自己主張が強い大男が多いツアーにあってイングランド出身のフィッツパトリックは小柄で細身、しかも控え目でおとなしい。全米アマを制した10年前は「まるで小学生みたい」といわれたほど華奢だった28歳はいまも少年の面差しを残すシャイボーイ。しかし伝統のハーバータウンGLでは力強く躍動した。
白と赤のストライプをまとった海沿いのコースのシンボルである灯台に向かって打つ最終18番。日が西に傾きフェアウェイ左サイドの水面がキラキラと輝くマジックアワー。残り182ヤードのセカンドショットをピンそば40センチに寄せたフィッツパトリックは連覇を目指したスピースをバーディで退け優勝を飾った。
それは6歳のときだった。ハーバータウンGLを含むシーパインズリゾートに家族で訪れ休暇を過ごした。しかし少年の目的はゴルフではなくテニス。WTAのチャールストンオープンの会場でもあるクレイコートでレッスンを受けたのだが「ゴルフほど上手くなかった」と振り返る。
家族との思い出が詰まった場所で今回も両親に見守られてトロフィーを掲げた。2日目にはキャリアベストの63をマークしプレーオフでは大半のギャラリーがスピースを応援するアウェイの雰囲気のなかスーパーショットを決めタップインバーディで米ツアー2勝目を決めた。
とはいえメジャーチャンピオンとして挑んだ今シーズンは決して順調とはいえなかった。10試合に出場し予選落ちが4回。23年初戦のセントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズで7位タイに入って以来トップ10はゼロ。前週のマスターズでようやく10位タイと今季2度目のトップ10入りしたことで手応えをつかみRBCヘリテイジでの優勝へと突き進んだ。
研究熱心でこれまで「練習から試合まで自分が打ったすべてのショットの内容を記録している」というゴルフオタク。昔は手書き、現在はパソコンにデータを収集し「それを分析すれば自分の弱点や課題が見えてくる」と本人。弟でプロのアレックスさん曰く「彼ほど努力しているゴルファーはいない」。
ここ数年データの分析で飛距離が足りないことを痛感したフィッツパトリックは重いクラブを全速力で振るスピードトレーニングを実践。昨年の全米オープンでは予選ラウンドを一緒に回った飛ばし屋ダスティン・ジョンソンに飛距離で負けなくなり帯同キャディのビリー・フォスターを驚かせた。
アメリカが誇るスター、スピースを撃破したイングランドのヤングスターは今後のメジャーでも怖い存在になりそうだ。