「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さてここ最近の記事では私が受講しているタイトリスト・パフォーマンス・インスティテュート(以下TPI)で提唱されている概念と、ザ・ゴルフィングマシーンでこれまで紹介してきた様々な原理原則を比較してきました。

そのなかで感じたことは、やはり欧米では1970年ごろまでに科学的根拠にもとづく「理想的なスウィングの状態や道具」というものが定義され、それが現代までの技術の進歩によってきちんと体系化されてきたということです。

より簡単に言えば、「洗練はされてきたけど、根幹の部分はあまり変わっていない」ということになります。道具やトレーニングの方法はもちろん進化していますが、人間がクラブでボールを打つという基本的事実は変わっていないのがゴルフです。

「遠くに飛ばす=ヘッドスピードを上げる」しかないのか?

いっぽう今も昔も変わらず、ゴルフはやはりボールが遠くに飛んでいくことが大きな魅力であるわけで、世界中のプレーヤーが少しでも遠くにとばすべく努力をしているわけですが、ザ・ゴルフィングマシーンにせよTPIにせよ、それを達成する根拠のある方法は「ヘッドスピードを上げる」の一択だとしているわけです。

インパクトとは重量がほぼ決まっているボールとクラブヘッドの衝突現象なので、そこで発生するエネルギーを増やすには、クラブヘッドの移動速度を増やすしかありません。残酷かも知れませんが原則とはそうしたものです。

ところが、「ヘッドスピードが遅くても飛ばせる〇〇法」という、夢のあるキーワードを見ることもあります。例えば「女子プロはヘッドスピード38m/sでも飛ばしている」といったものですが、私が見る限り「最大効率のインパクトをして、フェアウェイの最もランを期待できるところに、やや低く転がるボールを正確に打つ技術がある女子プロがいる」以上のことは起きていないと考えます。

画像: 画像A フィジカルやヘッドスピードだけではなく、ショット精度を極限まで高めることで上位で勝負している選手がいることは事実だが、アマチュアが「ヘッドスピードが遅くても飛ぶ」と考えるのは危険である(写真は青木瀬令菜 写真/大澤進二)

画像A フィジカルやヘッドスピードだけではなく、ショット精度を極限まで高めることで上位で勝負している選手がいることは事実だが、アマチュアが「ヘッドスピードが遅くても飛ぶ」と考えるのは危険である(写真は青木瀬令菜 写真/大澤進二)

こうした高等技術はアマチュアにはなかなか真似できませんが、精度を上げる練習はどんどんやるべきだと思います。ただ少し気になる別の表現として、「〇〇プロは、インパクトで『強く』、『押し込んで』打っている」といったものがあります。これが「本当なのか」について考えてみます。

「強い」「押し込む」インパクトは可能なのか

例えばボクシングの選手などで、「ハンドスピードはないがパンチ力がある」といったことや、野球のピッチャーなどでも「球速の見た目以上にボールが重い」と言った表現を耳にすることがあります。

ゴルフにおいても、「しっかりと当たり負けをしない」「ボールにヘッドを押し込むように」という、速度よりも「強さ」をイメージさせる表現を目にすることがあります。実は私自身もそのように感じるショットが出ることはあります。

実は大昔からこうした表現をするプロがいたことも事実で、過去に様々な実験を経てその現象を解析してきました。

まず最初の段階として、ドライバーショットのインパクトで発生している総エネルギーはどのくらいかを算出しました。詳しい計算は省きますが、その総量はおよそ「1トン」に相当するということでした。「強く」「押し込む」インパクトをすることによって、この1トンをほんの数パーセントでも増やすことができれば意味があると言えます。

しかしスウィングを高速度で撮影をする技術が進むにつれ、どうもそうしたことは起きていないという見解が優勢になりました。というのはインパクトの瞬間の写真を見ていくと、そこまでシャフトがしなった状態でインパクトしているという事実は発見されなかったからです。

画像: 画像B もしインパクトで押し込むことが可能であるならば、ボールがフェースから離れるまでの間に、シャフトは強烈に順しなりを強めるはずだが、現実にはそうしたことは起きる前にボールはクラブフェースから離れている(写真左からスコッティ・シェフラー、タイガー・ウッズ、渋野日向子 写真/Blue Sky Photos、姉崎正)

画像B もしインパクトで押し込むことが可能であるならば、ボールがフェースから離れるまでの間に、シャフトは強烈に順しなりを強めるはずだが、現実にはそうしたことは起きる前にボールはクラブフェースから離れている(写真左からスコッティ・シェフラー、タイガー・ウッズ、渋野日向子 写真/Blue Sky Photos、姉崎正)

プロのショット解析してわかったことは、インパクト直前までにわずかに(約1インチ)逆にしなった状態でインパクトを迎え、ボールがフェースから離れるとき、シャフトはほぼしなりゼロの状態になっているということでした。

ドライバーのフェースをカベに押し当てるようにすればわかりますが、1インチ程度シャフトをしならせる強さというのは、せいぜい数キロのレベルでしょう。この数キロが飛距離に影響するという可能性はありますが、インパクト全体の1トンものエネルギーに比べれば、ほぼ無視できる誤差の範囲内にしかなりません。つまりシャフトで「押す」ことはほぼできないことになります。

次に行った実験では、ドライバーのネックの部分に蝶番(ヒンジ)を付けた場合に飛距離に違いがでるのかというものでした。この状態では「押し込む」ことは不可能なはずですので、「押し込む」ことが本当に飛距離に影響しているのであれば、飛距離が落ちるはずです。

画像: 画像C ネックにちょうつがいを付けた特殊なドライバー。飛距離の計測と、高速度撮影でヘッドの動きを解析した。結果ヘッドの挙動も、飛距離も大きな違いは出なかった(写真は “Search for the Perfect Swing” Alastair Cochran & John Stobbs 1968より抜粋)

画像C ネックにちょうつがいを付けた特殊なドライバー。飛距離の計測と、高速度撮影でヘッドの動きを解析した。結果ヘッドの挙動も、飛距離も大きな違いは出なかった(写真は “Search for the Perfect Swing” Alastair Cochran & John Stobbs 1968より抜粋)

この実験でも、プロが試打を繰り返した結果、飛距離に大きな違いは出ませんでした。現在ではこのような構造の練習用クラブがありますが、この時代であってもプロはしっかりとクラブヘッドに遠心力をかけて加速していますので、ちゃんとヘッドはインパクトでスクエアになったのです。

結論として、クラブヘッドをインパクトに向けて「強く」「押し込む」ことで飛距離を出すことはできないということになりました。クラブシャフトはあくまでクラブヘッドを「加速する」ことに役立っているだけで、極端な話インパクトの瞬間にクラブがシャフトから外れてしまったとしても、あるいはシャフトが糸のようなものだとしても、飛距離は変わらないことになります。つまりはインパクトの瞬間のクラブヘッドの速度が、最大飛距離をほぼ決定していることになります。

余談ですが、この実験結果から、操作性さえ確保できるならば、シャフトは軽くする、あるいは空気抵抗を減らすために「細くする」といったことでヘッドスピードを上げるという研究は意味があることがわかります。

「押し込んでいる」というプロは何を言っているのか

では「インパクトの瞬間に強く押し込む」と言っているプロは何を言っているのかということになります。

そもそもですが、インパクトの時間、つまりクラブフェースがボールに触れて、再び離れるまでの時間は0.0005秒ほどです。このインパクト中に何らかの操作を加えるというのは人間の反射速度では不可能なのです。

よってここで起きていることは、インパクトよりも遥かに遅れて、おそらくボールが前方に20ヤードくらい飛び立った時点で、ようやくインパクトの衝撃がグリップを通じて感じられ、その際に「今のショットはしっかり押し込んでやったぜ」という「感触」を持ったというだけの話なのです。

もちろんプロの世界では、「何が起きたのか」という事実を認識することよりも、「こういう感触の時にはナイスショットになる」といった「感覚」のほうが大事な場合もあります。

しかしアマチュアが「強く押し込む」ことを意識すると、逆に肝心のヘッドスピードが落ちてしまう場合が多いのです。これをふまえ次回の記事では「ヘッドスピードを上げるための意識」について紹介します。

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