「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのツアープロや指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて昨今はSNSなどのメディアが発達し、誰でも自分のスウィングを気軽にネット上に公開することができるようになりました。

やはり日本人は「美しいフォーム」を追求する美意識の高い民族性ですので、皆さんそれなりにキレイなフォームの動画をアップされているのですが、私からすると9割以上の方が「ある問題」に直面していることに気づきます。

その問題とは、「アーリーエクステンション」と言います。

これまでの記事でも紹介した、タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュート(以下TPI)で代表的なエラー行動とされる、「ビッグ12」の一つです。今回の記事ではこの問題について考えてみます。

アーリーエクステンションとは?

改めて、この「アーリーエクステンション」というのがどういう状況なのかを確認していきます。

画像: 画像A 主にダウンスウィングにかけて前傾がほどけて上体が起き上がる現象を「アーリーエクステンション」と言う。厳密にはアドレス時のヒップのラインからインパクトまでに骨盤がボール側に離れることを指す(タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュートより抜粋)

画像A 主にダウンスウィングにかけて前傾がほどけて上体が起き上がる現象を「アーリーエクステンション」と言う。厳密にはアドレス時のヒップのラインからインパクトまでに骨盤がボール側に離れることを指す(タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュートより抜粋)

現象としては、主にダウンスウィング中に、両手を下ろしてくると同時に前傾がほどけて上半身が後方にのけぞっていく状態になることを指しています。もちろん写真左のようにはっきりと伸び上がっていくのであれば、本人的にも修正することを考えるはずです(なんかカッコ悪いから)。

しかしTPIの定義では、「スウィング中、アドレス時のヒップの位置から離れてしまうこと」を「アーリーエクステンション」としていますので、この厳密な定義でいくと、ほとんどのアマチュアの方は「アーリーエクステンション」認定になってしまうわけです。

画像: 画像B PGAの選手の場合、スウィング中は終始アドレスのヒップのラインを超えたところに腰が位置している。逆に腰の位置が離れていくと同時に前傾角度が深くなる傾向にある(写真はジョン・ラーム)

画像B PGAの選手の場合、スウィング中は終始アドレスのヒップのラインを超えたところに腰が位置している。逆に腰の位置が離れていくと同時に前傾角度が深くなる傾向にある(写真はジョン・ラーム)

ちなみにTPIの統計では、アマチュアの64%がこれに該当するとしています。ただ私の感覚では、先ほどから「9割」とか「ほとんど」とか控えめな表現をしていますが、日本のアマチュアはほぼ全員「アーリーエクステンション」に該当すると思っています。

では日本のプロはどうかというと、やはり100%とは言えず、結構な割合でこの現象が起きていると考えています(特に女子選手)。つまり日本ゴルフ界ではこの「アーリーエクステンション」が起きてはいけないという意識が希薄なのだと考えられます。

アーリーエクステンションの弊害は?

このコラムをずっと読んでいただいている方にはもうお分かりの通り、この現象はザ・ゴルフィングマシーン(以下TGM)でしつこく力説されている「ダウンスウィングの両手の通り道をつぶさない」、つまり「ヒップクリア」ができていない状態ということになります。

TGMで説かれている主要な原因としては、ダウンスウィングの初期に右足、右脚、右腰などがボールに近づいていくことが主な原因としています。

このためダウンスウィングの両手の下ろし場所がなくなってしまい、クラブが外から下りてくる(オーバーザトップ)、そこでシャフトが立つ、フェースが開くなどの現象を補填するためにリリースを早める(アーリーリリース)、そして左手首が甲側に向いた状態から手首や肘を保護するためにチキンウイングになるなどの現象が連鎖します。

画像: 画像C アーリーエクステンションからオーバーザトップ(左)になり、カット軌道でフェースが開いた状態でインパクトすることの対策としてアーリーリリース(中)になり、不自然な状態の手首やひじを保護するためチキンウィング(右)になるといった連鎖が発生する(タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュートより抜粋)

画像C アーリーエクステンションからオーバーザトップ(左)になり、カット軌道でフェースが開いた状態でインパクトすることの対策としてアーリーリリース(中)になり、不自然な状態の手首やひじを保護するためチキンウィング(右)になるといった連鎖が発生する(タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュートより抜粋)

結果としてボールに正しくエネルギーを伝えられなくなり、飛ばない、スライスする、出球が低くなるなどの問題の他、ボールに近寄り過ぎてシャンクするといったことも考えられます。

どんな対策が必要なのか?【TGM的見解】

ではどうすればこの「アーリーエクステンション」を回避、あるいは「ヒップクリア」の状態に近づけることができるのでしょう。

TGMの見解では、左脚を軸に右サイドの部位がボール方向に回転してしまうことが原因としていますので、要は右サイドをしっかり固定してダウンスウィングをするという考え方です。これを手っ取り早く達成する一つの方法は、いわゆる「右足をベタ足」にするというものです。

画像: 画像D インパクトまで右足カカトの「浮き」を抑えたマキロイの「ベタ足」スウィング。写真Bのジョン・ラームもこれに近い動作を行っている(写真はローリー・マキロイ 撮影/姉崎正)

画像D インパクトまで右足カカトの「浮き」を抑えたマキロイの「ベタ足」スウィング。写真Bのジョン・ラームもこれに近い動作を行っている(写真はローリー・マキロイ 撮影/姉崎正)

韓国、タイなどの女子選手などの顕著なこの「ベタ足」ですが、日本ではどうもあまり主流にはなっていません。実は「ヒップクリア」することでボールの打ち出し角度が高くなるのですが、日本のグリーンではそこまで高いボールを打つ必要がないということかもしれません。

TPI的見解

ではベタ足が必須なのかというと、どうもそうでもないと思われます。というのは松山英樹選手やコリン・モリカワ選手のように、全然ベタ足では ないのに完璧に「ヒップクリア」できている選手もいるからです。

画像: 画像E 松山英樹(左)とコリン・モリカワ(右)のインパクト。右足カカトは地面から大きく離れているが、ヒップの左サイドは背中側に持ち出され、両手の下りるスペースをしっかりと確保している(写真左/姉崎正)

画像E 松山英樹(左)とコリン・モリカワ(右)のインパクト。右足カカトは地面から大きく離れているが、ヒップの左サイドは背中側に持ち出され、両手の下りるスペースをしっかりと確保している(写真左/姉崎正)

TPIの見解では、上半身と下半身の分離能力、臀筋と腹筋の強さが「アーリーエクステンション」の防止に関連があるとしており、具体的にはスクワット能力が低いと「アーリーエクステンション」になりやすいとしています。

つまり必要な筋力や可動域があれば大丈夫ということになります。

元PGAツアープロのレッスン

次にこの「アーリーエクステンション」をレッスンでどのように対策していくかですが、これについては元PGAツアープロで3Dモーションキャプチャー「ギアーズ」を開発したマイケル・ネフは以前このように言っていました。

「左に振れ」
「なんで日本人はそんなにインアウトに振ろうとするのか」
「理想はゼロパス」

つまり日本人は「ドローボール」を打とうとする傾向が強すぎると言うのです。そのためにクラブヘッド軌道をインアウト軌道にしようとすると、両手の軌道もインアウト軌道にしたくなります。この結果両手が体に近い状態から、インパクトに向けて離れて行くように使うイメージが強くなります。

「トップから左腰骨めがけて両手を振り下ろすくらいでちょうどゼロパス(ヘッド軌道がインアウトでもアウトインでもない状態)に近くなる」とネフ氏は言います。そうすると左腰は両手をよけるために外側に持ち出されるので、結果的に「ヒップクリア」のスウィングになるというのです。

「そんなことしたらスライスしそう」と私は思ったのですが、長くなりましたので次回に続きます。

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