みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて、私は先週行われました「アース・モンダミンカップ」の会場を数日うろついておりまして、プロゴルファーに専門的な指導を行っておられる方々のお話をお伺いすることができました。
そこで私が感じたことは、やはり「ゴルフは科学」ということであり、今後ますます「ゴルフの指導」は「科学的根拠に基づく医療行為」に近づいていくだろうということです。今回の記事では、そうした状況を「ザ・ゴルフイングマシーン」という本の位置づけも含めて考えてみたいと思います。
さまざまなハイテク計測機器と科学的アプローチ
ご存知の方も多いと思いますが、昨今のゴルフ業界では先端技術を駆使した様々な計測機器があります。
まず弾道解析を行う機器として、トラックマンやGC Quadといったものがありますが、これは打ち出されたボールの挙動(あるいはその際のクラブヘッドの挙動)を計測するものです。
確かにスウィングのフォームはどうあれ、結果として打ち出されたボールの挙動で結果が決まりますので、それを詳細に計測することは必要だと考えられます。
一方、理想的なボールが打ち出されるためには、やはり人体がどのようにクラブにエネルギーを与えているかも重要なはずですので、その動作を解析するための、ギアーズをはじめとしたモーションキャプチャーの測定機や、足裏の圧力の推移を計測する機器もあります。
さらにパッティング時のボールの挙動をハイスピードカメラによって測定するクインテックなどの機器もあります。
こうした測定をベースとして、より良い結果を生み出すためのクラブやボールといったギア要素とのマッチング、加えてゴルファーの筋力や可動域といったフィジカル面の改善も当然必要になります。
このようにして様々な要素を極限まで最適化して、一体となってスウィングを生み出すように作り上げられたのが現代のプロゴルファーと言えます。もはや最高の部品を組み上げて作ったF1マシンのようなものです。
ゴルフの指導は医療行為に近づきつつある
このように検査(計測)をして、何らかの異常(弱点)を確認し、治療(改善)の方向性を共有しながら改善に取り組んでいくという点で、もうゴルフの指導は医療行為と同じことになっているわけです。
ちなみにこうした行為のデータがデジタルに蓄積されることによって、より的確なアプローチの選択が可能になっていきます。例えばある選手の特定の部位の可動域が少ないという問題に対して、同じように可動域の少ない選手で成績を出している選手のスウィングとの比較を行うことで、短期間で良い結果を出すことができるようになる可能性もあります。
ザ・ゴルフィングマシーンでは、「スウィングは24個の構成部品からなる完成品」という考え方をしていますが、それぞれの構成部品は互いに影響しあっていますので、特定の部品を修正しただけで全体のパフォーマンスが大きく向上するということもあり得るのです(もちろんその逆もありますが)。
こうした機器のほとんどは欧米発ですが、「ザ・ゴルフィングマシーン」や同時期の「Search for The Perfect Swing」などで提唱された、物理・科学の理論体型を背景として、それらがテクノロジーの発達によって民間レベルで応用できるようになった結果と言えます。
アマチュアにとってこそゴルフは複雑だ
とこのような話をしていくと、「複雑すぎる」とか、「プロはともかくアマチュアには関係のない話ではないか」というご意見が必ず出てくるのですが、もうそろそろこの考え方も改めたほうが良いのではないかと思います。
もちろん多くの人にとってゴルフはスポーツであり、レクリエーションです。よって「楽しい」ことが最重要です。しかし、ことゴルフに関しては、他のスポーツと違う側面があると思うのです。
例えば私はテニスのインストラクターをしていたことがありますが、週に一回テニススクールに通っている人は、批判を覚悟で言えば、おそらくテニスのトーナメントに出場することを目標としていません。週に一度、テニススクールで汗を流して、コーチやレッスン生との交流などから楽しい時間を過ごせることが目的のはずです。
そうなればコーチの役割は、それなりにキレイなフォームでスウィングできて、ときどきナイスショットが出る和気あいあいとしたレッスンの空間をつくることになります。
ですがゴルフはそうはいきません。どれだけ練習でキレイなフォームでスウィングできても、いざラウンドともなれば、できると思っていたことの半分もできずに半ベソかいて自信喪失して帰るというのがゴルフです。
もちろん本当に楽しそうにラウンドしている方もいますが、多くの方は緊張から体が動かなくなってOBを打って、手が震えながらパットしてそれが行ったり来たりして顔面蒼白になるのがゴルフです。
つまりラウンドという「実戦のスコア測定」という残酷な行為が最初からセットになっている「実力を目の当たりにするスポーツ」がゴルフです。他人から見れば「何が楽しくてやってるんだ」と思われつつ、それでも「絶対に、いつか、必ず」と思って止められないのがゴルフなのです。
ですので「ゴルフなんてスコアがどうでも楽しけりゃいいんだよ」と自分にウソをつくのはもうやめましょう。ゴルファーなら誰しも1ミリでも遠くに真っ直ぐ飛ばしたいですし、1打でもベストスコアを更新した日のビールは絶対に美味しいはずです。
そうであれば、例えば「緊張した場面で必ずチーピンする」という症状は絶対に完治させたいものでしょうし、そのための専門医がいるのならば多少費用をかけても遠方まで出かけていって治療を受けたいと思うのも普通ではないでしょうか。つまり問題点の多いアマチュアにとってこそ、ゴルフの複雑な学問的背景は重要なものになるはずです。
ザ・ゴルフィングマシーンが難しいのは当たり前なのです!
幸いにして、テクノロジーの発達にともない、ゴルフの「指導者」=「医者」という潮流はどんどん進んでいくと思われますし、もしかするとある程度までのレッスンは人工知能で事足りるようになるかもしれません。
ただし患者に医学知識が必須ではないように、ゴルファーが専門的な理論や知識に長けている必要はありません。しかし当たり前ですがお医者さんは医学の本を読みますし、最新の医学論文などにも目を通していることでしょう。
ザ・ゴルフィングマシーンは、現代の様々な計測機器の発展の背景にある、いわば「学問書」と言えます。ゴルフという「レクリエーション」に関する本と考えれば確かに難しいでしょうしつまらないでしょう。しかし「学問書」あるいは「専門書」と考えればどうでしょうか。医学書や医学論文に比べればそこまで難しくないかも知れません。
そうした学問に取り組む指導者が増えることで日本の「ゴルフ学」がますます発展していくことを期待したいと思います。