世界ランキングの大幅な変更点
世界ランキングの大幅なシステム変更は、一昨年の8月にその内容が発表された。そして発表から1年後の昨年8月に新しいシステムによる算出が始まったのだが、システム自体が複雑なため、どれほど大きな影響が出るかを予測できた人はそれほど多くはなかったようだ。まずは、変更点をおさらいしておこう。
過去2年間に出場した大会で獲得したポイントの平均によってランク付けされるのは、これまでと変わらない。直近の大会の成績を重視するために、獲得したポイントが14週後から毎週1.09%ずつ減っていくのも変わらない。
システムの変更で大きく変わったのは、各大会の格付けの方法だ。
同じ優勝するのでも、メジャーで優勝するのと、小さな大会で優勝するのでは、その価値は違う。当然、獲得できるポイントにも差が出るのだが、システム変更前はそれを「ミニマムポイント」によって調整していた。
各ツアーのレベルにより、米ツアーと欧州ツアーの優勝者には最低でも24ポイント、日本とオーストラレイジアツアーでは16ポイントというように、ミニマムポイントが設定されていた。
さらに「フラッグシップ」と呼ばれる特別な大会にもミニマムポイントが設定されており、メジャー優勝者は100ポイント、日本オープンは32ポイントとなっていた。
今回のシステム変更の一番大きなポイントは、メジャーとザ・プレーヤーズ選手権を除く、すべてのミニマムポイントが廃止されたことだ。
では、新しいシステムではどうやって各大会の格付けを決めるのか。それが「フィールドレーティング」というものだ。
各選手の“実力”は今回新たに導入された「SGワールドレーティング(SGWR)」によって評価される。
これは、過去2年間の各ラウンドのスコアを、相対的な難易度によって調整したSG(ストローク・ゲインド)データで、直近の成績ほど加重されている。このSGWRによって、各選手の「パフォーマンスポイント」が算出され、その大会に出場した選手のパフォーマンスポイントの合計がフィールドレーティングだ。この数値によって、その大会で獲得できるポイントが決まるのだ。
つまり、フィールドが厚い大会では多くのポイントを獲得でき、薄い大会では少ないポイントしか獲得できないということだ。
こうした変更の結果、日本オープン優勝者の獲得ポイントは、約4分の1に減ってしまったのだ。
アメリカの下部ツアーは日本ツアーより"層が厚い"
世界ランキングのシステム変更によって、世界の各ツアーはどんな影響を受けているのだろうか。
それを知るために、今年の各ツアーの優勝者の平均獲得ポイントを調べてみた。
まずは日本ツアーだが、優勝者の平均獲得ポイントは約7.4ポイント。変更前は最低でも16ポイントを獲得できていたので、半減している。
今年の日本ツアーで獲得ポイントが一番多かったのは、欧州ツアーとの共催大会の「ISPS HANDA欧州・日本どっちが勝つかトーナメント!」で約19.2ポイント。
2番目が韓国ツアーとの共催の「ハナ銀行インビテーショナル」の約7.3ポイントなので、群を抜いて多いのがわかる。
やはり欧州ツアーとの共催だったことでフィールドレーティングが上がり、獲得ポイントも格段に多くなったのだ。
このフィールドレーティングだが、日本ツアーの平均は約42.5。
ちなみにマスターズは335.3で、全米オープンは421.7。全米プロが一番高く、462.5。マスターズは出場選手が他のメジャーよりも少ないので、フィールドレーティングは上がりにくい。
ちなみに米ツアーのフラッグシップ大会であるザ・プレーヤーズ選手権のフィールドレーティングは全米オープンを超える434.5。これだけフィールドが厚いからこそ、“第5のメジャー"と呼ばれるのだ。
米ツアーのフィールドの厚さは、他のツアーを圧倒している。そして、驚くことに欧州ツアーの次に層が厚いのが、米2部ツアーに当たるコーンフェリーなのだ。さらに、日本ツアーよりもアジアンツアーのほうがフィールドレーティングが高いことにも驚かされる。
アジアンツアーには、LIVゴルフがサポートする高額賞金の「インタナーショナルシリーズ」があり、その大会に世界から強豪選手が出場することで、フィールドレーティングが上がっているのだ。
システム変更で日本ツアー以上に大きな影響を受けているのが、オーストラレイジアツアーで、優勝者の平均獲得ポイントは2ポイントを切る。これはABEMAツアーを下回るというショッキングなデータだ。
変更前に5人いたトップ100の日本選手が、松山英樹一人に
さて日本ツアーの選手のランクはどうなっているのだろうか。
システム変更前の昨年8月には、トップ100に5人の日本人選手がいたが、約1年が経過してみると、トップ100にいるのは米ツアーを主戦場とする松山英樹だけになってしまった。このままだと日本からメジャーに出場する選手は減っていくだろう。
この事態の解決には、日本ツアーで欧州やアジアンツアーとの共催大会を増やすことがカギとなるだろう。
※データは7月19日時点
PHOTO/Tadashi Anezaki、Hiroaki Arihara、Blue Sky Photos
※週刊ゴルフダイジェスト2023年8月8日号「『世界ランキング』はどう変わったのか?」より