瞬発力とスピードが落ちてくる30代
攝津 僕が心身の変化を感じたのは33、34歳くらい。故障箇所も増えてくるし、登板の疲れが取れなくなってくる。今までの積み重ねが出てきて、次の登板までに調整するのでいっぱいいっぱいになってくるんです。
小田 まずは体にくるんですよね。僕は36歳で賞金王を取ったけど、32、33歳から飛距離も落ちてくるし、体力はもちろん集中力もなくなってくる。35、36歳で賞金王を取れないとムリだと思っていたから、その2年間にかけていました。
攝津 瞬発力とかスピードが落ちますよね。一瞬の動きというか。数年前から落ちないように努力するんですけど、やりすぎたら回復しなくて逆に試合に影響するので、その塩梅が難しいんです。
小田 攝津さんは中継ぎから先発投手に転向したから、その体力は逆にすごいなと思いました。
攝津 先発は心拍数を長い時間上げるようなトレーニングをするんです。でも、現役の最後のほうは1、2週間に一度は足やひじや肩に注射したり、腰にヘルニアはあったし、正直体はきつかったです。この状態ではもうムリだろうと。
小田 でも、それを皆に言わないのがすごい。僕なんかしょっちゅう「もう痛い、ムリ」って言ってます(笑)。でも、ゴルフは引退がないんです。いつ自分が終われるのかわからない。やろうと思えば50歳からはシニアツアーがあるけど、自分の全盛期はとっくに終わっていて。僕は7歳からゴルフを始めて45歳になりましたが、地球3周分くらいは歩いています。ずっと日々ゴルフし続けている。でも、終わりがなければ集中力もつながらない。
どのスポーツでも、もう少しで終わるというときに、もう少し頑張ろうとなれると思うんです。ただ、男子ツアーは何十試合もあるわけではないので1試合ごと大切にしていかないとシードを落とします。また這い上がるのはこの年齢では難しい。下には五万と若い選手がいます。野球でもケガをして3軍に落ちて1軍に戻ってくるといったら
……。
攝津 確かに、バリバリに活躍していた人が育成に落とされたら、モチベーションは続きづらい。
小田 終わりがないのが、ゴルフと、野球やサッカーとの違いかも。野球で40代で活躍している選手はあまりいないですよね。
攝津 はい。和田(毅・ソフトバンクホークス)さんなんか稀です。すごいですよ。
小田 その年代で活躍する人は超一流。体に負担がかかっているなか、やっている。今の僕は、オフにトレーニングした筋肉が、試合に入るとすぐに落ちて飛距離に影響する。でも、オフと同じトレーニングをすると体力が持たない。だからケガをしないようにということだけを考えています。
2人のドライバーの飛距離は「キャリーで250、260ヤード」!?
攝津 ゴルフは週1、誘われて行く感じ。本格的に始めたのは引退後です。僕のゴルフは80前半から90後半までピンキリ。芥屋GCのメンバーなんです。
小田 芥屋で80くらいで回れたらシングルですよ。あそこのグリーン、スーパー速い高麗で難しいから、他のベントグリーンが簡単に感じるでしょう。飛距離は?
攝津 キャリーで250、260ヤードでしょうか。
小田 僕と一緒です(笑)。
攝津 プロは球筋や球質の内容が違いますから。僕は自己流なので限界がある。基本がないから一度崩れるとどうしようもなくなる。
小田 でもゴルフに正解はない。トップしてもピンに向かえばそれが正解なのかもしれない。理想の球が出ても、突然風が吹いたらそれは理想ではなくなります。完璧なショットなのに、なんで曲がったの……と謎が増えていく。僕が達成したホールインワンは4回ですが、完璧なショットは2回です。完璧を求めるのがゴルフです。タイガーだってマキロイだってあれだけ強いのにスウィングを変えたりするのは、もっと上がある、飛ばしたいなんて思うから。
攝津 若い選手との違いはありますか? 僕は本当に細かく、ここをこう攻めて最後はこう崩してと考えて投げるタイプですけど、今のピッチャーって、球の質で勝負する人が多い。スピードが速くて、ビュッと伸びる球でとりあえずここら辺に投げてと。
野球とゴルフの共通点、「回転数」について
小田 へえ。僕らと似ているかも。僕らはクラブの進化に比例して技術を磨いてきた。それと最初から460CCのヘッドのドライバーで打ってきた人間は違う。昔は曲げないと飛ばなかったんですから。
攝津 今は真っすぐですか。
小田 飛ぶ技術が自然にできるんです。そういえば最近は野球でもトラックマンを使ってますよね。
攝津 バレルゾーンなんかすごい。この打球角度にしたら一番ヒットが出るとか、ホームランになりやすいという。打球スピードを測ってスウィングの軌道などで打ち出し角度なんかも出るんです。
小田 ピッチャーは逆にその角度に行かせないような球を投げるんですか?
攝津 そうではなくて回転数です。
小田 回転数が多ければ、ゴロになったりテンプラになったり……でもそれを手先でコントロールするんですよね。
攝津 回転数が多かったら伸びもありますけど、逆に回転数が多くなくても球の軸が極めて真っすぐだったら伸びになるんです。今は1球ずつ計測して練習します。昔はボールに目印を付けてハイスピードカメラで撮影し、コマ数と1周に何秒かかったかを計算してやってたんですよ。
小田 すごいですね。攝津さん、ゴルフクラブにもこだわりそう。
攝津 道具は打感やフィーリングでけっこう変えます。今、ドライバーはピンでアイアンはスリクソンです。僕、めっちゃスピン量があるんです。だから、シャフトはテンセイの8Xとベンタスのブラックの6Xにしています。
小田 やばい(笑)。テンセイはヘッドも重くしないとバランスが合わない。ベンタスのほうがラクですけど、パワーがあればテンセイのほうが曲がらないかもしれないですね。
攝津 テンセイはヘッドに鉛をつけてさらに重くしています。それにしても日替わりです。ドライバーが真っすぐにいったらアイアンは曲がったりします。
小田 スウィングが別だと思ったほうがいいですよ。アイアンの感覚で打ってドライバーが左に行くのは上からヘッドが入ってくるから。でも、今のクラブは慣性モーメントが大きいので、引っ張ったら右に行く。僕はスウィングや球筋を何度か見て、腰の向きと球の位置をアドバイスします。ボールを左に置きすぎる人は左に飛んで、真ん中から右にある人は右に飛ぶ。まあ、今のクラブは曲がらないと思ったほうがいいです。
攝津 でもゴルフって、ドライバーにきちんと当たったら気持ちいいし、あとはベストが出そうで出ない、あと1打というときに何かやらかして「ああー」となるギリギリ感が好きです(笑)。
小田 あのときの1打、池に入れなければ、3パットしなければと(笑)。ベストスコアは?
攝津 80です。最終ホールでいきなりOBを打って終わったーとなる。自分の弱さがわかるんです。
小田 スコアを数え始めたらダメなんですよね。
50代を前にして、セカンドライフを考える
小田 ところで攝津さん、セカンドライフは考えています?
攝津 野球に関しては解説などで携われているので幸せです。距離を置いて外から見ながら関わるのもいいものですよ。なおかつ今は、自分の時間がしっかり取れる。
小田 コーチや監督の話などがあったらどうしますか?
攝津 今はあまり興味ないですね。月曜日しか休みのない現役の生活を今またすぐに、とは正直考えづらい。子どもが小さいので(2歳、6歳)、育つ過程を見られますし。
小田 50歳、60歳になると考えが変わるかもしれませんね。
攝津 そうだと思います。
小田 休みたい時期ってありますよ。僕も引退となれば、毎日釣りに行きたいし仲間内でわいわいゴルフもしたい。試合だと本気モードになるし、人から見られる生活のプレッシャーはある。
攝津 僕も今はもう、居酒屋で隣のおっちゃんと一緒に飲むくらいですけど、現役のときは常に構えていましたね。でも今、子どもたちや学生に野球を教えるのが面白いと感じています。
小田 僕はJGTOの活動でスナッグゴルフを広げている。ゴルフ自体につなげたいんです。競技人口を増やさないと、競技団体自体も大きくならない。子どもたちがやってくれないとダメです。
攝津 そうですね。この前のWBCで野球を知らない人も興味を持ってくれました。
小田 日本の特徴は、パーっと盛り上がるけどすぐにしぼむこと。でも、日本人が世界大会で活躍するのはやはり嬉しいこと。毎年日本で何かしらスポーツイベントをやってほしいです。また僕は、若い選手と一緒にラウンドしたりしています。僕が逆にパワーをもらい、負けたくない! となる。若手も僕に勝ったら、シード選手になれる自信がつく。そして、試合会場でツアーにすんなり溶け込めるように、僕の名前を使えばいいと言っています。
小田 解説の仕事は面白いですか? 僕もけっこう好きなんです。しゃべるのが好きみたい。
攝津 はい。けっこう好きなことを言ってます。最初は気を遣っていいことばかり言おうとしていましたが、最近は思ったことを言うようにしています。選手の批判ではなく、攻め方についてなど。
小田 あとで電話がかかってきたりしないですか(笑)。でも解説ももっと面白いほうがいい。オリンピックでも、スケボーの「びったびた!」のほうが盛り上がった。
攝津 自分の色は出たほうが面白いですよね。
小田 でも、東北弁は出ませんね。
攝津 住んでいたのは中高だけなので。自分の祖父や祖母と話をしても全然わからないくらい。僕の子どもは博多弁ですよ。
小田 「バイ」って言います?
攝津 はい。「〇〇と?」なんて。
小田 「ようきんしゃったね」なんて全国の人が好きな言葉です。
攝津 福岡でよかったです(笑)。
小田 生まれ変わっても野球選手になりますか?
攝津 イヤです。もっと皆と同じ生活をしたいです。学生のときに普通のことができなかったので。
小田 でも、だから一流なんです。小さい頃何かを犠牲にしたから今がある。親は嫌われる覚悟でやらせないといけない。実際僕は親が嫌いです、やらされたから。でも、今となっては、だから今の自分があることもわかると感じたり……。
攝津 実は僕は何も言われなかったんです。野放しで野球もずっと自分で続けたという感じ。同じことをずっとするのが特技なんです。「これはちょっと違うな」ということを考えて積み重ねるのが好きなんでしょうね。
「目標を探すのが目標」の摂津と「シニアの賞金王が目標」の小田
小田 攝津さんみたいな人はゴルフも真剣にやれば上手くなります。でも、何かを成すには才能や努力も必要ですが、その道に導いてくれた親、監督、周りの方々……。
攝津 環境ですよね。
小田 僕もいい人たちと巡り合えたから今があります。有名になったらいろんな人が寄ってくる。でも、調子が悪くなって助けてくれる人は昔からの知人です。
攝津 僕も若いときはどちらかというと怠けるタイプの人と付き合ったけど、これじゃダメだと真面目な先輩についていくようにして、自分でもしっかり練習するようになって一気に伸びました。
小田 縁ですよね。身近に悪い人しかいなかったら……それに、拒否できる力。何もかも「はい」ではなく、「できません」という力がないと。どの世界でもそうです。いい人かどうか判断するのも自分の力です。僕、話をするときに目を反らす人はイマイチ信用できないんですよ。
攝津 そうなんですか(笑)。きょろきょろしないようにしよう。
小田 最後に今後の目標を。僕は日本でシニアの賞金王になって、米シニアツアーに行き、全米シニアや全英シニアなどメジャーに勝ちたいですね。元気なうちがいいので、50歳、51歳の2年にかけます。あとは、九州サーキットなどの試合をもっと増やして、独立リーグのようなものを作り、試合に出られない若手が参加できるようにしたい。まずは自分の住んでいる九州から始めて、そこから日本のゴルフ界を変えていければいいなと。これは夢です。
攝津 すごい、そういう前例を作れば、他の地域でもできるかもしれませんね。僕は、目標を探すのが目標です。何か形になることをやりたいので、まずはファンが何を求めているかもっと知りたいし勉強したい。現役時代は自分主導で思っていることを自分の言葉で発すればいい、だったんですけど、説明する側の人間になったら、初めて見る人にも専門用語も含めて、とにかくわかりやすく解説していきたいと思いますね。
小田 お互い、ここからですね。釣りも楽しみながら、がんばっていきましょう。
PHOTO/Shinji Osawa
※週刊ゴルフダイジェスト2023年7月11日号「40代アスリート対談 小田孔明×摂津正」より