昨年の全米女子アマを制した馬場咲希さんを、中学1年から指導しているのがプロコーチの坂詰和久（さかづめかずひさ）、通称『わきゅう』だ。坂詰コーチと20年以上の付き合いがあるベテラン編集者Oが、謎キャラコーチの気になる話を聞き出す！ 今回は「上達には地道な反復練習しかない」がテーマだ。
手元を体の正面に保ったまま、ゆっくりと素振り。インパクトゾーンでも、体の回転を止めず、腕が体を追い越さないようにスウィングする。この地味な素振りを続けることで、体で振る動きが身につく、と坂詰コーチ
体で振る感覚を磨くには、やっぱり"素振り"！
O編 手でクラブを振るのではなく、体で振る（骨盤、胸、腕、クラブの順でエネルギーを伝えてスウィングする）ためには、自分の柔軟性、可動性に合わせた、コンパクトなトップから球を打つといい、というのが前回の話だったよね。
坂詰 ええ。手で振ってる人って、自分の限界よりも大きく体を回そうとか、クラブを無理に高く上げようとしていることが多いんです。でも、そうするとどうしても手で上げて、手で下ろすスウィングになりやすいんですよ。だから、まずはそれをやめて、自分の柔軟性、可動性の範囲内で作れる、いつもよりコンパクトなトップから球を打つんです。そうすることで、少しずつ体で振る感覚が身についてくると思います。
O編 ほかに、手で振る動きを抑えて、体で振る感覚を磨く方法はある？
坂詰 地味かもしれませんが、やっぱり素振りですよね。アドレスからフィニッシュまで、一度も手を動かさず、常に手元を体の正面に保ったまま、骨盤と胸を回旋させて、ゆっくりと素振りを繰り返すんです。
O編 繰り返すって、どのくらい？
坂詰 できるようになるまでずーっとです。ゆっくりの素振りでできるようになっても、速く振ったらできなくなるのであれば、速く振っても手を振らなくなるまでやる。素振りでできるようになっても、球を打ったらできなくなるのであれば、また素振りに戻る。さらに、ちょっとくらい打てるようになっても、すぐに元の悪いクセが出るだろうから、また素振りに戻ってそれを続けていくんです。
O編 やっぱり、新しい動きを身につけるには、そういう反復練習が必要ってことだね。
活躍するプロだって、ずーっと反復練習をやっている
坂詰 正直、手を振るスウィングと、体で振るスウィングって、まったく感覚が違うんです。だから、手で振っていた人が、体で振るためには、ものすごい意識改革が必要になるわけです。そのためには、地道な反復練習を積み重ねるしかないんですよ。多くの人が、「これをやればすぐに直る」とか「これを意識すればできる」みたいな特効薬があるって信じているんですけど、そんなものゴルフにはありませんからね。
O編 片山晋呉プロなんかを見てると、反復練習の大切さがよくわかるよね。片手打ちのドリルなんかもそうだけど、彼は、自分がいいと思ったら、ひとつのことを何年だって、ずっと続けられるもんね。ゴルフが上手くなるためには、あれしかないんだなって、いつも思うよ。
坂詰 でしょ。渡邉（彩香）さんだって同じです。毎日、自分がやりたい動きを意識しながら、クラブを持たずに、ずーっとシャドースウィングしてますよ。試合中だって、ホテルに帰ったらずーっとシャドースウィングです。それも5分や10分じゃないですよ。ホント、ずーっとしてる。それを半年続けても、試合になると思うようにできなかったりするから、またシャドースウィングを続けるんです。一線で活躍しているプロでさえそういう努力をしているんです。でも、そういうことを、みんな知らないんですよね。
O編 普通の人は、プロのそういう姿を見られないからね。
坂詰 とにかく、手先の動きを完全に抑え込むのは、プロでも難しいんです。手を使わず、体を回して打つ。そうやって言葉にすると、とてもシンプルじゃないですか。でも、渡邉さんがよく言うんです。「シンプルなものほど難しいですね」って。
O編 ホント、難しいよね。どんなに意識しても手が動いちゃう。だからいつも言っているように一般のゴルファーだったら、多少手打ちでもいいと思うんですよ。プロのように完全に手を使わないスウィングを身につけるには、相当の覚悟と努力が必要ですからね。
O編 でも、一般のゴルファーだって、手を使わず、体で打つスウィングを身につけようとすることは悪いことじゃないでしょ？
坂詰 もちろんです。先ほど説明した素振りもそうですが、そういう意識付けをすることで、確実に動きは変わってきますからね。手先の動きを完全に抑え込むのは難しくても、パワーソース（パワーのもと）が手先から体に少し移行するだけで、スピードや反復性は確実にアップするはずです。
O編 そのためには地道な反復練習を続けるしかないわけだね。
坂詰 はい。プロのようにやれとは言いません。でも、体で振る素振りを1日5分でいいから毎日続けるんです。それができる人と、できない人では、何年か先に大きな差がつくことは、間違いないんですよ。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月11日号「ひょっこり わきゅう。第23回」より
