義足のプロゴルファー、吉田隼人が先日行われたASO飯塚チャレンジドトーナメントで、日本ツアーに初挑戦。予選ラウンドを「86・82」で終えて、語った想いとは?
画像: 飯塚チャレンジドトーナメントで、日本ツアーに初挑戦した義足のプロ、吉田隼人。同組の時松隆光と清水大成が見守るなか、ティーショットを放つ(撮影/大澤進二)

飯塚チャレンジドトーナメントで、日本ツアーに初挑戦した義足のプロ、吉田隼人。同組の時松隆光と清水大成が見守るなか、ティーショットを放つ(撮影/大澤進二)

「自分が頑張って日本の障害者ゴルフを底上げしたい」(吉田)

試合後、吉田隼人の会見は、どのプロより長い20分に及び、どのプロより熱く、試合に参加しての感謝と自身が得たもの、ゴルフや障害者ゴルフについての想いを語った。

「プロ2人のプレーはもう、勉強でしかなくて。やはりショットメーカーは、トップで間があるからミート率が高い。下半身が準備できてしっかり踏ん張れるんですね。これは僕の課題でもあります。そもそもボクが障害を得てゴルフを選んだ理由はリハビリにすごくいいから。自分の体をどう動かしたらどうなるかという部分を突き詰めていくのがリハビリになる。何より上達するのが楽しいんです」

障害者ゴルフの現状―世界各国の状況、カート乗り入れやカテゴリー分けの難しさなどもしっかり説明した。そして、自身の最大の目標を改めて

「世界障害者ゴルフランキング(WR4GD)で1位になることです!」

と話した。(6月15日現在39位)

「7月のアメリカの試合と9月からのヨーロッパの試合に向けて、コントロール性を改善してパーオン率を上げたいんです」

今、障害者ゴルフの世界には大きな動きがある。昨年からUSGAが主催するアダプテッドオープンが始まり、今年5月にはR&Aの主催する大会が開かれた。パラリンピック参加に向けての動きだ。欧州では、プロツアーと共同で開催される試合もある。

「今、楽しいです。いろいろなプレッシャーで苦しいときもあるけど乗り越えないと。僕はプロでもあるし、僕を倒しに来る人たちには負けられない。世界一を目指しているので。自分が頑張って障害者ゴルフを底上げし、日本でまだ2試合しかない世界ランク対象の試合が増えればいいと思います」

吉田たちの挑戦の2日間、吉田と有迫の組を見守る人たちがいた。吉田のご両親、未央夫人、6カ月の息子・匠人くん。皆さん吉田の試合は初めて見るのだという。

「熱くなりやすいので頑張ってほしいです」

とは未央さん。そして、障害者ゴルファーの仲間たちも見守っていた。初日、雨のなか大会ボランティアを終えた仲間が駆けつけたのだ。

「勇姿を見たいなと。僕らが送り出さないといけないですよね」(大岩根正隆さん、秋山卓哉さん)

2日目も居残り観戦をしていた中西義則さんは、

「有迫さん、吉田隼人の名を背中にしょって頑張ってますねえ(笑)。昨日もボランティアをしたテントのなかでスマホの速報を見て皆で『よしっ』なんて言ってたんです。2人で1つになって頑張る姿を見ると、あの2人が代表で本当によかったね、と皆で話をしていたんです」

「上手くなるための工夫や準備……健常者も一緒です」(キャディ)

画像: キャディの有迫隆志さんとグータッチする吉田隼人(撮影/大澤進二)

キャディの有迫隆志さんとグータッチする吉田隼人(撮影/大澤進二)

さて、キャディの有迫隆志さんは、試合後汗を拭いながら満面の笑みで、

「めちゃくちゃ楽しかった。試合ではやることが多すぎて……キャディは初めてですけどたいへんですね」

と話しつつ、吉田に関して

「僕らでも見ていて悔しかったから、隼人本人はよりそうだと思います。そういうときは本音を聞くと無口になる」

と仲間ならではの分析もしてくれた。予選通過を目指した吉田に改めて今の想いを聞くと

「やっぱり悔しいです……」

見る人によっては、「この状況でよくやった」になるのかもしれない。

しかし、吉田隼人にとっても、仲間にとっても、あくまで”舞台は同じ”なのだ。有迫さんがしみじみ語る。

「仲間はいいです。皆ゴルフが大好きだし、競える仲間がいるから目標とする人がいるから自分が上手くなるし、皆で盛り上げていける。僕はゴルフを楽しむのはもちろんですけど、障害者の方々に、僕らもこういうことやれるよと示さないといけない。子どもたちにも、もしこうなったときにこういう道もあるんだと。

障害者にはなりたくはないですけど、なれるものじゃない。なったときに、いろいろ選択肢がなかったら寂しいでしょう。だから僕らが頑張らなきゃいけないんです。ゴルフ競技をしていると人生でプラスになることがたくさんある。自分で決断して行動することも、上手くなるための工夫や準備、練習が必要なことも……健常者も一緒ですよね」

2日目は片足半ズボンで“個性”を見せつつのプレーとなった吉田。

「義足は個性だと思っているので見てほしい。同じ境遇の人には部品の組み合わせやどう動いているのかが参考になるはずです。以前来日したアメリカのプロ、チャド・ファイファーの姿を見て僕もプロになろうと思いました。彼は『あるものを使ってやるしかないからいろいろ工夫していくんだ、毎日練習するんだ。義足を受け入れて個性だと思ってやっていく。それがプロとして武器になる』と。いつか彼にも勝ちたいですね」

この大会が、吉田隼人はもちろん、障害者ゴルフ界にとっても新たなステージへの飛躍のきっかけとなっていくはずだ。

※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月4日号「義足のプロ、ツアー初参戦! 吉田隼人」より

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