「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターの大庭可南太がパットを考察した。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて先週はPGAツアーではメジャー大会の全米オープンが行われ、ウィンダム・クラーク選手がメジャー初優勝を遂げました。

画像: 画像A 大会中終始高いレベルのショットを続けながら、パットで伸ばせず2位になったローリー・マキロイ(写真/Blue Sky Photos)

画像A 大会中終始高いレベルのショットを続けながら、パットで伸ばせず2位になったローリー・マキロイ(写真/Blue Sky Photos)

一方、1打差の2位で終えたローリー・マキロイ選手は、終始安定したショットを見せながら、どうしても微妙な距離のパットを決めきれず、スコアを伸ばせずに2位に終わりました。そういうわけで今回はパットについてです。

マキロイはパットがヘタなのか⁉

今回の全米オープンでは、もうあと二回でも三回でもパットが入っていれば、マキロイ選手が勝っていたように思えました。ではここで今シーズンのマキロイ選手のスタッツを見てみます。

画像: 画像B グリーンに到達するまでの全てのスタッツで上位に入りながら、パッティングの順位だけが低い。(PGA Tourのウェブサイトより抜粋)

画像B グリーンに到達するまでの全てのスタッツで上位に入りながら、パッティングの順位だけが低い。(PGA Tourのウェブサイトより抜粋)

確かに統計的には、グリーンに到達するまでのショットでは高い順位にいて、パッティングだけが103位とありますので、この数字だけを見ると「マキロイはパットがヘタなんじゃないか?」と思ってしまいますが、実際にはそうではありません。

この「ストロークゲインド」という指標では長いパットを決めるほどパットの順位が上がりますので、ショット力のある選手はパットの順位が上がりづらくなります。

よってマキロイ選手は明らかにショットが優位なために、上位にいる選手であるとは言えますが、パッティングがヘタなわけではありません。むしろこれでパッティングも良ければ無敵の選手になります。とはいえ、今大会では「もうひと転がりしていれば」という印象のパットが多かったことも事実です。

パットでボールに「順回転」をかける⁉

ではよく言われている、「転がりの良いパット」とはどういうものなのでしょうか? 良く言われている「ボールに順回転をかける」というのは本当に可能なのでしょうか?

実はザ・ゴルフィングマシーンにパッティングについての記載はあまり多くないのですが、飛球原理を説明している第二章にこのようなナゾのイラストがあります。

画像: パッティングに関する不気味なイラスト。上からボールに無回転、順回転、逆回転がかかる様子を示しているが、そもそもパターのロフトがリバースロフト(フェースが下を向いている)になっている(ザ・ゴルフィングマシーンより抜粋)

パッティングに関する不気味なイラスト。上からボールに無回転、順回転、逆回転がかかる様子を示しているが、そもそもパターのロフトがリバースロフト(フェースが下を向いている)になっている(ザ・ゴルフィングマシーンより抜粋)

このイラストに対応する本文が掲載されていないので、何を伝えたいのかがよく分かりませんが、一つ特徴的なのは、このイラストで使用されているパターは、ロフトが逆についている、つまり通常は3〜4°ロフトによってフェースがわずかに上を向いているのに対して、逆にフェースが下を向いています。

そしてそのようなパターで、ボールの赤道より上部をヒットすれば順回転をかけられるとしています。

しかし一般に市販されているパターは前述のように3〜4°の上向きのロフトがついていますので、このような状況を達成するにはハンドファーストを強めて(実効ロフトを減らして)、同時にややアッパー軌道でトップ気味に当てなければ順回転をかけることはできません。

しかしそれを試みれば、最悪の場合、打撃の瞬間にボールが地面にめり込んで跳ねてしまうので、回転も総距離も不安定なものになってしまいます。つまり現実的にはパットで「ボールに順回転をかける」ことはできないということになります。

ボールは「滑り」「弾み」そして「転がる」

ただこの「順回転」については昔から議論があったようで、実は同時期にイギリスで同じテーマについて詳細な実験を行っています。そこで得られた観測結果では、パットの際、ボールはまず打撃された直後に「空中を進む」あるいは「地面の上を滑る」状態を経て、地面の起伏やボールのディンプルなどの影響でバウンドする「弾む」状態を経て、やがて地面との摩擦によって「転がる」状態に移行することがわかっています。

そこでもボールに順回転をかける状況をマシンテストによって作り出していますが、それがボールの転がる総距離にどのように影響するかを調べた結果は「あまり変わらない」というものでした。

画像: 画像D 上からボールを無回転、逆回転、順回転で打ち出したときのボールの「滑る」距離と、最終到達点の比較。28フィート(約8.5m)の距離でも、その飛距離差は0.8フィート(25センチ程度)にしかならない(「Search for the Perfect Swing」から引用)

画像D 上からボールを無回転、逆回転、順回転で打ち出したときのボールの「滑る」距離と、最終到達点の比較。28フィート(約8.5m)の距離でも、その飛距離差は0.8フィート(25センチ程度)にしかならない(「Search for the Perfect Swing」から引用)

なぜそうなるかと言うと、パットではヘッドスピードが少なすぎるため、そもそもボールに与えられる回転量を大きくすることができないからだとしています。ちなみに実験では現実的に達成可能な最大限の回転を与えるとしても、毎秒2.2回転程度が限界だったとしています。ウェッジなどのフルショットでは回転量は毎分1万回転、毎秒だと160回転程度になりますので、ほとんど無視できる小ささということになります。

ちなみにこの回転数では「回転で曲げるパット」、つまりビリヤードやボウリングのように転がりながらカーブしていくようなパットを打つことも現実的ではありません。一説にはセベ・バレステロスは「いや、オレはそんな科学は信じない。オレはパットを曲げられる」と言ったとされますが。

「転がりの良いパット」とは⁉

しかし我々ゴルファーは経験則として、いわゆる「転がりの良いパット」を目にすることがあります。カップにしっかりと届いていながら、カップを通り過ぎてもすぐに止まるような都合の良いパットです。

しかし現実には、こうしたパットというのは、与えられた条件下で理想的な打撃を行ったパットということにしかなりません。すなわち、芯でヒットして、フェースが目標方向を向いていて、設計通りのロフトで打つといったことの結果になります。

もちろんこうした条件を基礎として、上級者の中には「わざと芯を外す」などして微妙な傾斜に対応すると言った技術もあると聞きます。最終的には「自分のイメージ通りのボールの転がり方」を出せるというのが、「良い転がりのパット」ということになりそうです。

このように書くと、「魔法のように入るパッティングは存在しない」という内容に思われるかも知れませんが、多くのアマチュアは「そもそも現実的に可能な範囲で理想的なパッティングができているのか」をもう少し気にかけた方が良いと思います。

具体的には、アマチュアの方は過度にハンドファーストにしてロフトを減らして「転がりを悪くしている」パットをしている方が多いように思えます。ロフトが立った方が「転がりが良くなる」と思われているのかも知れませんが、逆にボールが跳ねるなどして不規則な転がりになっている場合が多いように思えます。ロングパットなどで打ち出し直後にボールがボコボコ跳ねる方は要注意です。

最近ではパッティング専用の計測機器も増えてきましたので、こうした確認をすることで新しいパターを買うよりもより大きな効果が得られるかも知れません。ぜひお試しください。

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