みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて先週はPGAツアーの最終戦、ツアー選手権が行われ、ビクトル・ホブラン選手が、前週のBMW選手権優勝の勢いをそのままに連勝を飾り、25歳にして初のPGAツアー年間王者になりました。
今回の記事はその特徴的なスウィングについてです。昨年の「ZOZOチャンピオンシップ」に出場した際の画像を使って解説しますが、今年もその姿を見られるかもしれませんね。
始動で手元をインに引く
まずこの選手は、バックスウィングの始動でかなり極端に手元をインに動かします。通常このように引いて行くとかつての渋野日向子選手のように低い位置でのトップになりやすいのですが、ホブラン選手は右ひじの曲がりを抑えてフェースを極端にシャットに保って上げていきます。
一般にアマチュアの方などで「インに引きすぎる」場合、早い段階で右ひじが曲がって背中側に両手とクラブが外れてしまうことが多いのですが、ホブラン選手は右ひじを曲げないことでそれを防いでいます。
さらに上げ続けて、高いトップから振り下ろす
さらにそのまま上げ続けることで、両手の長さの都合上、両手とクラブがアウトサイド側にループしてきます。結果トップの位置だけを見れば一般的な選手と変わらない高さになりますが、背中側からループしてきた慣性を利用して、このまま垂直にクラブを振り下ろすダウンスウィングになります。
この結果、放たれるショットはほぼ真っ直ぐに、わずかにフェード回転のかかった高い打ち出しのボールになります。今大会でもこのようなショットでドライバーではフェアウェイを着実にキープし、アイアンショットではグリーンの狭いサイドを攻めまくってバーディを量産しました。
同じフェードヒッターでも、ウィンダム・クラーク選手のフェードなどは結構曲がり幅がありますが、ホブラン選手のボールはとにかくほぼ真っ直ぐとい言って良いほど曲がり幅が少ないです。
昨今の一般的なスウィングでは、バックスウィングの高いプレーンから、ダウンスウィングで浅い(シャロー)なプレーンに移行してインパクトを迎えるわけですが、ホブラン選手は浅いバックスウィングのシャローなプレーンから、ダウンスウィングで急勾配(スティープ)なプレーンに移行してインパクトをしていますので、言うなれば、「シャローイング」の反対で「スティーピング」のスウィングとなります。
ではこのスウィングにどのようなメリットがあるのかということです。
「スティーピング」のメリット
こうしたスウィングの傾向は、以前にこのコラムで「次世代型スウィング」として取り上げた、今年のマスターズでローアマを獲得したサム・ベネット選手のスウィングにも共通しています。
一般的なシャロースウィングがインアウトのインパクト軌道を作りやすいのに対し、低いプレーンのバックスウィングから、スティープな軌道のダウンスウィングに移行することで、ほぼストレートなインパクト軌道を作り出すことができます。
加えて、バックスウィングでは極端にシャットフェース、またフォローに向けてこれまた、これまた極端にオープンフェースにすることで、フェースがスウィング中ずっと目標方向を向いたままになりますので、ボールが曲がる要素をほぼ極限まで取り除いていると言えるでしょう。
ちなみにこのフェースを「閉じながら上げて、開きながら下ろす」というのは、見た目は全く異なりますがブライソン・デシャンボーも同じシステムです。ちなみにちなみに、デシャンボーもホブランもベネットもマスターズでローアマを獲得した選手です。どうでもいいですが。
しかし最大のメリットは、シャロースウィングがダウンスウィングで手元が身体側に近づいてくるのに対して、このスウィングでは手元と体幹の干渉がほぼなくなる点です。
この「ダウンスウィングの最中に体幹と右ひじが干渉する」、いわゆる「詰まる」状態は、特にアマチュアでは発生しがちな問題です。ダウンスウィングに向けて体が伸び上がる「アーリーエクステンション」といった現象とも関連して、原因が多岐にわたる結構やっかいな問題です。
「シャローイング」の意識を持つことで、逆にこの上体の伸び上がりが抑えられる場合もありますが、「スティーピング」のほうが「詰まり」のないスムースなスウィングになりやすいと思います。
一方この手法は、ボールの捕まりすぎを抑える手法でもあるため、スライサーにはおすすめできないかも知れません。
ザ・ゴルフィングマシーンではこれが「ノーマル」
ここまでの文章を読んでいただくと、なにやら新しい手法のように思われるかも知れませんが(というかそう見えるように書いてきたのですが)、長いゴルフの歴史で見れば実は全く新しい手法ではありません。
それどころか、かつてはこの手法がスタンダードであったかも知れないのです。というのは、ザ・ゴルフィングマシーンではこのスウィングプレーンのシフトについてはおよそ10個のバリエーションがあるとしているのですが、その中で低いバックスウィングプレーンから高いダウンプレーンに移行することを「ノーマルシフト」とし、現在では一般的な高いバックスウィングプレーンから低いダウンプレーンへの移行を「リバースシフト」と呼んでいるのですね。
つまり1960年代においては、ホブランやベネットのようなスウィングの方が多数派だった可能性もあります。
あくまで想像ですが、その時代のパーシモンドライバーは体積が小さいため、プロにとっては捕まりが良すぎたのかもしれません。そしてそれを補正するためにフェードを打ちやすいスウィングが多数派だったのに対して、現在のドライバーは大型化したことで捕まえるスウィングをしても曲がり幅が減ったことから、インアウト軌道でぶっ飛ばすという流行になったのかもしれません。
そして飛距離が充分になると、今度はそれをフェアウェイ上で止める必要性のためにまたフェードスウィングが流行り…という具合に時代が繰り返している可能性があります。
ちなみに今回のホブラン選手は、フェアウェイキープ率やショットの正確性ももちろん素晴らかったのですが、加えてパットが信じられないほど入っていました。「そんなの無敵じゃん」と思ってしまうのですが、ライダーカップ、また来シーズンに向けても活躍を期待したいと思います。