「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて前回の記事では「次世代型スウィング」と称しまして、マスターズでローアマになったサム・ベネット選手などのスウィングをふまえ、「垂直ショルダーターン」というトレンドについて紹介しました。

私の周辺でも、「さすがにあんなスウィングしたら体がおかしくなる」といった意見もあったのですが、私個人はそうは思っていません。どれだけメリットがあっても、将来的に故障が発生しやすいスウィングであるならば、統計や合理性を重視する米国でトレンドになることはないと思うからです。

もちろん人並み外れた柔軟性や筋力を要する、専門的なトレーニングが必要なスウィングだとは思いますが、今回は「どうしてああいうスウィングになったのか」を考えてみたいと思います。つまり米国では、何を「望ましくないもの」と考えているかということです。

一般的なスウィングのエラーとは

前回の記事で紹介した、タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュート(以下TPI)では、スウィングの際に発生しがちなエラー行動を12個挙げて、「ビッグ12」としています。いっぽうザ・ゴルフィングマシーンでは、第三章に「陥りがちな罠」と称して、やはり一般的に起きやすいエラー行動を列挙しています。

これらを比較すると表現の違いはあっても内容的には同じようなものになりますので、1960年代から現在に至るまで、ゴルファーの抱える典型的な悩みはあまり変化していないということになります。

ポスチャー

アドレスの姿勢におけるエラーは、TPIではS字姿勢(反り腰)、C字姿勢(猫背)、を挙げています。

画像A 写真左のS字姿勢(反り腰)では腰痛その他の故障の危険性を高めること、また右のC字姿勢(猫背)では上半身の可動域が減ることが指摘されている(写真はタイトリスト・パフォーマンス・インスティテュートより)

特に注意が必要なのはS字姿勢(反り腰)で、これは腰痛その他のケガに直結しますので、下腹部の筋力で骨盤が過度に前傾しないようにするなどの対策が必要です。C字姿勢については、昔の選手などは猫背っぽいポスチャーの選手も多かったのですが、最近ではあまり推奨されないようです。

野球などでも昔はけっこうクセの強い構えをしている選手もいましたが、最近では見かけなくなりましたね。

エラー発生の時期はトップからダウンスウィングの初期に起こる

実はこのダウンスウィング初期に、ほとんどのエラー、あるいはその原因となるものが含まれていると思われます。

画像B 左から、姿勢の消失、フラットショルダーターン、アーリーエクステンション、オーバーザトップ。これらはダウンスウィング初期に右サイドの部位がボールに近寄ってしまうことで発生している(写真はタイトリスト・パフォーマンス・インスティテュートより)

これらのエラーは、ダウンスウィングの初期に、右ひざ、右腰がボールに近づいていくように動くことで、両手の下ろし場所がなくなることにほとんどの原因があります。よって前回の記事でも紹介したとおり、「右のヒップをクリアにする」ことで、両手の下ろし場所を潰さないことをザ・ゴルフィングマシーンでは強調しているわけです。

これに失敗すると、右腰につられて右肩が前に出て(フラットショルダーターン)、クラブが外から下りてきて(オーバーザトップ)、ボールに近づきすぎた距離を調整するために伸び上がったり(アーリーエクステンション)、前傾がなくなったり(姿勢の消失)するわけです。

スウィング中の重心位置のエラー

次の四つはスウィング中のウェートシフトに問題があるために、プレイヤーの重心が移動しすぎるエラーです。

画像C 左から、スウェイ、スライド、リバーススパインアングル、ハンギングバック。近年ではこれらはほぼスウィングエネルギーに寄与しないものと認識されている(写真はタイトリスト・パフォーマンス・インスティテュートより)

この部分が20世紀と近年で最も顕著に違いがある部分ではないかと思います。つまり20世紀までは多少の前後の水平移動はアリだったのですが、近年はそうしたプレーヤーはほぼ絶滅しました。

具体的には、ヒップのスライドは昔の選手、例えばベン・ホーガンなどはかなり派手に行っていましたが、現在ではあまり行わず、左脚を背中側に蹴ることで、正面から見たスライドの量はかなり少なくなっています。つまり水平よりも、垂直方向にエネルギーを使う方が効率的であるというのが現在のトレンドになっています。

これら四つのエラーがない状態を端的に表現すれば、「正面から見た姿勢のAの字があまり変化しない」ことが推奨されていることになります。

インパクトからフォローにかけてのエラー

これらもアマチュアでは典型的ですが、スウィングを「すくい上げる」イメージで行うことで発生します。

画像D アーリーリリース(左)からの、(右)スコーピング(フリップ)、そしてその手首を保護するためにヒジを抜く(チキンウィング)(写真はタイトリスト・パフォーマンス・インスティテュートより)

ザ・ゴルフィングマシーンで必須とされている、「フラットレフトリスト」、あるいは「フライングウェッジ」というインパクトの姿勢が喪失している状態です。アマチュアでは多いのですが、プロでは皆無です。

エラーを起こさないスウィングとは

もしプレーヤーが、これらの代表的なエラーをまずなくそうと考えるとどうなるでしょうか。

(1) 反り腰でも猫背でもない姿勢で
(2) 両手の下ろし場所を確保して、タテに両手を振り下ろし
(3) その動作に反応するように下半身はタテに蹴り返し
(4) インパクトの姿勢を崩さない

ということになると思います。

それをジュニア時代から一生懸命やってたらこういうスウィングになっちゃったということではないでしょうか。

画像E マスターズローアマのサム・ベネット。アドレスと切り返しでポスチャーの変化が少なく、両手をタテに下ろすスペースを確保したまま、下半身はボールから遠ざかるように蹴っている(写真/Blue Sky Photos)

一見驚異的な姿勢に見えますが、体幹と両手の干渉が少ないスウィングとも言えますので、案外ケガにつながりにくいのではないかと思います。また両手がタテに振られることで、ボールの方向性や高さも確保しやすいと思われます。

もちろん柔軟性や筋力のトレーニングあってのスウィングですので、アマチュアが目指すべき完成型とは言えなくても、今回紹介したビッグ12を少しでも減らす方向で練習をするというのはアリだと思います。

そう考えると、「しっかり体重移動」「体の回転で」という日本式言語は、ともするとビッグ12を発生させやすくしていないかということが懸念されます。

私が初めてザ・ゴルフィングマシーンを読んだときにも「日本で言ってることと全然違うじゃん」と思ったわけですが、どれが正しい、あるいは個人に合っているかということとは別に、現代の世界のトップの環境では何が起きているのかを常にウォッチしていくことが必要だと思います。

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