最終18番、3打目をグリーンに乗せた瞬間、クラークは勝利を確信しキャディとハイタッチした。その時点で2位のシャウフェレとは5打差。負ける要素はどこにもなかったが最後まで気を緩めたくなかった。
「(上位争いするたび)気持ちが焦って崩れるパターンが多かったけれど今回は優勝争いのプレッシャーを楽しもうと思った。すぐ後ろに世界最高のプレーヤーが控えているけれど自分がどんなチャレンジができるか期待している」と3日目にノーボギーの63をマークしトップに躍り出たときそう語ったクラーク。
ほぼ無名の選手だが実は彼、以前騒がれた“クラス11”のひとり。2011年に高校を卒業した選手のことを“クラス11”と呼ぶが、そのメンバーはジョーダン・スピース、ジャスティン・トーマス、シェウフェレを含む錚々たる面々が揃っている。
あっという間にスターダムにのし上がったメンバーとは違いクラークは下積み生活が長かった。「5年間ツアーで頑張ってきたけれど、結果が出せずに悩み、苦しみ、クラブを叩き壊したくなかったこともあった」と不遇の時代を振り返る。しかし「諦めずに前を向いた」結果、貴重な1勝にたどり着いた。
ジュニア時代仲の良かったスピースは今大会で予選落ち。トーマスも14位タイで終戦。ようやく当時のライバルと肩を並べることができた。この勝利で全米プロ、全英オープン、マスターズの出場権を獲得。メジャーの舞台でライバルと競うチャンスが巡ってきた。
短いボギーパットを沈め優勝を決めたクラークは天を仰いで涙を流した。3歳の頃、はじめて練習場に連れて行ってくれてゴルフの手ほどきをしてくれた最愛の母は10年前乳がんで亡くなった。プロへの道を本格的に歩もうとしていた矢先だっただけにショックは大きく精神を病んだ時期もあった。悲しみを乗り越え掴んだ勝利は格別。間違いなく母に捧げる勝利である。
「将来は乳がん撲滅のための基金を立ち上げたい」というクラーク。母の日には1週間早かったが天国から息子を見守ってくれた母の手が彼の背中を押してくれたに違いない。
ウィンダム・クラーク。この名前をスピースやトーマスと並べて覚えておきたい。