カリー・ウェブの奨学金で日本ツアーのQTを受験
2018年から2021年、日本の女子ツアーで活躍したオーストラリア出身のカリス・デイビッドソン。「最近、試合でカリスの姿がない」と心配しているファンもいるかもしれないが、どうぞご安心を。カリスはアメリカを舞台に奮闘している。
4歳でゴルフを始めたというカリス。9歳のとき、一家はスコットランドからオーストラリアに移住。11歳のときにプロのコーチと出会うとメキメキ腕を上げ、16、17歳で全豪アマを連覇、オーストラリアナンバーワンのジュニアゴルファーとして将来を嘱望される存在になっていた。
父親はリフォームの職人で「家は裕福ではなかった」というが、カリー・ウェブの奨学金を受けることができ、JLPGAツアーのQTを受験。難関を突破し、2018年、プロゴルファーとしての一歩を日本で踏み出した。ツアー優勝こそないものの、4年間で5000万円余りの賞金を獲得。
しかし、さらなる活躍の場を目指したカリスは、コロナ禍という困難な時期、アメリカに渡る。そして、またも狭き門をくぐり抜け、2022年から米女子ツアーに参戦。
米デビュー戦は22年のロッテ選手権。76・74を叩き、あえなく予選落ちを喫したが、今年は同大会で19位と健闘した。
その成績もあり、翌週のメジャー、シェブロン選手権の出場権を得た。
「前週の試合(ロッテ選手権)の成績があったので、今、メジャーでプレーできている。結果を残せたのがすごく大きかった」
と振り返り、一試合一試合が次につながると、いっそう大事に戦っている。
すると、以前は「目標は?」と尋ねても「頑張りまーす」と、のんびりした様子で語っていたのが「シードを取ります」とキリッと宣言するように。いかにも自信や自覚の裏返しのように感じられた。
戸惑いの連続だった日本ツアーが「懐かしい」
艱難辛苦汝を玉にす。シビアな環境がカリスを高めている。
18年に来日した際、大阪駅で迷子になった。
「リュックを背負って両手にキャディバッグとスーツケース。スマホもつながらず、誰に聞いていいのかさえわからず途方に暮れて、30分も座り込んでしまいました。本当に心細かった」
という。また
「日本のゴルフ場のマナーにも驚きました。オーストラリアでは学校帰りに短パンとTシャツでプレーしていたので……」
心細さ、寂しさ、驚き、戸惑いの連続だ。しかし、もちろん、日本での転戦がつらいばかりだったわけではない。そもそも日本の文化に興味津々で日本でのプレーを選んだというカリス。
「日本食が大好きなんです。刺身、しゃぶしゃぶ、焼き肉……とてもひとつになんか選べません。あと、日本では名古屋や東京、北海道、福岡など、それぞれの地方で名物料理がありますよね。あれもいい! ああ、日本食は本当に恋しいです(笑)」
と、日本での生活を懐かしむ。来日したばかりの頃は、カレーチェーン「CoCo壱番屋」が強い味方だったというのもカリスの逸話。
「メニューに英語表記があるし、注文が簡単。もちろん、おいしいですし」
さらに、外国人にはややハードルが高そうな温泉も「大好き!」という。
「試合で遠征したときは、宿泊先の露天風呂に入っていました。銭湯も好きですよ」
最近は銭湯や温泉には行けていないというが
「アメリカでも寿司はいっぱい食べています。ネタはサーモンとマグロが特に好きなんですけど、カリフォルニアにいるときはカリフォルニアロールももちろん食べました。それも、また好き」
24歳カリス・デイビッドソンの冒険はまだまだ続く
カリスの順応性やあっぱれだが、やはり言葉の壁はある。カリスが日本にいたときもそれはひしひしと感じていたようだが、日本人選手がアメリカで戦う際にも同じ問題はある。日本のツアーで活躍する選手たちの実力は十分としつつ
「英語を話せたほうが周囲とのコミュニケーションは取りやすいと思います。私自身が日本で苦労した部分なので……。日本のツアーとアメリカのツアー、どちらのほうが難しいかなんてない。両方とも難しいです」。ただ、
「アメリカの試合では開催コースごとに芝も違い、コースコンディションの差も大きいです。とにかくいろんな技術が求められます」
と、自身の引き出しを増やしているのだという。
「実際、ショットもパットも去年より良くなっていると思います。最近はコースマネジメントに力を入れて、ショットの落としどころなどもよく考えています。100ヤード以内のショット、ピッチショット、パッティングも頑張っています」
アメリカでの生活を満喫し、試合で奮闘するカリス。
「ツアーで友達もできました。同郷のステファニー・キリアコウとは仲良しです」
プレーヤーとしてのキリリとした表情も魅力のカリスだが、
「え、この記事が日本のゴルフダイジェストに載るんですか!?」
と目を丸くし
「わあ、4ページも? 記事はどうやったら見られるんですか? ネットでも見られる?」と、嬉しそうに照れるのも、またカリスらしい素敵な一面。
「写真を撮影するのでポーズをとって」とお願いすると「恥ずかしい」を連発しつつ、「日本の皆さんー」とピース。
新しい町に住み、戸惑いながらも勇気を出し、全力を尽くすカリスの様子を見聞きしていると、日本の有名なアニメ映画を思い出した。魔女の修行をする少女が黒猫を相棒に、知らない町で奮闘するストーリー。
ポスターのキャッチコピーは、たしか
「おちこんだりもしたけれど、私はげんきです」
ホウキではなく、クラブを持って。24歳、カリス・デイビッドソンの大冒険はまだまだ続く。
取材・写真/南しずか 構成・文/週刊ゴルフダイジェスト編集部
※週刊ゴルフダイジェスト2023年6月6日号「飛躍する24歳 カリス・デイビッドソン」より