昨年の全米女子アマを制した馬場咲希さんを、中学1年から指導しているのがプロコーチの坂詰和久(さかづめかずひさ)、通称『わきゅう』だ。坂詰コーチと20年以上の付き合いがあるベテラン編集者Oが、謎キャラコーチの気になる話を聞き出す! 今回は「プロキャディの仕事」がテーマだ。
画像: 昨年の日本女子オープンで、教え子の馬場咲希のキャディを務める坂詰和久コーチ(Photo/Tadashi Anezaki)

昨年の日本女子オープンで、教え子の馬場咲希のキャディを務める坂詰和久コーチ(Photo/Tadashi Anezaki)

「しょうがないじゃん、次行くよ!」。気持ちの切り替えがキャディの仕事

O編 前回、わきゅうのティーチングには、プロキャディの経験が生かされているって言ってたけど、教えている選手のキャディに付くときには、どんな会話をしているの?

坂詰 キャディをやってるときはキャディに徹しているので、大した会話はしてないですよ。技術的なこととか、ほとんど言わないですし。

O編 ほら、実際、どんなやり取りをしてるのかなぁと思って。

坂詰 そうですねぇ……。たとえば、選手って、ミスをすると、その気持ちを引きずることが多いんです。OBを打ったら、「あぁ、体が止まっちゃった」とか「つかまえすぎちゃった」とか、いつまでも言ってる。

でも、やってしまったミスはいくら悔やんでもやり直せないし、そんな気持ちのままだと次のプレーに集中できないから、続けてミスをしやすいわけです。

だから、「しようがないじゃん。次行くよ、次」って、気持ちを次の一打に持っていくようにしています。短いパットを外して、「なんで外しちゃったんだろ」なんて言ってても、「しようがないよ。次、次」って。

O編 気持ちがマイナス方向に働いたままプレーさせないようにしているわけだね。

坂詰 そうですね。オンとオフっていうんですかね。次のプレーに集中できるように、気持ちを切り替えることだけやってる感じです。

O編 タイガー・ウッズの10秒ルールみたいなもんかな。ミスをしても、怒ったり、悔やんだり、考えたりするのは10秒までにして、10秒経ったら忘れるというか、考えないようにしているっていう、あれ。

坂詰 そうですね。とくに、ミスを引きずりやすい選手の場合は、気持ちを切り替えて、次のプレーに集中してもらうように意識していますね。

パットのライン、番手選び…。先入観を与えたくない

O編 パットのラインとか、番手なんかはアドバイスするの?

坂詰 聞かれたら答えますけど、こっちから言うことはないですね。こっちから先にアドバイスすると、先入観を与えてしまうので。

O編 先入観?

坂詰 たとえば、下りのラインが残ったとき、こっちから先に「これ、速そうだね」なんて言ったら、選手は必要以上に速さを意識しちゃう危険があるわけです。

O編 あぁ、そういう先入観があると、タッチを弱めすぎて、ショートしちゃうかもしれないってことか。

坂詰 そういうことです。あとは、どっちに曲がるかわからないというか、どっちにも曲がりそうなラインってあるじゃないですか。そんなとき、先に「これフックだよね?」なんて言ったら、もうフックにしか見えなくなっちゃう。

O編 それで実際に打ってフックだったらいいけど、スライスだったら、お互いにショックが大きいもんね。流れも悪くなるし、キャディとしての信頼感も失われちゃうかもしれないし。

坂詰 余計なことを言うなよって、話ですよ。それでイライラしたままプレーしたらロクなことがない。

O編 プロキャディは、ちょっとしたひと言にも気を使わなくちゃいけないんだね。

坂詰 まぁ、そうですね。番手なんかも、「これで行く」って言われて、よかったら「あぁ、いいと思うよ」って言うだけです。

そのピンが奥にあるときなんかは、「ここは奥には行きたくないし、ピン手前5ヤードでいいもんね」って、付け加えたりしますけど、選手が自信を持って選択した番手に問題がなければ何も言わないわけです。

"弱気な選択”は絶対にしてほしくない

O編 でも、ちょっと違うなと思ったら、止めるでしょ?

坂詰 弱気で大きめの番手なんか持とうとしたら、すぐに止めますね。「なに弱気になってんの?」って。ピンの上に打つだけでも嫌なのに、グリーンオーバーなんてしたら目も当てられないですから。

O編 グリーンオーバーといえば、優勝争いをしている選手が、アドレナリンが出て、大オーバーしちゃうことがあるじゃない? ああいうのはやっぱり予測できないの?

坂詰 キャディをしていると、あぁ、出そうだなって感じることはありますね。緊張するほど飛距離が出ちゃうっていう選手がいるんです。そういう人は要注意なんですよ。

ただ、女子の場合、よほどパワーのある選手以外は、男子のように飛びすぎることがないので、あまり気にしないですね。

O編 女子でも、優勝争いしている選手が、フェアウェイから打ったのに、グリーンをオーバーして負けちゃうことあるよね?

坂詰 ああいうのは、大体弱気になって大きな番手を持ってるんです。ショートさせる勇気がないというか、ピンに届かせないと不安というか。

O編 そのミスは、アベレージゴルファーもよくやるよね。

坂詰 ピンが奥にあっても、平気で大きな番手を持ってグリーンオーバーさせちゃう人、多いですよね。でも、スコアをまとめたいなら、あのミスは避けたい。ボクがキャディに付いていたら絶対に止めるんですけどね。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年4月18日号「ひょっこり わきゅう。第12回」より

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