないかもしれないけど、どうする?」って聞いたんです。でも、それでも構わない。続けてくれと頼まれて……。ホント、至らないコーチで申し訳なかったと思ってます。
O編 そんなわきゅうが、昨秋から渡邉彩香プロを見ることになったんでしょ?
坂詰 そうなんですよねぇ。ほとんど面識はなかったんですが、知人を通じて連絡がありまして。で、一度会ってボクのスウィングに対する考え方なんかを話したら、お願いしたいということに……。
O編 試合会場とか、なかなか行けないんじゃないの?
坂詰 それでもいいからと。
O編 へぇ~。わきゅうのどこが気に入ったんだろね?
坂詰 わかんないです(笑)。
O編 逆に、わきゅうは、何で引き受けたの? プロのコーチをすることに躊躇してたみたいなのに?
坂詰 夢が見られるかなぁと。
O編 夢?
坂詰 渡邉さんなら世界のメジャーも狙えるというか、メジャーに勝てるのは、ああいう選手なんじゃないかなぁと思うんですよねぇ。
O編 それは、どういうところ?
坂詰 以前、試合会場で初めて渡邉さんを見たとき、彼女ウェッジを打っていたんです。その音が今でも忘れられない。「こんないい音を出せる選手がいるんだ」って思ったんです。
O編 そのくらいいい球だった?
坂詰 ホントにいい球でした。何といっても、彼女のフィジカルは魅力ですよ。軽く振っても46m/sは普通に出ますから。それと、渡邉さんは、ゴルフに対する姿勢が素晴らしいんです。テーマを見つけたら、それをクリアできるまで地道にやり続けられるし、パフォーマンスを上げるためなら、食事や生活も制限できる。さらに、マネジャー、トレーナー、メンタルトレーナーが、チームで彼女を支えていて、ボクとしても、とても勉強になるんです。
O編 わきゅうのコーチ魂に火を付けた、みたいな?
坂詰 ええ。三貴以来、久々に「この選手のコーチをやってみたい」と思いました。ここ数年はスクールの仕事にかかりっきりだったんですけど、今は、少し現場の時間を増やしたいという気になってます。
O編 渡邉プロを見ていて、読者の参考になる部分はある?
坂詰 それはもう、真摯 な姿勢ですよ。ゴルフがなかなか上手くならない人って、特効薬みたいなものがあるって信じているんです。これがわかったら、これができたら、すぐに上手くなれる、みたいな。
でも、ゴルフに、そんな近道はないわけです。プロほど、地味で、退屈な練習をずっとやってる。それが続けられるから上手くなれるんです。
O編 片山(晋呉)プロも、江連忠コーチに習い始めた頃、3カ月間、フルスウィングしないで、ハーフスウィングの練習ばかりしてたもんね。
坂詰 それですよ。それをできる人が上手くなるんです。優秀なコーチに習ったら上手くなるって思ってる人がたくさんいるんですけど、習っただけじゃ上手くならない。習ったことを自分のものにするために、地味な練習を続けていくことが大切なんです。渡邉さんは、それが高いレベルでできる。だから、ボクも手を抜けないなぁって、思うんです。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年4月4日号「ひょっこり わきゅう。第10回」より