1年間で3度のトップテンフィニッシュ。本当の意味で自信がついた
時松 改めて、チャイナツアーに行ってみて、何がよかった?
佐藤 ゴルフしかやることがないから、上手くなるためにひたすら練習とラウンドをする日々で。僕って、純粋にゴルフが好きなんだな、ゴルフって楽しいんだな、ということが再確認できたよね。日本人だからとタクシーに乗せてもらえなかったり、飛行機が遅れて空港のロビーで寝たり、そんな苦労も数え切れないくらいあったけど、ゴルフの楽しさが、それを上回った。
時松 日本のツアーのことは頭をよぎらなかった?
佐藤 源蔵(時松隆光の旧名)が初優勝して「シンデレラ現る!」と騒がれていたときには、「オイ! 1億円も稼いでエグいな」とは思ってた(笑)。ただ、アマチュア時代から日本オープンやその他のプロの試合に出させていただいていたから、いつでも出られるはずだ、という感じはあった。それよりも、自分の世界ランキングは何位だろうって。
時松 チャレンジツアーの賞金王になって自信は増した?
佐藤 確かに嬉しくはあったんだけど、本当の意味での自信は、昨年、サトウ食品(ジャパンプレーヤーズチャンピオンシップ)の8位、フジサンケイの10位タイ、ダンロップフェニックスの8位タイと、1年間で3度のトップテンフィニッシュができてから。「もしかしたら、このまま努力していけば、優勝できるかもしれない」と初めて思えたんだよね。
時松 勝ちたい、と勝てるかもしれない、は違うもんね。
佐藤 そうそう。サトウ食品のときは「勝ちたい」という一心やったから、ド緊張した。地に足がつかずフワフワした感じ。
時松 大平、意外にも緊張するタイプだよね?
佐藤 そう、どんな試合でも朝イチのティーショットは、自分で「あ~、緊張してるな~」って思う。特にサトウ食品ではレギュラー初の最終日最終組で、ティーインググラウンドに上がったら「トーナメントリーダーです!」って最後に紹介されて。コールされた経験もないから、「えっ、そんなこと言われてから打つの? ほっといてくれよ~」って(笑)。
時松 僕はもうそんなには緊張しないかな。
佐藤 あの試合は、初日からトップだったから、2日目も3日目もド緊張してた(笑)。だから8位という結果は、ホンマに悔しかったんやけど、あのド緊張で4日間、よくもったと思う。
時松 そんな緊張が、勝てるかもしれない、という自信に変わってきたと。
佐藤 フジサンケイでは20年にも3位タイがあったから、上位争いがまたできたらいいなと。ダンロップフェニックスは合宿で回っていて大好きなコースだから、気持ちよくプレーしようと。やっぱり上位に慣れてくるというのもあるのかな? 源蔵なんて、考えてみれば僕と同い年やけど、もうベテランみたいなもんやから(笑)。
朝から晩まで練習グリーンで、とにかくパターを打った
時松 大平はシード5年目で、僕が7年目か。言われてみれば、3年の差があるんだね。
佐藤 その3年の経験の差は大きいよ。それに僕、人には言ってなかったんだけど、パターイップスにかかっていたんだよね。構えると手が動かなくなってしまって……。ようやく動かせて打てたと思ったら、見てくれていたキャディから「いまギリギリでボールに当たったよ」って。つまり空振りしそうになってた(苦笑)。フェースで球をこすってしまって、何メートルもショートしてた。
時松 僕はイップスって経験したことがないけど、手が動かないなんて、キツかったね。どうやって脱出したの?
佐藤 最終的に思ったのは、イップスとかいうよりも、僕って、ただパターが下手クソなだけなんだと。だからコースに朝から行って、練習グリーンでパターを打って、気がついたらコースが閉まっていたという日が続いて。やっと手が動かせるようになって、「もしかしたら、いけるかもしれない」と感じられたときには、グリーン上で、知らないうちに涙が出ていた。
時松 泣いてしまいそう、とかではなく、涙が出ていて、泣いていることに気づいたの?
佐藤 うん。僕、こんなところで泣いてるよって。あの経験は忘れない。もともとパターは得意で、自分がイップスになるなんて思っていなくて、それだけにキツかったのかもしれない。
時松 具体的には、何かを変えた? 打ち方とか、道具とか。
佐藤 パターを替えた。でも、手が動けば道具の問題ではないということはわかっていたので、イップス後にはエースパターに戻したけどね。
時松 いつもは明るい大平だけど、そんな涙の苦労話もあったんだね。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月23日号「時松プロ ご指名プロと技トーク わかったなんて言えません」より