
右足を"個性"と自負する義足のプロゴルファー・吉田隼人が日本男子ツアーのASO飯塚チャレンジドトーナメントに初挑戦した(撮影/大澤進二)
レギュラーツアーの緊張感からか浮足立って力が入ったという吉田
「第39組、日本障害者オープン3連覇、吉田隼人」とコールされ、10番のティーグラウンドに立った吉田は、とても緊張していた。それは、キャディを務める有迫隆志さん(左上肢機能障害)にも、同組の時松隆光、清水大成、各キャディにも伝わっていた。
あいにくの雨。今日はレインウェアを着るしかない。これでは"個性"と自負する義足も出せない。
日本人で初めて、障害者がプロツアーで放った第一打はフェアウェイ左へ。セカンド地点からは左サイドの木でまったくピンが見えない。
吉田は、残り165Yを7Iでフックをかけて2オン。1mのバーディチャンスを逃してパー。いいスタートだ。しかし、雨は無常にも強さを増していく。義足は、雨の日は普段以上に滑る。歩くことにも神経や体力をかなり使う。
どんどんスコアは崩れ、終わってみれば「86」。
試合後会見での吉田の第一声は「足が重いですね」。
レギュラーツアーの緊張感からか浮足立って力が入ったという。
傾斜、ラフ……雨の日はより大きな壁となる。「これが自分の実力です」と言ったあと
「新しい発見もたくさんあった。僕の財産になります。今後対策を考えていける。そして、この雨でもプレーできるコースなのが素晴らしい」
と自身が働く“コース管理”としての感覚でエールを送り、明日に向かった。
昨年末、本大会出場を打診され「すごく嬉しかった」という吉田は、二つ返事で参加を決めた後、肉体改造に取り組んだ。
「斜面でもピョンピョン跳ねるように走るんですよ」(同組の時松)

24歳のときバイクの大事故で右足を大腿部から切断。30歳でゴルフを始め、よみうりCCで働きながら22年日本PGAティーチングプロB級取得した吉田。今大会優勝の中島啓太とも2ショット(撮影/大澤進二)
今年40歳、体力の衰えも感じてきた。何より今年1年間戦っていくためだ。
「片足だと骨や筋肉の位置がズレやすいんです。ヨガは体のバランスを元に戻すのにいい。また、義足側を鍛えるイメージはなかったけど、パーソナルトレーナーがアドバイスしてくれた。アスリートらしくなるため、日々4、5食取り体重も10㎏増やしました」
春に練習ラウンドに来て、今回も日曜にコース入り。準備はしてきた。
「距離はそこまでないですが戦略性が高い。求められる球筋と緩急を付けて打てるかですね」
ABEMAの密着取材も、囲み取材もたくさん受けた。
「嬉しいです。障害がある人にもこんな人がいるんだ、と多くの方に知ってもらえる。僕自身が、パラリンピストなどを見て勇気をもらいましたから」
試合前日、今の気持ちを「ワクワク感と怖さ半分」と語った。
「テレビで観ていた憧れの舞台に立てる、自分の今の実力がどれくらいかを試せるワクワク感と、僕で大丈夫かな、こんな緊張する大きな大会に(義足の調子による)悪い波がくる日に当たらないかなという怖さです」
2日目、前日とはうってかわった晴天。
「今日は楽しんでいきます。失うものは何もないので」
1番・パー5。本人がこの日の"ベスト"としたティーショットは右の木を越えてフェアウェイの真ん中へ。セカンドは175Yを7Iで2オン。15mのイーグルパットを寄せてバーディだ。隣にいる有迫さんの「よしっ」という力強い声が聞こえた。
しかし、どんどん日差しが強くなり暑さで滲んだ汗が、義足のなかを滑らせる。
7番のティーショット後、プレー時間の警告が入り、吉田は少し焦っているように見えた。
「とにかくプロたちに迷惑をかけないように急がないといけない」
と試合前から日頃以上に気合いが入っていた吉田。その後は問題なく試合は進んだ。
急斜面に打ち込んでもそこに駆け出し、トラブルショットも「ナイスアウト」を続ける。
「斜面でもピョンピョン跳ねるように走るんですよ、それがすごい」
と時松隆光。11番・パー3では、ピン1mに付けた時松の内側に付け、「やめてください(笑)」と言わしめた。
結果、この日は「82」。前日のリベンジまでは至らなかった。(後編へ続く)
※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月4日号「義足のプロ、ツアー初参戦! 吉田隼人」より