現時点での成績に一喜一憂はしていられない
O編 マスターズは、ジョン· ラームの初優勝で幕を閉じたけど、前週に行われたオーガスタナショナル女子アマでは、教え子の馬場咲希さんが、5位に入っていたね。最終日の70は、その日のベストスコアだったみたいだし。なかなかよかったんじゃないの?
坂詰 そうですね。次に出場したシェブロン選手権に向けていい調整になったと思っています。時差ボケも解消されたでしょうし、世界のトップアマと戦ったことも、いい刺激になったと思います。マスターズの舞台であるオーガスタナショナルを回れたことはいい記念になったんじゃないでしょうか。
O編 あれ? なんだか少しさめた感想だねぇ?
坂詰 んー。昨年勝った全米女子アマの場合は、名誉だけじゃなく、今年のメジャー大会の出場権がもらえたので大きかったと思いますが、オーガスタナショナル女子アマの場合は、勝っても、上位に入っても、そういう特典はありませんからね。
本人はともかく、ボクとしては、そんな感じなんです。とにかく、彼女を秋のプロテストに合格させるまでは油断できないんですよ。
O編 現時点の成績に一喜一憂してられないってことか。
坂詰 まぁ、成績は悪いより、いいほうがいいと思いますけど。
O編 じゃあ、渡邉彩香プロの場合は、どう? 開幕戦から6位タイ、予選落ち、21位タイ、11位タイ、10位タイで、メルセデスランキング16位(4月12日現在)という成績だけど。
坂詰 プロは生活がかかっているので、成績はいいに越したことはありません。渡邉さんの場合、まだ前半戦ですからね。いい感じなんじゃないでしょうか。
O編 技術的な部分はどうなの? 去年から修正している部分もあるでしょ?
坂詰 練習ではできていることが試合になるとできなくなることもあるみたいですね。でも、ヤマハレディースの3日目も、ショットが悪いなりにスコアをまとめてましたし、さすがだなぁと思います。
O編 具体的に、スウィングのどんなところを修正しているの?
坂詰 それは内緒です。簡単にしゃべったら、コーチとしての信用がなくなっちゃうので。でも、かなりのビッグチェンジに取り組んでもらっています。見た目にはそれほど変わっていないと感じるかもしれませんが、感覚的には、それまでとは全然違うはずですから。
デザイン(形)よりも機能が大切
O編 ビッグチェンジなのに、見た目は変わらないの?
坂詰 もちろん形は自然に変わってくると思いますよ。でも、ボクとしては、形を変えることでスウィングを直すようなことはしたくないんです。基本的に、ボクはデザインよりも機能を重視しているので。
O編 どういうこと?
坂詰 たとえば、手打ちでトップの形の悪い人がいたとするじゃないですか。そういうとき、トップの形を直そうとする人が多いんですが、そういう形=デザインを直しても、手打ちという機能を直さない限り、ショットは決してよくならないんです。
だから、ボクは形(デザイン)のことは置いといて、機能を変える。つまり、手でクラブを動かしている人だったら、体で動かすことを教えるようにしているんです。
O編 なるほど。機能を直すというのは、動かす部位や、意識する部分を変えるってことか。
坂詰 ええ。それって、簡単に思えるかもしれませんが、プレーヤーにとっては大変なことなんです。だって、手先でクラブを動かしている人に、腰で動かせって言っても、すぐにはできないでしょ?
O編 渡邉プロも、そういう〝意識して動かす部分〟を変えることに取り組んでいるわけだね。
坂詰 さらに、渡邉さんのすごいところは、そういうビッグチェンジに去年のシーズン中から取り組んで、試合でやり切ろうとしてきたことです。普通はしませんよ。スコアがボロボロになるかもしれないんですから。
O編 すごい勇気だね。
坂詰 「(前半戦で)シードも取れましたし、必要ならすぐにやります」って。そういうふうに、自分に必要だと感じたら、なりふり構わずやり切れるところが、渡邉さんの強みだと思います。
O編 耳の痛い話だなぁ。ほら、プロにアドバイスされたことが正しいとわかっていても、違和感があると途中でやめちゃったり、すぐに元に戻しちゃったりするもんね。
坂詰 みんなそうですよ。でもね、形を直そうとすると、より違和感が出やすいんです。前にも言いましたが、グリップなんかは、ちょっと変えるだけでも難しい。だからボクは、形は意識して変えるのではなく、自然に変わるように教えたいですよ。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月2日号「ひょっこり わきゅう。第14回」より