「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太がゴルフスウィングの「軸」ついて解説する。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて先週行われましたフェデックスセントジュード選手権では、松山英樹選手が最終日最終6ホールで驚異の追い上げを見せ、ランキングを47位に上げてプレーオフ第2戦への出場権を確保しました

次戦で上位に入れば十年連続でのツアー最終戦出場という金字塔を打ち立てることになりますが、十年も「ブレず」に高いレベルを維持し続けるというのは並大抵の努力ではなし得ないことだと思うのですね。ちなみにこの連載も91回目でまもなく丸二年になりますがそんなに大変ではありません。なんでなんでしょうね?

ブレのないスウィング軸を持つ松山英樹

さて松山選手と言えば、その成績もさることながら、スウィングにもまったく「ブレ」を感じさせないわけです。

画像: 画像A トップからダウンスウィングにかけて頭部が深く沈み込み、フォローではPGAツアー随一のステイビハインドザボールによって、クラブヘッドを大きく目標方向に振り出している松山英樹のスウィング(写真/Blue Sky Photos)

画像A トップからダウンスウィングにかけて頭部が深く沈み込み、フォローではPGAツアー随一のステイビハインドザボールによって、クラブヘッドを大きく目標方向に振り出している松山英樹のスウィング(写真/Blue Sky Photos)

この「ブレのなさ」は、「スウィングの軸がブレていない」ということだと思いますが、今回はゴルフスウィングの「軸」とは何かについてです。

「軸」とは背骨?首の付け根?

ゴルフにおいていわゆる「軸がブレている」状態というのは、例えば前傾角度が維持できない、あるいはスウェイや突っ込みなどが起きている状態と考えられますが、どうも日本のゴルフ界ではこのスウィングの「軸」を背骨のあたり、あるいは背骨と肩のラインが交差する首の付け根あたりと説明することが多いように思えます。

確かに、両肩と両腕の三角形でできている「大きな振り子」の回転の中心としてはそのあたりになると思います。おそらくその概念から、軸をキープして体幹をターンさせればゴルフスウィングになるという発想が生まれてくるのだと思いますが、実際にはそう簡単な話にはならないはずなのです。

というのは、ゴルフスウィングを物理的に捉えれば、ある回転体があるとして、端っこに「軸」が存在するとは考えづらいからです。

ハンマー投げで考えて見る

ゴルフと似ている運動ではありますが、振り回しているものが極端に重いハンマー投げで考えて見ます。

画像: 画像B ハンマーの速度が向上するにつれ、選手は身体を反対方向に傾けて遠心力に対抗しなければならない。その時に中心軸は双方の中間のどこかになる

画像B ハンマーの速度が向上するにつれ、選手は身体を反対方向に傾けて遠心力に対抗しなければならない。その時に中心軸は双方の中間のどこかになる

ハンマーを振り回すと、先端のおもりに遠心力がかかってきます。そしてその遠心力に対して、選手は体をおもりと反対方向に倒すなどして対抗します。ハンマー投げのグルグル回っている状態はその二つのパワーが拮抗した状態で発生しますが、この時の軸は画像Bのようになります。

つまり、この回転体の「軸」は必ず選手とおもりの中間のどこかに位置するはずなのです。このときこの軸は、選手の体重が重いほど選手よりになり、またおもりが重い、あるいはワイヤーが長くなるほどおもりの方によります。

ちなみにこのお互いのパワーを拮抗させて回転して速度を稼ぐことによって、ハンマー投げの世界記録は80mを超えています。同じ重さの砲丸をただ投げる「砲丸投げ」(世界23mほど)記録に比べて4倍近くも遠くに飛ばせることになります。

ザ・ゴルフィングマシーンの考える「軸」

もちろんゴルフスウィングとハンマー投げでは振り回しているヘッドの重量が大きく異なりますが、それでも高速でクラブヘッドを振り回した際に発生する遠心力に対抗しなければならない点は同様です。そしてそれに失敗しているのが「軸がブレている」状態ということになります。

ということは、ゴルフスウィングを回転体と捉えたときの「軸」は、やはり選手とクラブヘッドの中間のどこかになります。クラブヘッドはハンマーほど重くないので、その軸が選手の体よりになっているだけです。

画像: 画像C ザ・ゴルフィングマシーンの提唱する、「スウィングの中心軸」。もしゴルフスウィングがハンマー投げのように何度か回転を行うとすれば、その中心軸は赤線になるはずである

画像C ザ・ゴルフィングマシーンの提唱する、「スウィングの中心軸」。もしゴルフスウィングがハンマー投げのように何度か回転を行うとすれば、その中心軸は赤線になるはずである

ザ・ゴルフイングマシーンでは、スウィングの「中心軸」について、「頭頂部と、両足の中央を結ぶ線」と表現していますが、その根拠は、地面の摩擦によって安定を得られる両足の中央と、重量のある頭部を結ぶところが回転運動の中心軸になるはずだというわけです。

とりあえず心がけるべきなのは?

さて、このようにスウィングの「軸」を考えることで、私たちのゴルフスウィングにどのように役立てることができるでしょうか。

実際のゴルフスウィングでは、「小さい振り子」つまり両腕の旋回によるパワーも加わりますし、またクラブヘッドにかかる遠心力も、クラブの長さやスウィングのスピードによって変化します。

しかしそれが小さい動作になるとしても、発生する作用がゼロになるわけではありません。つまりクラブヘッドが持つ遠心力そのほかのエネルギーに対して、プレーヤーは常にそのエネルギーに拮抗するための作用を加えることが必要になります。

画像: 画像D ダウンスウィングのクラブヘッドのエネルギーに対して、対抗する作用を生み出せなければ、身体がボールに近づきすぎるアーリーエクステンション(左)になり、しっかりと対抗できているならばフォローではビハインドザボール(右)になるはずである(写真左はTPIより抜粋 写真右/Blue Sky Photos)

画像D ダウンスウィングのクラブヘッドのエネルギーに対して、対抗する作用を生み出せなければ、身体がボールに近づきすぎるアーリーエクステンション(左)になり、しっかりと対抗できているならばフォローではビハインドザボール(右)になるはずである(写真左はTPIより抜粋 写真右/Blue Sky Photos)

例えば、ダウンスウィングで体がボールに近づいていく、あるいはその結果伸び上がるという状態は、クラブヘッドの遠心力に対抗できていないことになります。

また加速して目標方向に移動するヘッドのエネルギーに対抗するためには、(そのスウィングのスピードが速いほど)、フォローでは体を反対方向に傾けて対抗する必要があります。そうすると松山選手のようなステイ・ビハインド・ザ・ボールになるはずです。

このように考えると、「良くない」とされる動作が、なぜ良くないのか、あるいはプロや上級者の動作が「なぜ」そうなるのかも見えてくるのではないでしょうか。

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