「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターの大庭可南太がスウィング中の「手の感覚・手の使い方」について考察した。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて今週は全米女子オープンがペブルビーチで開催され、日本からは過去最多となる22人が出場、11人が予選通過、畑岡選手は優勝争いに絡むも惜しくも4位タイ、古江選手が6位タイという成績で大いに盛り上がりました。

そんななか、アメリカの著名なインストラクターであるマイク・ベンダー氏がインスタグラムの中で、今回のペブルビーチ攻略のカギとして挙げていたのが「正確なドローボール」と、そのベースとなる「Educated Hand=手の教育」でした。

この「手の教育」というワードはこのコラムでも何度か取り上げている「ザ・ゴルフィングマシーン用語」になりますが、今大会の状況も踏まえて解説をしていきたいと思います。

画像: 画像A 優勝したハワイ出身のアリセン・コープス。ひたすら正確性の高いショットを重ねてダブルボギー以上を一度も打つことなく優勝をたぐり寄せた(写真提供USGA)

画像A 優勝したハワイ出身のアリセン・コープス。ひたすら正確性の高いショットを重ねてダブルボギー以上を一度も打つことなく優勝をたぐり寄せた(写真提供USGA)

今回のペブルビーチ

さて今回全米女子オープンが開催されたペブルビーチゴルフリンクスですが、男子PGAでは毎年会場になっているのでご存知の方も多いと思いますが、傾向としては

・海岸沿い(リンクス)のコースで風がとても強い
・グリーンは硬くて止まらない上に転がりが不規則
・ラフは深く芝質がねちっこい

などの特徴が挙げられます。

特に今回のラフは、女子選手のパワーではかなり攻略が難しかったようで、ひとたび捕まってしまうとダブルボギーかそれ以上の大叩きになるという場面が何度もありました。当然フェアウェイをキープしたいのですが、飛距離が出る選手ほど風の影響も大きく受けてしまうわけです。

ランキング上位の選手がボロボロ予選落ちをする中、さほどボールは高くなくとも正確性に長けた選手が多い日本人選手が11人予選通過となったのも、こうした環境の影響が一因でしょう。

そしてこのような状況では正確なドローボール、つまり高さを抑えた風に強いボールでの攻略が効果的だったと言えます。優勝したアリセン・コープス選手は、まさにそのようなボールを積み重ねて四日間ただ一人アンダーパーのスコアを並べて勝利を掴み取りました。

画像: 画像B 優勝したアリセン・コープス(左)と、アニカ・ソレンスタム(中)、ローズ・チャン(右)のショット。トゥを見るとはっきりフェースターンを行ってドローを意識していることがわかる(写真はマイク・ベンダーのインスタグラムから抜粋)

画像B 優勝したアリセン・コープス(左)と、アニカ・ソレンスタム(中)、ローズ・チャン(右)のショット。トゥを見るとはっきりフェースターンを行ってドローを意識していることがわかる(写真はマイク・ベンダーのインスタグラムから抜粋)

ちなみに日本LPGAツアーから日本人最上位の13位タイに入った木下彩選手も、かなりハッキリとしたドローヒッターです。

手の教育=右前腕の追い越し

そしてこうしたドローボールを打っていくためには、しっかりと「教育された手」を使えることが重要だとマイク・ベンダー氏は強調しています。

ちなみにこのマイク・ベンダー氏は、ザ・ゴルフィングマシーンの伝説的指導者であるベン・ドイル氏に師事し、その後マイク・アダムス、デイビッド・レッドベターなどのもとでも指導者としての経験を積んだ全米トップインストラクターです。

ザ・ゴルフィングマシーンでは、ゴルフにおける手の使い方はやや特殊なものなので、鍛錬によって後天的に身につけることが不可欠だとしています。具体的には左腕とクラブで作られるスウィング半径を維持しつつ、右前腕が右肘の伸長とともに左腕を追い越していく動作となります。

この動作ができるとフォローでしっかりと両腕が真っ直ぐになる瞬間を迎え、大きなスウィングアークの中でフェースターンもしっかりと行うことができるようになります。そうすることで曲がり幅の少ないドローボールが打てるとしています。

画像: 画像C マイク・ベンダーゴルフアカデミーでの実際の指導風景。インパクトにおけるフラットレフトリスト(左)、頭部を後方に維持した状態で両腕を伸ばしていく(中)ことを徹底して行う。その鍛錬が不充分だと左肘が引ける(右)

画像C マイク・ベンダーゴルフアカデミーでの実際の指導風景。インパクトにおけるフラットレフトリスト(左)、頭部を後方に維持した状態で両腕を伸ばしていく(中)ことを徹底して行う。その鍛錬が不充分だと左肘が引ける(右)

このマイク・ベンダーさんのインスタグラムでは指導風景を頻繁にアップしてくれるのでいつも参考にしていますが、インパクトのカタチと、フォローで右前腕が左腕を追い越しつつ、両腕がしっかりと真っ直ぐになるフォローをひたすら「型」として練習していることがわかります。

フェードヒッターでも両腕は伸びる

もちろん安定したドローボールを打つのにこうした鍛錬が必要なのは理解できますが、フェードヒッターではどうでしょうか。

ザ・ゴルフィングマシーンの基本的な考え方では、このようにしっかりと両腕を伸ばしていくことでフェースターンを行うことができるようになれば、そのターンの量を自在に制御することができるようになるとしています。つまり正しいドローが打てるのであれば、応用でフェードも打てるというわけです。

画像: 画像D フェードヒッターのコリンモリカワのドライバーショット。フォローで右腕が左腕を追い越しつつ、しっかりと両腕を伸ばしながらフェード回転をかけている(写真/Blue Sky Photos)

画像D フェードヒッターのコリンモリカワのドライバーショット。フォローで右腕が左腕を追い越しつつ、しっかりと両腕を伸ばしながらフェード回転をかけている(写真/Blue Sky Photos)

具体的には「スウィンガー」はスタンスとボール位置の変更だけで、ドローとフェードの打ち分けが可能であり、また「ヒッター」はボール位置とグリップだけでそれが可能になるとしています。

これをアマチュアがどのように習得していくかなのですが、一般論としてアマチュアの方は「右前腕の追い越し」のタイミングが遅いです。これはインパクトでフェースが目標方向を向いていなければならないという意識によるところ大きいと思います。

そこで、ごくゆっくりの素振りで、プロのスウィングのようにハーフウェイダウン以降両腕がしっかりとフォローに向けて伸びていく状態を真似してみることをお勧めします。おそらく、信じられないほど早いタイミングで右前腕が左腕を追い越す動作を始めていかないと、フォローで両腕を伸ばすのに間に合わなくなるはずです。

そうするとインパクトでフェ−スがかなり左を向いてしまう感覚になると思いますが、現実のスウィングスピードではそこまでフェースは返ってきません。必ず少しクラブヘッドが遅れてくる「ラグ」が発生しますので、インパクトではほぼスクエアになるのです。

こうした練習を行うことで、まずはしっかりと「つかまった」ボールを打てるようになると、アイアンの打球音が変わってくるはずです。是非お試しください。

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