米女子ツアーを主戦場とし、ペブルビーチでの女子メジャー「全米女子オープン」ではあと一歩の4位タイだった畑岡奈紗のスウィングを、ゴルフコーチ・北野達郎がAIを使って分析した!

左に引っかけないためのボール位置

みなさんこんにちは。SPORTSBOX 3DGOLFスタッフコーチの北野達郎です。

今回は、全米女子オープンで最終日首位スタートから惜しくも4位タイと健闘してくれた畑岡奈紗選手のスウィングをスポーツボックスAIで分析してみましょう。畑岡選手の特徴は①縦方向(バーチカル)の力を上手く利用していること、②クラブを上手にローテーション(回転)させて、ヘッドを効率良く加速させるタイプであること、の2点になります。それでは早速チェックしていきましょう。

画像: 先日の「全米女子オープン」で4位タイだった畑岡奈紗(写真は2023年の全米女子オープン 撮影/Yasuhiro JJ Tanabe)

先日の「全米女子オープン」で4位タイだった畑岡奈紗(写真は2023年の全米女子オープン 撮影/Yasuhiro JJ Tanabe)

まずアドレスですが、ボール位置は左足かかと内側でスタンス幅は肩幅とほぼ同じです。元々畑岡選手はボール位置をやや左足内側に置くタイプの選手ですが、これはあまり左に移動せずその場で回転して、クラブを開いて閉じるローテーションを使うタイプであることに関連があり、そのタイプが左足側に置き過ぎるとフェースが早く閉じて左に引っかける可能性が高くなるためと考えられます。

画像: アドレス時のボール位置は左足かかと内側で、スタンス幅は肩幅とほぼ同じ。これは畑岡が左サイドへ移動せずその場で回転するタイプのスウィングであることも関係している

アドレス時のボール位置は左足かかと内側で、スタンス幅は肩幅とほぼ同じ。これは畑岡が左サイドへ移動せずその場で回転するタイプのスウィングであることも関係している

縦方向の動きが大きい

続いてトップ(P4)を見てみましょう。畑岡選手は縦方向の力を使うタイプの選手ですが、それはトップ、切り返し、そしてインパクトと順番にデータをチェックしていくと見えてきます。スポーツボックスAIのデータ項目「LIFT」は、アドレスから上下にどれだけ移動したかを計測する項目ですが、骨盤(PELVIS)が−1.8インチ(約4.6センチ)、胸は−1.7インチ(約4.3センチ)、それぞれアドレスより下に動いています。

画像: トップポジションでは、骨盤は1.8インチ(約4.6センチ)、胸は1.7インチ(約4.3センチ)アドレス時よりも下に動いている

トップポジションでは、骨盤は1.8インチ(約4.6センチ)、胸は1.7インチ(約4.3センチ)アドレス時よりも下に動いている

ここから腕が地面と平行のポジションのP5でのデータをご覧頂くと、骨盤は−2.9インチ(約7.4センチ)、胸は−3.3インチ(約8.3センチ)と、いずれもトップより下に踏み込んでいることが分かります。

画像: 腕が地面と平行のポジションでは、アドレス時より骨盤は2.9インチ(約7.4センチ)、胸は3.3インチ(約8.3センチ)下に位置している。このことからトップ時よりもさらに下へ踏み込んでいることがわかる

腕が地面と平行のポジションでは、アドレス時より骨盤は2.9インチ(約7.4センチ)、胸は3.3インチ(約8.3センチ)下に位置している。このことからトップ時よりもさらに下へ踏み込んでいることがわかる

このP5のポジションがもっとも下に下がっているポジションで、そこからは徐々に上昇してインパクト直後では骨盤+1.4インチ(約3.6センチ)、胸+0.7インチ(約1.8センチ)でデータはプラスに転じています。つまりトップから切り返しにかけて一旦下に踏み込んで、そこから地面反力で身体は伸展していることが一連のデータから分かります。

画像: インパクト直後では、アドレス時より骨盤が1.4インチ(約3.6センチ)、胸は0.7インチ(約1.8センチ)高い位置にある。深く踏み込んだところから身体を伸展し、地面反力を活用していることがわかる

インパクト直後では、アドレス時より骨盤が1.4インチ(約3.6センチ)、胸は0.7インチ(約1.8センチ)高い位置にある。深く踏み込んだところから身体を伸展し、地面反力を活用していることがわかる

クラブのローテーションを効率よく使っている

そして、畑岡選手のもう1つの特徴として、クラブのローテーションを上手に使うタイプである点があります。両手の左右への移動量を表す「MID-HANDS SWAY」、そしてクラブの角運動量(回転角度)を表す「SHAFT ANGLE FACE ON」のデータを見てみましょう。

インパクト寸前での両手の位置は−3.7インチ(約9.4センチアドレスより右)、インパクト後は+5.8インチ(約14.7センチアドレスより左)で、これを足し算すると9.4センチ+14.7センチ=24.1センチ(約9.5インチ)インパクト前と後で両手が左へ移動しています。これに対してクラブの回転角度はインパクト直前で−48.4度、インパクト後で+16.1度です。これを足し算すると48.4度+16.1度=約64.5度です。

画像: インパクト前後を比較すると、両手の移動量に対してクラブの回転角度が大きい。クラブのローテーションを効率よく使っていることがわかる

インパクト前後を比較すると、両手の移動量に対してクラブの回転角度が大きい。クラブのローテーションを効率よく使っていることがわかる

この両手の移動量とクラブの回転角度、それぞれの足し算で何が分かるのか? もう少し分かりやすくするためにインパクト前後の両手の移動量をおさらいしましょう。24.1センチなので大人の靴のサイズ位の両手の移動量と考えて下さい。靴1足分の長さしかない両手の動きの間にクラブは64.5度ターゲットに向かって回転して移動しているということです。

1点付け加えますと、ドライバーでのフルショットと違ってSWのアプローチの場合は、クラブの長さが短くなる分だけクラブの回転運動に伴うヘッドの移動距離は小さくなります。以前取り上げて頂いたウィンダム・クラークのアプローチで畑岡選手のドライバーショットと比較してみましょう。

畑岡選手と同じようにインパクト前後の手の移動距離の合計9.5インチ(約24.1センチ)でシャフトの角度を比較すると、インパクト前−53.4度に対しインパクト後は−21.1度で、角度の差は32.3度です。先程の畑岡選手のドライバーショットでのクラブの回転角度と比較すると約半分の角度しか動いていません。

画像: ウィンダム・クラークのSWのアプローチのインパクト付近のデータ。畑岡のドライバーショットと手元の移動量は同じだが、ヘッドの回転角度は約半分ほど。クラブの長さやフルショットか否かで、ローテーション量は大きく変わるというわけだ

ウィンダム・クラークのSWのアプローチのインパクト付近のデータ。畑岡のドライバーショットと手元の移動量は同じだが、ヘッドの回転角度は約半分ほど。クラブの長さやフルショットか否かで、ローテーション量は大きく変わるというわけだ

両手の移動距離は同じでも、クラブの長さが短いSWでのアプローチの場合は、クラブの回転運動に伴うヘッドの移動距離は短くなり、逆にクラブの長さが長いドライバーでのフルショットは、クラブの回転運動に伴うヘッドの移動距離は大きくなることが分かりますね。

畑岡選手はそれだけドライバーショットでクラブをローテーション(回転)させて、効率よくヘッドを加速させて打つタイプであるということです。よくレッスンで「インパクトにかけてヘッドを走らせる」と言われる意味はこのことで、手はあまり動いてないのにクラブがたくさん動いていることを分かりやすくするために「ヘッドを走らせる」と表現しているのです。

今回は畑岡奈紗選手のドライバーショットを中心に分析させて頂きました。全米女子オープンでは2021年に笹生優花選手にプレーオフで敗れ、今回は3日目首位から最終順位は4位タイと、何度もあと一歩という所まで来ている畑岡選手。かつてのレジェンド、ニック・プライスが全英オープンで2度敗れた後の94年にターンベリーで初優勝した際、「82年にはトロフィーに左手をかけ、88年には右手をかけた。そしてようやく両手で掴んだ」と名言を残しています。畑岡選手が近いうちにメジャータイトルを「両手で掴む」日が来ることを信じて、これからも応援しましょう!

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