コーチ専用のゴルフスウィング解析アプリ「スポーツボックスAI」は、スウィング動画をAIによる3D解析技術でデータ化することができる。今回はBMW選手権で優勝したビクトル・ホブランを「スポーツボックスAI」の3Dデータをもとに解説、真似るべき動きが身につくドリルをゴルフコーチ・北野達郎に教えてもらった。

みなさんこんにちは。SPORTSBOX AI・3Dスタッフコーチの北野 達郎です。今回はBMW選手権で最終日61をマークして逆転優勝した、ビクトル ・ホブランをスポーツボックスAIで分析してみましょう。

ホブランのスウィングの三つの特徴

ホブランは今季PGAツアー2勝に加えて全米プロゴルフ選手権でも2位タイに入るなど、現在フェデックスカップランキング2位の選手です。スウィングの特徴は、(1)胸と骨盤の回転量が多い。(2)インパクトにかけて下への沈み込みが大きい。(3)フェースローテーションが少ない。の3点が主な特徴です。それでは早速見ていきましょう。

まずグリップとアドレスですが、左手をストロンググリップで握ります。これはホブランがフェースを開かず返さないタイプの選手である事に関連しています。アドレスでは骨盤→胸→頭と、それぞれの中心が徐々に右に傾いたビハインド・ザ・ボールのアドレスを取ります。このビハインド・ザ・ボールの位置関係は、インパクトまでずっと保ったまま振っているのが彼の特徴です。

画像: 左手の甲が正面から見えるストロンググリップで握るビクトル・ホブラン。スウィング中フェースを開かず、返さないように使う

左手の甲が正面から見えるストロンググリップで握るビクトル・ホブラン。スウィング中フェースを開かず、返さないように使う

次にトップを見てみましょう。胸の回転量を表す「CHEST TURN」は−103.8°、骨盤の回転量を表す「PELVIS TURN」は−47.1°、胸と骨盤の捻転差を表す「X-FACTOR」は−62.6°です。この中で胸の回転量と捻転差は、いずれもSPORTSBOX AI社が独自で調査したツアーレンジ(PGAツアープレーヤーの範囲)を大きく上回ります。ウェアにある背中のロゴマークがはっきり見えるのがその証拠です。

画像: トップでの上半身と下半身の捻転差はツアーの平均を大きく上回る

トップでの上半身と下半身の捻転差はツアーの平均を大きく上回る

そして大きな回転を補助しているのが「FOREHEAD SWAY」(頭の左右の移動量)です。アドレスに比べて頭が−8.7cm右に移動しています。これはキャップのつばとロゴマークがアドレスに比べて右に向いている事から、頭も右に回転する事で結果として右に移動していると言えます。

昔から「トップでは、左目の上でボールを見ましょう」というレッスンがありますが、こうして頭を右に向ける事で、クラブをインサイドから自然に下ろしやすくなりますので、特にドライバーショットでは効果的です。アウトサイドイン軌道のスライスにお悩みの方は、ホブランのように頭が少し右に向くくらいに、胸を大きく回転していくとスウィング軌道改善の効果が期待できます。

そしてインパクトを見てみましょう。インパクトのデータで興味深いのは「CHEST SIDE BEND」(胸の側屈)と「LIFT」(上下の移動)のデータで、胸の側屈は38.4°右に傾いており、PGAツアーレンジ(25.3°〜37.3°)と比べるとやや多めに右に傾きます。アバターの骨盤の中心に比べて胸と頭の中心が右足側に残っているのが分かります。

画像: インパクトではビハインド・ザ・ボールで右への傾きが大きくなる

インパクトではビハインド・ザ・ボールで右への傾きが大きくなる

そして上下の移動は骨盤−4.4cm、胸−7cm、頭−14.7cmと、いずれもアドレスより下に深く沈んでいる事が見て取れます。骨盤から頭に向かって下がる量が増えていますが、これはアドレスに比べて前傾が深くなっている事を意味しています。

通常、胸の右への側屈が多くなると、前傾が起き上がってしまうケースが多いですが、ホブランの場合は切り返しからインパクトにかけて深く沈み込むことで前傾が起き上がる事なくインパクトできています。

先程アドレスのポジションの際にビハインド・ザ・ボールの位置関係がインパクトまでキープされるとご紹介しましたが、前傾も深く、ハンドファーストでインパクトするホブランの場合、恐らくこのポジションでないとクラブがダウンブローに入り過ぎてしまうのではないかと思います。ビハインド・ザ・ボールを保つ事で、レベルブローなインパクトになっています。 

最後にフォロースルーを見てみましょう。ホブランはストロンググリップで、スウィング中フェースを開かずに振るタイプですが、それが見て取れるのがフォロースルーのデータです。「SHAFT ANGLE FACE ON」は正面から見たときのシャフトの角度で、アドレスに近い位置が0°として、P8(シャフトが地面と平行)の位置で90°になります。

画像: フォローでもフェースを返す動きは見られず、体の回転量は多い

フォローでもフェースを返す動きは見られず、体の回転量は多い

このP8の位置に両手がどの高さで来るかによって、フェースローテーションが多いか少ないかが分かりますが、ホブランの「MID-HANDS LIFT」(両手の上下の移動・アドレスを0とする)は、39.7cmです。これはPGAツアーレンジ(30cm〜41.7cm)の範囲で比較すると、かなり高い位置でシャフトが地面と平行になっている事が確認できます。

ほぼP9(右腕が地面と平行)のポジションで、まだ左手のグローブが右手より僅かに上に見えています。一方で、例えばフィル・ミケルソンのような腕のローテーションを使ってフェースを閉じるタイプの選手は、もっと両手が低いポジションでP8を迎え、後ろの手が前の手にかぶさります。ホブランの場合は、P8のポジションで両手が高く、右手が左手にかぶさるのが遅いことから、「フェースを返さず体の回転量の多いタイプ」の選手であると言えます。

今回はビクトル ・ホブランのスウィングを解析させて頂きました。回転、側屈、前傾と、スウィングにおける身体の回転に関わる数値がどれも非常に大きいことに加えて、フェースローテーションが少ないホブランのスウィング。若さと高い身体能力で充分な飛距離を確保しつつ、フェースローテーションを抑えたフェードボールで、方向性にも優れた現代のスウィングの申し子と言えるますね。PGAツアープレーオフ最終戦「ツアー選手権」では首位のスコッティ・シェフラーに2打差の8アンダーからスタートするビクトル・ホブラン。年間王者獲得でビッグマネーを手にできるか、期待しています。

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