ウィンダム・クラークは"カーキー”にプレーした
全米オープンは、ウィンダム・クラークのメジャー初優勝で幕を閉じました。5月のウェルズファーゴ選手権でのPGA初優勝からわずか1カ月半。高いポテンシャルに加え、優勝による自信が勢いをつけたのでしょう。
首位で終えた3日目の取材で、クラークが口にしたのが「今週のテーマはカーキーにプレーすること」。カーキー(COCKY)とは俗語で、自うぬ惚ぼれるとか、生意気といった意味で、あまりいい言葉としては使われません。しかし優勝争いを演じるのはリッキー・ファウラー、ローリー・マキロイ、スコッティ・シェフラーなど一流ばかり。まだツアー1勝の明らかに格下の自分への叱咤激励の言葉だったのでしょう。
亡き母がクラークに送り続けた「PLAY BIG!!」に通じます。表情を変えず、堂々とプレーし続けることを支えた魔法の言葉となりました。優勝会見で女性メンタルコーチ、ジュリーとのやり取りが紹介されて、「コース上で"リッキー!"というファンの声を聞いたら、カーキーになってその人たちにあなたのゴルフを見せてやりなさい」と。クラークは「今日は100回くらいは自分にそれを言い聞かせたよ」と言ってました。
彼を見ていると、S・シェフラーと印象がかぶります。ひとつはメジャー勝利へと一気に駆け上るスピード感。もうひとつが、シェフラーはキリスト教への信仰心、クラークは天国の母の存在と、共通して強い心の支えがあることです。最終日の8番パー5、2オンを狙ったクラークのボールは、バンカー縁のバミューダ芝の中に。そして3打目を空振り、4打目は脱出だけに専念してホームラン。普通の選手であれば、バタつき自分を見失うものです。しかしクラークは、慌てることもなく普段のペースでナイスリカバリー。そこに、信じることの強さを感じました。
ローリー・マキロイは全英オープンに期待を抱かせる
さて、1打差の2位はR・マキロイ。14年の全米プロ以来のメジャー5勝目は、この大会でも果たせず。しかし、その敗因を指摘できる人はいないでしょう。昨年、セントアンドリュースの全英オープンは3位に終わりましたが、明らかに消極的なパットが敗因でした。今回は最後まで攻め続けた結果、惜しくも入らなかったにすぎません。
14年の全米プロ以降、メジャー33大会に出場してトップ10フィニッシュが19回。常にメジャー優勝に近い位置にいる選手です。7月の全英オープンは、14年に優勝したロイヤルリバプール。相性がいいだけに、そこでゴルフの神様からご褒美が、そしてその勢いで来年のマスターズではキャリアグランドスラムを……そんな期待を抱かせてくれるのもまた、マキロイの魅力かもしれません。
今回、初日にクラークとシャウフェレが全米オープン史上最少の62をマーク。初日80台の選手がいなかったのも史上初。バーディ合戦の様相に批判もありましたが、データのない初開催のコースセッティングに運営サイドの苦心がうかがわれました。
しかし、知るぞ知る名門コースのベールがはがされ、大都市、ロサンゼルスのど真ん中からの景色も新鮮でした。16年後の2039年にはブラッシュアップされた全米オープンになると思います。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月11日号「うの目 たかの目 さとうの目」より